『ジョーカー』が悪を肯定しているか?私的な映画遍歴からの考察と、音楽について

話題の『ジョーカー』観ましたか?
悪を肯定する内容ではないか?と物議をかもし、想像を超える大ヒットを記録し一部で危険視されている。

ジョーカーといえば、クリストファー・ノーランの『ダークナイト』が衝撃でした。バットマンや市民をおいつめていく姿には恐怖を覚え、私はトラウマレベル?になるほど心を捕らえられました。実際、この『ダークナイト』のジョーカーに触発された銃殺時間も起こっています。

今回、この『ジョーカー』をきっかけに、この『ダークナイト』の衝撃について考えました。自分は知らず知らずのうちに、この『ダークナイト』に深い影響を受けていたんだなと思います。いろんな映画を観ながら、この善悪についての問題を考えさせられ続けてきた。

wwws.warnerbros.co.jp


『ジョーカー』心優しき男がなぜ悪のカリスマへ変貌したのか!? 衝撃の予告編解禁

 

ハービー・デントはなぜ悪に堕ちたか? 

ダークナイト』といえばジョーカーですが、もちろん主役はバットマン。そしてもう一人、ハービー・デントという登場人物がいます。

ハービーは、ゴッサムシティの良心とされる検事。バットマン、ゴードン刑事、バットマンの元カノのレイチェル、ゴッサムシティの住民、、みんなが惚れる正義のカリスマ(ホワイト・ナイト)、うじうじ悩んでいるバットマンに代わって、街を悪から救ってくれる希望の星。
ところが映画後半、そんなハービー・デントをジョーカーが容赦なく木っ端みじんに悪に引きずり下ろします。最終的にはバットマンが清濁併せ呑む形で闇の騎士(ダークナイト)として、都合の悪い事実をもみ消して「正義」を守ります。

冷静に振り返ると、ハービー・デントがどうして悪に堕ちたのかをもっと丁寧に描いてくれれば、、と思います。(尺的に無理だったのだろう。)
また続編の『ダークナイトライジング』で、スカッとした正義の勝利を描いてくれなかったことはトラウマを引きずる原因だったと思います。(『ダークナイトライジング』も充分面白い)

クリストファー・ノーランは『インセプション』を経て、『インターステラー』で正義や愛、自己犠牲を、科学の進化によって成し遂げる希望的な結末を描きました。
この作品によって、私自身は『ダークナイト』とジョーカーのトラウマは払しょくでき救われたのだと思います。

また、全世界で記録的にヒットした『アヴェンジャーズ』などマーベル作品も、テクノロジーや科学などの進化と「正義」についての葛藤が多く展開されており、最終的に、最強の悪サノスにアヴェンジャーズたちが、こてんぱんにやられる『インフィニティ・ウォー』でトラウマ級のショックを与え、1年後公開というスピードで公開された続編『エンドゲーム』で、正義が勝利する結末を描いています。

アベンジャーズ』シリーズは、ノーラン作品が辿ったテーマを誰もが楽しめるような娯楽作に昇華したと思います。
そのように映画体験を通じて、善と悪のテーマを追い続けてきたゆえに、私は『ジョーカー』が悪を肯定しているとは思えない。

インターステラー』や『アベンジャーズ』が描くテクノロジーが切り開く未来も『ジョーカー』が描く厳しい現実もフィクションであり、だからこそ最高に楽しい。

 

『ジョーカー』の音楽を手掛ける注目の音楽家ヒルドゥル・グーナドッティル

さて、音楽ブログなので、この映画の音楽について紹介しておきたい。
そんな『ジョーカー』のサントラを手掛けたのはヒルドゥル・グーナドティルHildur Gudnadottir。アイスランドの女性作曲家。

自ら演奏するチェロの旋律で、アーサーを追い詰めていく不安や痛みを聴覚から心の奥底にまで伝えていて、今も劇場でチェロが鳴り響く快感を思い出す。

ヒルドゥルは、エレクトロ音楽の分野で有名なグループ、múm(ムーム)のメンバーでもあり、同じくアイスランド出身、昨年亡くなったヨハン・ヨハンソンの弟子として、映画音楽の世界で急速に評価を得ている新鋭作曲家だ。

師匠のヨハンが手掛けたヴィルヌーヴ監督の『プリゾナーズ』『ボーダーライン』『メッセージ』などに参加、その続編である『ボーダーライン:ソルジャーズデイ』の音楽を手掛けた。数々の映画祭で音楽賞を受賞している注目の作曲家。


『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』海外版ロング予告

『ジョーカー』で流れる心の内側をキリキリと締め付け、底知れない不安を感じさせる電子音やチェロは、通奏低音は、『メッセージ』や『ボーダーライン』といったヴィルヌーヴ監督作品が好きな人にはお馴染みのアノ感じだ。

ヨハン・ヨハンソンが亡くなり残念に思っていたが、このような後継者がいる事を知って正直に嬉しい。

あと、ノーラン作品でも、ハンス・ジマーが『インターステラー』や『ダンケルク』で作り上げたアプローチにも近い。

彼女は『チェルノブイリ』というドキュメンタリーの音楽も手掛け高く評価されている。こちらも素晴らしい。

監督のトッド・フィリップスは、このヒルドゥルの音楽に大きなインスピレーションを得たと語っている。脚本時点でジョーカーの描き方をヒルドゥルに相談し、上がってきた曲を主演のホアキン・フェニックスに聴かせた際、その曲に合わせてスローダンスを踊りはじめた事で、彼も監督もジョーカーを掴んだという。
この映画における演技、映像、音楽が生き物のように一体となって脈打っているように感じるのは、そういう背景があるのだろう。

 

ポストクラシカル系音楽と内面描写

今作のように、いわゆるポストクラシカルと呼ばれる、現代クラッシックやエレクトロをミックスさせたジャンル。これらは、メインストリームの映画において年々存在感を増してきている。

ヨハン・ヨハンソン同様、それらの流れを代表するドイツ人作曲家マックス・リヒターも、ブラット・ピット主演のSF映画『アド・アストラ』の音楽を手掛けた。

ブラッド・ピットは映画の中の男性ヒーロー像を変えたかったと意図を明らかにしている。宇宙空間において人間の心の内側に深く潜るような感覚は、『インターステラー』や『メッセージ』に近い。そんな作品に流れるミニマルやエレクトロを取り入れたスコアは、人類史上の転換期において悩み苦しむ人間のテーマソングのような響きを鳴らしている。


映画『アド・アストラ』本編映像 9月20日(金)公開

 

そして、この『ジョーカー』のヒットで、今後益々注目が高まるだろうヒルドゥル・グーナドッティルに注目していきたい。

 

『ジョーカー』 とヒルドゥル・グーナドッティル関連楽曲でSpotifyプレイリスト作りました。聴いてみてください!

 

脇田敬

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音楽とテクノロジー~イノフェス2019 とTECHS in TIMM~

デジタルテクノロジーの進化によって、人類は新しい時代を迎えようとしている。
パソコン、インターネット、スマホSNSとこの20年ぐらいで起こった技術革新は、私達の生活を変えた。
そして、これからの10年、20年、AIやバイオテクノロジー、宇宙開発など、もっともっと大きな変化に出会うのだろう。

そんな中、音楽も変化を迎える事は避けられない。
そんな変化、進化を前向きに受け止めていきたい。
参加する事でよりよい未来を自分の選択で選びたいと思う。

 

9月の終わりに六本木ヒルズにて開催された、J-WAVE筑波大学による音楽とテクノロジーのフェス「INNOVATION WORLD FESTA 2019」に、昨年に続き参加した。

www.j-wave.co.jp

 

ものすごい豪華メンツに交じり、ヒルズカフェでの「AI Tommy Special Showcase by TECHS」、テクノロジー体験ブースでのTECHSブース出展、メインステージでのEXILE SHOKICHIライブに香り演出を紹介するなど、この素晴らしいイベントに2日間どっぷり浸かりました。

 



AI Tommy Special Showcase by TECHS

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AI Tommy「INNOVATION WORLD 2019」


AI Tommyは、J-WAVEの番組「INNNOVATION WORLD」のアシスタントMCとしてお馴染みのAI。IBM WatsonというAIをベースにしたキャラクター。昨年のイノフェスでアーティストとしてライブデビュー。AIによる作詞をもとに楽曲を制作している。

Tommyのライブは、以下のバンドメンバーで、AIと人間の協業でライブを作り上げた。


浅田祐介 Key,PC
Reach PC,OP-Z
ELLEY   Cho
KEIKI FUKUSHIMA   Visual
木村学(アユート)モーションキャプチャー
宮本(Native Instruments)OP-Zテクニカル


Tommyのライブは、リードヴォーカルをTommyが担当し、一緒にグルーヴを生み出す「バンド」だと思っている。機械と人間が一緒に演奏する事で、生身の人間が行う演奏が際立つ気がする。

AI TommyではPERCEPTION NEURONというモーションキャプチャーをステージ上で使用し、バレエ・ヴォカールグループPOINTの風間美玖の動きを捉えることでTommyの動きを作り出している。

www.aiuto-jp.co.jp

 

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右腕についてるのが、PERCEPTION NEURON 、この写真では見えにくいですが全身についてます。

TECHSブース

今回ブースでは、「楽器」の進化をテーマに展示した。
ARやVRなど映像の進化は目覚ましいが、音楽の進化は、まさに目に見えないものである。進化は、サブスクのような音楽を伝える分野で話題になる、しかし、音楽を創る、演奏する事においても進化は訪れている。
以下に、楽器の進化をブースで体感してもらうかを工夫してブース展示を行い、多くの人が訪れ楽しんでもらえたと思う。

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ROLI Seabordによる既存の楽器が出せなかったニュアンスを使った歌唱や伴奏を行う。映画『ラ・ラ・ランド』でも使用された新しい楽器だ。
https://www.minet.jp/brand/roli/top/

薮井健一氏によるSeabord実演も行われた。

www.youtube.com


AI Tommyのライブでも使用した「OP-Z」
おもちゃのようなコンパクトなボディから、音楽と楽器を同時に操作する、新しい発想の楽器だ。

www.minet.jp

 

EXILE SHOKICHI史上初、全曲違った香りで演出されたライブ
今回TECHSからJ-WAVEに提案させて頂いた、香り演出のライブ。

www.wws-channel.com

エンタテインメントにおいて、音(聴覚)、映像(視覚)についで、香り(嗅覚)に訴えるライブは、まさにイノベーションという呼び名にふさわしい未体験のライブとなった。音、歌詞、光と合わさり、新しい風景や感覚を呼び起こす「香り」。
エンタテインメントとしての「香り」は未開拓の分野であることを強く印象付けた。

 

 

トークセッションにも登壇

トークをご一緒した方がVtuber関係の方だったこともあり、話題はヴァーチャルへ。「Vtuberをやってみたい!」とヒルズに響き渡らせた。有言実行したい。

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イノフェスは、多くの文化人、ミュージシャン、テクノロジー分野の方が一堂に集まり、沢山の情報とエネルギーを受け取れる貴重な場となっている。来年も是非、参加したいと思っている。


TECHS.2019 in TIMM

音楽とテクノロジーが出会い、新しい表現を生み出す場として運営している「TECHS」、ミュージシャンズ・ハッカソンから生まれたライブイベント。
昨年より東京国際ミュージック・マーケットとコラボレーションし、期間中に渋谷で多くのミュージシャンとクリエイターが参加したイベントを行っている。

10月29日(火)に渋谷のDESEOとDESEO mini with VILLAGE VANGUARDにて行う。

techs2019.peatix.com

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積極的に挑戦する素晴らしいアーティストに恵まれ、今年も面白いイベントになりそうだと思う。


AIが意志を持ち、人間を支配する。
人類が宇宙へ進出し、欲望を拡大し続ける。
ゲノム編集によって、金持ちだけが永遠の命を手に入れる。
自動作曲によって、ミュージシャンは必要とされなくなる。。

「進化」を巡るネガティブな説は後を絶たない。
しかし、未来を決めるのは技術ではなく、人間の選択だと思う。

テクノロジーを使って、ドキドキワクワクする、心揺さぶる音楽や、ライブを生みだそう。そんな気持ちで取り組む、実験の場に是非、足を運んでほしいと心から思う。

お待ちしております。

TECHS.2019 in TIMM詳細はこちら

 

 

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5G時代のサブスク?未来のリスニング?Amazon Music HDを体験

すでに海外では部分的にスタートしている次世代通信「5G」。
日本でも東京オリンピック開催の2020年よりサービス開始が告げられています。

 

簡単に言えば、スマホ通信がめちゃめちゃ速くなる!
といことですが、

 

それだけではない。

 

「超高速」「大容量」「低遅延」「多数同時接続」が実現、車の自動運転や、瞬時の認証により、家電や買い物などに新しい技術の導入が可能になり、社会を大きく変える技術革新が起こると言われています。

 

さて、そんな「5G」が、音楽に与える影響として、音楽リスニングの中心となった「サブスク」の高音質化が考えられます。

 

先日、Amazonが「Amazon Music HD」という、CD音質(16bit/44.1khz)、ハイレゾ音質(24bit/44.1khz以上)のロスレス音源をストリーミングで定額聞き放題で提供するサービスを開始しました。

「amazon music hd」の画像検索結果

 

 

www.amazon.co.jp

 

1か月ほど試してみましたので、書いてみます。

 

「高音質」すなわち、アーティストが制作環境で意図した音に近づける事は、音楽の楽しみをより深く感じること。「音」を感じること。

 

デジタル技術が進化し、映像の分野は高画質化、3D、VRと進化するのに、音楽はなぜ、数十年前に開発された「CD」に固執するのだろうか?常々思ってきたので、「高音質化」は大歓迎!

音が良くなることは素晴らしい!

 

 

と思っているものの、最初の印象は半信半疑。

音楽リスニングは「音質」が全てではないからな、、と斜めに見ていた。

過去にCD音質聴き放題のサービスが開始され、試してみたが、使い勝手の悪さが上回り、すぐに使用を止めてしまい、ダウンロードしたハイレゾ音源の再生と、Spotifyの併用で落ち着いた経緯もある。

Amazonが音楽に誠意を持っているとも思えない。。。

 

しかし!

 

実際使ってみると、、、

 

Amazon Music HDはあなどれない!

 

 

ハイレゾ音源のカタログが洋邦ともに充実している。

世の中に流通しているハイレゾ音源は、ほぼすべてと言っていいぐらいストリーミングで聴ける。さらに、ダウンロード・サイトで発売されていないタイトルも沢山配信されている。ハイレゾ音源(ULTRA HD)は数百万曲以上配信されているという。

 

・使い勝手がそれほど悪くない。

UIの快適さや、リコメンド機能、プレイリストなど。音楽を楽しむことにおいて、Spotifyには及ばないが、ストレスになるような使い勝手の悪さはない。

 

・音質についての、再生装置の性能の確認ができる。

ハイレゾにおいてネックとなる、再生装置の正しい設定か否かが簡単に確認できる。
音源に「Ultra HD」という表記があり、クリックすると、「24bit/96khz」などといったようにデータの詳細が確認できる。

 

私は、PCをスピーカーに接続して聴いているが、スマホアプリから、高音質音源が簡単に楽しめるので、5Gで高速通信が実現し、5Gスマホを入手すれば、音楽リスニング全体の高音質化が一気に進む可能性がある。

 

ハイレゾ・サブスク×次世代スマートスピーカーで見えるAmazonの戦略

そして、このハイレゾ・サブスクと連動したAmazonの戦略が大きな可能性を見せるのが、今後発売されるスマートスピーカー「Echo Studio」の存在だ。

 

 https://amzn.to/2MEZg35

 2万円強のスピーカーで、 ハイレゾ音源の再生が出来る他、Dolby Atmosや、ソニー「360 Reality Audio」にも対応している。

映画やドラマなど、映画館で体験できるDolby Atmosでや360 Reality Audio対応の楽曲など立体音響が安価で自宅で楽しめる。

また、「今後、3Dマスタリングされた3DミュージックをAmazon Music HDより提供」と書かれており、このEcho Studioと合わせて、ハード、ソフト両面で、音響体験を提供する準備が出来ている。

現状、ハイレゾ音源を再生するには、「デジタル→アナログ」変換機(DAC)やヘッドフォンアンプが必要であり、立体音響もそれに対応した高価な機器が必要とあって、知識的にも価格的にも敷居が高いが、この「Echo Studio」によって、かなり手軽になる。ハイレゾ・ストリーミング、立体音響の一般層への普及に繋がる可能性がある。

ちなみに、立体音響については、昨年、ライブや音源制作において、実践してみたので、興味のある方は、以下の取り組みも知ってもらえると嬉しい。また、立体音響での音楽制作行いたいです。

techs.media

 

こちらの記事でもDolby Atmosについて触れています。
※長ーい記事の後ろの方。

これ以降もDolbiy Atmosでの映画鑑賞はちょいちょい体験しています。

wakita.hateblo.jp

 

Amazonが音楽に対して、予想以上に積極的で、優位性のあるサービスを打ち出した理由としては、スマートスピーカーを中心に、スマート家電や音楽リスニング、動画配信といった生活全体を想定したビジョンがあるからだろう。


もちろん、物流における送料無料とセットで提供するPrimeサービスという展開も他社にない武器となっている。

 

ゲームやVR、MR、ARといった分野でも立体音響が活躍するので、この流れは加速するに違いない。

 

 

 

 

ハイレゾ・ストリーミングについての他社の動きも書いておこう。

 

ソニーによるハイレゾ・ストリーミング・サービス「mora qualitas」
https://mora-qualitas.com/

10月24日より、先行体験スタートとのこと。
まずは、オーディオ・ファン向けのサービスとしてスタートすると思われるが、ソニー・ミュージック・エンタテイメントのサービスとあり、所属アーティストの音源を積極的に配信する事で、この流れをリードしていく事が期待される。

この「mora qualitas」などSMEハイレゾ事業の推進が、Amazonに邦楽ハイレゾ・タイトルが充実している理由となっているという説は有力だと思う。

 

 

Spotify Hi-Fi

以前話題になった、サブスクを牽引するSpotifyが準備を進めていると言われる「Spotify Hi-Fi」の動向も気になる。UIの使い勝手やレコメンド等、音楽の楽しみを最大限提供してくれるSpotifyが高音質化するとしたら夢のような音楽体験となるだろう。

 

Apple Digital Masters

Spotifyとサブスクの2強の座を争うApple Musicは、「Mastered for iTunes」と呼ばれる、24bitから配信用圧縮音源を生成する仕組みを持つ。

この規格は、圧縮音源であることは変わらないが、この取り組みによって「Amazon Music HD」において、ハイレゾDLサイトにもない「24bit/44.1khz」音源が多く聴ける結果をもたらしているのではないかと思う。すでにAppleに対して24bit音源を提供してきたことで、その音源を同じようにAmazonに提供し、それを圧縮せずにロスレス音源で配信しているのだろう。

 

 

最後に ~そもそも音質は大事なのか?~

 

「そもそもいい音って何?」という議論になることがある。
音質が良くなくても、優れたメロディや言葉、演奏、サウンドは楽しめる。

 

自分なりになるほど!と思った音質についての考え方を書いておきたい。
どこで知ったのか覚えていないが。。

音楽を聴くことは、お酒に似ている。
安いお酒でも酔えるが、いいお酒での酔いは気持ちよさが違う。

 

よく、ハイレゾ検証の記事などで、音源の聴き比べのテストを行っているが、違いがあまり感じられないという実験結果が見られる。

 

しかし、音質の違いがはっきり分かるのは長時間聴いた時だと思う。

 

お酒でも、一口飲んで、口当たりや味わいでの味の良し悪しもあるが、酔いは時間をおいて訪れる。そんな感覚として酔いを楽しむこと、これは音楽の楽しみに近い。

 

高音質音源も、1曲をいろんなデータで聴き比べて大した違いではないと考える人もいる。しかし、30分、1時間、2時間と聴き続けた時の高揚感、気持ちよさの違いはかなりの違いだ。

 

リラックスした時間と共に高品質の「音」を浴び続け、ハイな状態を感じる瞬間は真の贅沢であり、至上の喜びだと思う。

 

スタジオで、コンサート会場、クラブで、音を通じて何かを人に届けようとするミュージシャン、エンジニア、スタッフは、この感覚を知り、病みつきになった人たちだ。
そして、さらに「いい音」を追求し、その瞬間を追い求めていると思う。

 

そして、新しいテクノロジーの進化によって、日常での音楽体験が進化する事を歓迎したい。

 

 

脇田敬

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SNS/サブスク時代のアーティストブレイク戦略

久しぶりの更新。

嵐、その前の星野源と、大物アーティストのサブスク解禁が続きました。

open.spotify.com



日本の音楽シーンにも、いよいよソーシャルネットワークとサブスク(サブスクリプション型ストリーミング音楽サービス)で音楽を発信する時代の到来を実感する契機になったと思う。
 

世界の音楽シーンは10年以上前からYouTubeMyspace、そしてSpotifyから新しいスターが生まれている。

YouTubeで脚光を浴びたJustin Bieber、MySpaceから登場したADELE、Twitter、インスタを駆使しヒットを生み続けるTaylor Swift、Spotifyの普及でサブスクを活用し世界的ヒットを生むEd Sheeranなどなど。

2、3年ほど前ぐらいから、このサブスクがけん引し、世界の音楽業界の売上がV字回復したことで、日本でも解禁の流れが進み、いよいよサブスク時代が到来しようとしている。

 

世界的な音楽トレンドにまで到達したK-POP 

ネットを駆使して、遂に全世界マーケットにまでリーチしたのは日本でも人気のK-POPだ。

BTSビルボード1位はネット戦略抜きに語れない。
それは一朝一夕で実現した成功ではない。

YouTube施策が注目されたBIG BANGや少女時代、そして、PSY「江南スタイル」の世界的ヒットを経て、現在BTSやTWICEは、全世界でネットを通じて人気を得ている。

そして、BTSのBillbordチャート1位という快挙は、サブスク時代が到来と無関係ではない。TwitterYouTubeSpotifyがカウントされている今の時代のランキングのアルゴリズムに、強力なファン行動(ファンダム)により、Spotify再生がカウントされ、一種のランキング・プロモーション効果を上げ、一般層へと飛び火している。

 

ブレイクを目指すニューカマーに勧めたいファンベースの構築

つまり、現在のネット躍進にファン・アクションは不可欠なのだ。
SNS時代においては、ファンは、メディアの情報を受け取り、作品を鑑賞する受け身の存在ではなく、能動的に行動し、作品やアーティストの魅力を広める存在へと進化を遂げている。

SNSとの連動が整備されたSpotifyはバイラルチャートなど曲の力でリスナーを広めるルートを用意している。
そこに乗せて、曲を広めるには、初動の再生数を回す必要があり、新人アーティストがそこで曲を広めるにはファンベースの構築が有効である。これはYouTubeにおいても同じだろう。

 

ソーシャル/サブスクをミックスしたアーティスト戦略

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基本SNS
Twitter
Instagram
YouTube

一般の人が日常的に使用するSNSツール(検索ツールでもある)
使って当たり前、ネットにおける「水道、ガス、電気」のような不可欠なツール。
ここにアカウントやコンテンツがないのは、存在しないのと同じ、と言える。
フォロワー数、登録者数を増やし、常にリーチできる客層を増やす事が必要。


サブスクリプション型ストリーミングサービス
Spotify
Apple Music
・LINE MUSIC
など


テレビ、ラジオ、雑誌、CDショップといった既存の音楽発信とは違い、次の時代はSNSと連動したサブスク型ストリーミングサービスが音楽発信の中心となる。
各サービスの特性を捉え、発信していく事でブレイクへと近づく。

 

★誰でもサブスク系音楽サービスに配信できる

配信仲介サービス
Tunecore
BIG UP!
など

上記の、ストリーミングサービスに曲をアップするには?
これらの配信仲介サービスは、オンラインで、楽曲データ、ジャケット画像データと文字情報を登録すれば、誰でも全世界に楽曲を配信できる。

 

★ファンベース構築
どんなツールを使ってファンを獲得し、ファンダムを形成するか

 

ライブ配信アプリ
SHOWROOM
LINE LIVE
など

リアルタイム・コミュニケーションが可能なライブ配信でコアファンを獲得する。さらに課金収入を得る。リアルタイムなので拡散はないが、着実にファンや応援者を獲得できる。そして、パフォーマンスを磨くことも出来る。特に、SHOWROOMLINE LIVEスマホゲーム的なバトルやオーディション要素が伴い、リスナーに刺激と一体感を与え、強力な応援者を獲得できる。

 

音源共有ツール
Soundcloud
Eggs
nana
など

自分の音楽性に合ったツールを選び、楽曲をアップ、繋がりを構築しコアファンを掴む。グローバルなダンスミュージックや同人系はSoundCloud、J-POPやロックバンドはEggs、歌ものやアニソン系はnana、、といったように、ジャンル的なつながりでファンやネットワークを増やすことが出来る。

 

新しく現われるサービス
TikTok
など

YouTubeよりスピーディーでライトな動画ツールなど、新しい流行を生み出すツールでは、参入者が少なく先行者利益を得られる。やがてTikTokに続く更に新しいツールが現れる事も予想される。

 

★マネタイズ

音楽活動には「お金」が必要、ブレイクするまでは、活動の中で資金を得ていかなくてはいけない。

 

デジタル・ファンクラブ
bitfan
fans'
fanicon
など

誰でも簡単にサイト開設し、ファンとのコミュニケーションを図りながら、月額収入を得る。そして、ファンベースを構築する。

 

クラウドファンディング系サービス
Makuake
CAMPFIRE
Muevo
CHACCA
など

ライブチケット販売
Peatix
TIGET
LivePocket
など

グッズ販売
BASE
STORES.jp
など

当初より、違和感のなくなったクラウドファンディングで資金調達する。単なる金集めではなくプロモーションにも有効だろう。

 

 

ざっと、挙げさせてもらったが、
今の時代において大事なのは、これらをどのように使い来なし、「制作」「ライブ」「宣伝・販売」の現場において、アーティストコンセプト形成や、ターゲット設定&攻略を成し遂げていくことだろう。

各サービスの詳細、使い方など聞きたいという方は、気軽にSNSやイベントなどで、どしどし尋ねてください。
沢山の方のお役に立ちたいと思っております。

 

 

脇田敬

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Amazon、Spotify、、全世界配信コンテンツ時代に必要なアイデンティティ

Amazon Primeで歴史ドラマ『MAGI 天正遣欧少年使節』を観た。


全10話、Amazonオリジナルドラマとして、180以上の国と地域に世界同時配信。
これは新しい!日本制作の時代劇でありながら新しい!と感じるのは、全世界の視聴者に向けて作られた作品だからだろう。

 

AmazonNetFlix、Hulu、、、そして音楽ではSpotify、、

 

今、私たちは、全世界にコンテンツ(作品)を発信する時代を生きている。
ターゲットは国内だけではない。
ITテクノロジー革命によって大きな変換期にある世界では、エンタテインメントに新しいアイデンティティを求めている。

 

人種、セクシャリティ、道徳、宇宙観、歴史観

 

音楽においては、アーティストという「人」がコンテンツでもある。
表面的な流行りや聞き心地の良さを楽しみながらも、リスナーは心の奥深くで、「人」が持つ、膨大な量の情報を受け取っている。

今という時代に、私達日本という島国に生きるミュージシャン、音楽関係者が、知っておくべき情報は沢山ある。

映像作品から学ぶ点は多い。


今回は、『MAGI 天正遣欧少年使節』をはじめ、いくつかの映画、本を紹介したいと思う。

 

【紹介する作品】

『MAGI 天正遣欧少年使節

『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』

『沈黙』

『君の名は』

ブラックパンサー

殿、利息でござる!

『シュメルー人類最古の文明』

『サピエンス全史 文明の構造と人間の幸福』

『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』

火の鳥

ブレードランナー 2049』
『Spaceman』デヴィッド・ボウイ(Space X、Falcon Heavy Test Flight)

 

www.magi-boys.com

 

www.amazon.co.jp

 

TBS(TBSビジョン)制作、Amazonオリジナル。


スポンサー企業なし。忖度なし。
Amazonと世界の視聴者が喜ぶかどうか。
資本とターゲットが変わると、作り方もこれだけ変わる!

 

なので日本の歴史ものでありながら、今の時代に世界の視聴者が興味関心を持つ要素が満載。

 

いわゆる時代劇や歴史ものは、電波は政府の認可制で、スポンサーである国内企業のイメージ、そしてターゲットはお茶の間視聴者。日本という枠の中での万人受けになってしまうのは必然。

あと、海外映画祭でウケるものが作られるのは、溝口、黒澤といった巨匠が切り開いた歴史ゆえの伝統だろう。

 

この『MAGI 天正遣欧少年使節』は、

・有名なサムライ登場(信長、秀吉、明智、、)

というお馴染みのモチーフは登場するものの、

 

キリスト教の教え、イエスの唱える「愛」とは?何か?それは、日本人の信じる神や仏と何が違うのか?

 

というテーマを軸に、


・人種差別、奴隷制、性、身分制

ルネサンス~宗教革命~イエズス会によるカトリック布教~戦国時代

キリスト教と茶道の接点(自分と向き合う)

 

さらに、自分の信念を貫いて生きるとはどういうことか?
という普遍的な、青春の悩みもテーマとなっている。


どれも、いままでの日本の歴史ものであまり扱われなかったテーマだ。

 

世界中の人が興味を持つ、同時代テーマが盛り込まれ、若い役者たちが演じる青春ストーリーでもあるこのドラマ。日本に関心がある人なら必ず楽しめるような共感ポイントが用意され、物語に入っていきやすい。

音楽を大友良英(『あまちゃん』『いだてん』等で広く知られる、元はフリージャズ・シーン出身の音楽家)が手掛け、16世紀の西洋と東洋の交差を音楽で表現している。

広い音楽背景を持つこの人だからこそ出来た音楽だと思う。こちらも要チェックだ。

 

 

 

Netflixオリジナル番組『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』

 

東洋的な伝統と西洋との出会いについては、Netflixオリジナル番組として2019年1月より全世界配信され話題となっている、片付けコンサルタントの近藤まりえ(KonMari)の番組 『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』にも見られる。

 

www.netflix.com

2010年に発売された『人生がときめく片づけの魔法』は、日本で100万部を超すベストセラー。世界中で発売され、累計1000万部以上売れているという。

なぜ、Netflixが番組化?という疑問も、この数字の裏付けで納得がいく。

www.youtube.com

KonMariの米国移住は、2014年。2015年には『TIME』誌の「最も影響力のある100人」artist部門に選出されている。2019年の大ブレイクは、10年がかりだと言える。

「片付け」をメソッド化し、日本でのヒットをステップに、世界進出を果たした興味深い事例だ。「ZEN(禅)」や「Jyujutu(柔術)」「KARATE(空手)」のように世界に広がるメソッドとなるか?

 

 

 

遠藤周作原作、マーティンスコセッシ作品『沈黙』

 

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『MAGI』より後の時代、戦国期のキリシタン弾圧をテーマにした世界的に知られる遠藤周作の小説を原作を映画化した『沈黙』。

監督は数々の名作を持つ巨匠マーティン・スコセッシ

ザ・バンドの『ラスト・ワルツ』やローリング・ストーンズの『シャイン・ア・ライト』などロック・ドキュメンタリーの名作でも知られるスコセッシが日本びいきでキリスト教をテーマにすることは偶然ではない。

信念を貫いて生きる事とは何かを考える時に、「日本」というテーマに意味を感じるのだろう。劇中、キリスト教棄教を迫る代官が「ちょっとした形だけでいいから、転べ(信念を捨てろ)」という場面は、とても日本的だ。

拷問に次ぐ、拷問、、目をそむけたくなる場面の連続は、嫌でも人間の本質に向き合わさせられる。個人的には、「3大いじめられ映画」(観ている間いじめられている気分になる映画)、あとの2つは『ダークナイト』『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』、、

 

 

 日本映画史上最大級の大ヒット・アニメ『君の名は』

 

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ご存知大ヒットアニメ作品。日本での歴代興行収入ランキングで『千と千尋の神隠し』、『タイタニック』、『アナと雪の女王』に次ぐ第4位(日本映画では第2位)。世界での日本映画の歴代1位(2位は『千と千尋の神隠し』。

日本のアニメ作品は、海外で受け入れられるブランドがあり、制作段階でも国内、海外両方を意識していると思う。

SF的なスペクタクル、若い男女のラブストーリーというエンタメ要素をしっかり押さえた上で、日本の古神道の要素がしっかり重要なファクターとなっている。主人公二人がメトロポリタン都市TOKYOと田舎で入れ替わり、スマホを使ってやり取りする等、東洋の神秘と西洋文明、都市と山村という対比が「日本」をキーワードとした関心を引くだろう。

 

西洋文明とアフリカ伝統をSF化した画期的な作品『ブラックパンサー

 

日本は題材になっていないが、こちらも伝統と未来におてのアイデンティティが重要なテーマとなった作品。

『アヴェンジャーズ』シリーズの一作であり、マーヴェルにアカデミー賞(衣装、美術、音楽)3部門をもたらした。ヒーローSFでありながら、アフリカの架空の途上国ワカンダが実は世界最先端のテクノロジー国という設定、監督、主要キャストが全て黒人(の美男美女)という、王道ヒーローでありながら、斬新さ。

この観た事がない世界観を作り上げるのに、音楽も重要な役割を果たしている。

ルドウィグ・ゴランソンが手掛けた、アフリカ伝統音楽と劇伴、エレクトロニックをミックした劇中音楽はアカデミー、グラミー両賞を受賞、ケンドリック・ラマーが手掛けたラップ曲も映像表現としっかりリンクしている。

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驚きの実話 『殿、利息でござる!

 


映画『殿、利息でござる!』予告編

tono-gozaru.jp

 

こちらは海外を意識した作品ではないが、日本人アイデンティティを考える上で重要な作品。

日本の歴史ものに現れる登場人物は、常に天皇や将軍、貴族や武士のような上流階級。たまに芸能民や宗教家が出てくるぐらい。この話の主人公たちは現代に暮らす私達に繋がる普通の人たち。(実際、今も子孫の方は、商店を営んでる)

江戸時代の伊達藩を舞台に、村の貧しい人たちを救う為に、やや金持ちの農家や庄屋たちが集まり、財政難の藩に金を貸して利子を稼ぎ、分配しようとする実話。

誰を攻撃するわけでもなく、人への愛と絶対屈しない心を貫いた「ヒーロー」です。

こんな人が親の親のその先の先祖にいたと思えることはどれほど素晴らしい事でしょう。世界に誇る社会の発展もいいですが、私はこういった人々を誇りたいです。

原作はこちら。 

無私の日本人 (文春文庫)

無私の日本人 (文春文庫)

 

 『殿、』の主人公、穀田屋十三郎他、中根東里、大田垣蓮月の3人について書かれており、いずれも心を打つ内容。

音楽、映画の世界では、聖書やギリシャ神話からモチーフを得るのは普通ですが、日本人としての引き出しもしっかり持っておきたいところです。

 

 

問われる、人間としてのアイデンティティ

 

『シュメルー人類最古の文明』

さて、IT技術が猛烈に進化し、AI、バイオ、宇宙など、次元レベルで人類の視野が広がっている時代。

国籍、民族アイデンティティだけでは追い付かない感もあります。
逆に、そういう時代こそ伝統やルーツから学ぶ事の意味があるとも言えます。

 

テクノロジー、つまり技術のルーツはどの時代のどの社会なんでしょう?
以下は今に繋がる人類文明のルーツである「シュメル文明」について書かれた本です。

シュメル―人類最古の文明 (中公新書)

シュメル―人類最古の文明 (中公新書)

 

衣食住、社会の仕組み、宗教、、ありとあらゆる文明のひな型が多くみられます。
もちろん日本の文化も源流を辿ればここに辿り着きます。

日本という国は、滅ぼされたことがない国なので、古い習慣が多く残っている。
欧米人や中国人が日本に旅行に来て感じる「懐かしさ」は意外とシュメル時代からのルーツが共通しているからかもしれない。それは、私達日本人が、沖縄の唄に魅かれたり、アフリカの旋律に民謡との共通点を感じるのに近い事でもある。

 

『サピエンス全史』『ホモ・デウス

『サピエンス全史』は、「人間」を万物の長として、当たり前の存在として見なさず、根本から問いかけます。あらゆる動物や、類人猿が滅ぶ中、地球環境にまで影響を及ぼす存在となった「ホモ・サピエンス」。その原因を、「想像力」に見るところが新しく面白い。

AI(人工知能)が登場し、もっと進化を遂げた時、頭脳、身体運動、はては音楽まで、自分たちより優れた能力を持つ存在を目の当たりにして、人としてのアイデンティティをどこに求めるのだろうか。

 

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

 

 同じ著者の『ホモ・デウス』は、この歴史観の先に見える現在、未来を考察しています。

 

ホモ・デウス 上下合本版 テクノロジーとサピエンスの未来

ホモ・デウス 上下合本版 テクノロジーとサピエンスの未来

 

 

このような書籍は、映画や音楽にも影響を与えてる事が伺えます。人工知能とバイオテクノロジーとITが高度に結びついた時、「人間」のアイデンティティさえ危機を迎えます。

 


ブレードランナー 2049


ブレードランナー 2049』には、『ホモ・デウス』に近い発想のシーンや設定が見られます。人口知能、バイオテクノロジーによって生み出された「レプリカント」と人類の対立が描かれる伝説のSF映画の続編。前作の舞台は2019年だ。


映画『ブレードランナー 2049』予告3

 もとの『ブレードランナー』は、原作小説アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(1977年)に、人間と対立する人工生命が、人間のような心を持つような、つまり人類の文明が神の領域、自然にまで届く未来を創造した作品。

 

 『火の鳥
漫画界の神、亡き手塚治虫のライフワーク。
永遠の命を持つ「火の鳥」を巡って、過去と未来を行き来し、紡がれる物語。
日本、人類、、宇宙、、宇宙時代、AI、バイオ、、天才の想像力と創造力は果てしない。。

火の鳥【全12巻セット】

火の鳥【全12巻セット】

 

hinotori.asahi.com

 

今月より、作者による幻の原稿から、櫻庭一樹によって新たに生み出された小説連載も開始。この時代に「火の鳥」をどうやって作り出すか。ワクワクします。

 

 

最後に、、

 

アーティストが生み出す「未来のアイデンティティ


昨年、RADWIMPSが「HINOMARU」という曲を発表し炎上や論争が起こった。
その時、ミュージシャンや音楽にとっての「ナショナリティ」つまり、「国」に関するテーマについて、まとめた文章を書きたいと思ってきました。

日本人として「誇り」を表現するのに、戦いの勇ましさ以外にも、引き出しがあってもいいんじゃないかと。
『君の名は』により、世界中に曲が届くアーティストとなった彼らは、世界を舞台に活動できるポテンシャルを持ったアーティストだ。一昔前なら、日本語で歌っている時点で海外では売れないと皆が考えていた。

しかし、今、世界中のチャートでスペイン語や韓国語の曲が多数ランクインしている。日本語の曲も、リズムに上手く乗せていく事で違和感なく受け入れられることは十分考えられる。日本のSpotifyでも、プレイリストで洋楽と並べて違和感のないJ-POP曲が求められる。

K-POPグループBTSのメンバーは『君の名は』の大ファンで、USのダンスポップに混ぜて、RADWIMPSの曲をプレイリストに入れた。

国内外を隔てない発信。これは必ずしもクオリティの問題ではない。言語でもないと思う。メンタリティやアイデンティティの要素が大きいのではないか?
日本人として「誇り」を表現するのに、戦いの勇ましさ以外にも、引き出しがあっていい。そんな事を考えて一番に思い浮かんだのが『殿、利息でござる!』でした。ぜひ、観てください。

もちろん、勇ましさも日本人の中にあるので、そういう歌があってもいいと思います。「HINOMARU」も政治的な理由で否定したくないです。アーティストが挑戦することは肯定したい。

 

 

 

さらに:未来を創るイマジネーションの力

 

そして、時代の変化の波は、遡るべきルーツや歴史を「日本」という2000年~1万年ぐらいの歴史を超えて、生物学的な「人間」としてのアイデンティティまで問いかけてきます。
人工知能」「宇宙」「生命(バイオ)」

これらのテクノロジーの進化が急激な今の時代、ローカルな歴史も大事ですが、地球規模での視点も大杼な事を痛感します。

下の動画は、Space X社の「Falcon Heavy」のテスト打ち上げの動画です。
デヴィッド・ボウイの1972年の曲「Starman」が2:45~使われています。(赤い車でマネキンのStarmanが火星へドライブするという、凄い企画)

 


Falcon Heavy Test Flight

 

デヴィッド・ボウイは、1969年にアポロ11号が月面に着陸した9日後に「Space Oddity」をリリース。71年「Life on mars?」72年「Spaceman」をリリース。それから約40年後の2018年に人類の火星移住を目指したロケットの打ち上げに曲が使用されているというドラマチックな展開。

アーティストや作品は、未来をイメージし、進化へのインスピレーションを与える。『サピエンス全史』で書かれた、人類が進化を遂げた最大の理由である「想像力」こそが、人間の最大の力かもしれない。音楽に関わる者として、想像力、創造力を大事にしていきたいです。


ちょっと話が飛躍しましたが、今後もっと飛躍していかないとと思います!

 

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ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務 答えはマネジメント現場にある!

ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務 答えはマネジメント現場にある!

 

 

サブスク時代の音楽の売り方②ファン行動について ~ファンダム、ファンクラブ~

前回、サブスク時代に無料ツールなどで、アーティストを上昇させる方法について書きました。今回はファンによるプロモーション活動、ファン行動について書きます。

 

wakita.hateblo.jp

 

3月17日にニューミドルマン・コミュニティのオフ会(勉強会・交流会)を行います。ファンクラブ事業のリードカンパニーSKIYAKIさんからお話を聞く形で、新しい時代のFCについて考えます。

イベントに向けてのメモ、または問題提起として、現代のファン行動について考えてみました。

nmm-meetup-201903.peatix.com

 

 ファンダム

「ファンダム」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

201年代、SNSの普及と共に、アーティストとファンの距離はぐっと近くなった。
アーティストがTwitterInstagramを通じて情報発信し、ファンは熱く信奉する。

そして、勝手のファンが受け身の消費者であったのに対して、ファンダムは積極的に行動し、アーティストや事務所、レーベル、そして社会全体に対して直接意見を伝え、影響を与える存在だ。

「物を言うファン」と「ファンダム」の違いは、ネットワークし組織的な行動を取るか否かだろう。

 

 

かってのファンは、作品やパフォーマンスを受け取り、好むかどうかだった。

ファンクラブも、先行チケット購入、会報、が中心だった。
しかし、ファン行動がインタラクティブになり、一方的な受け手ではなくなったため、ファンクラブも変化を求められている。

SKIYAKI社は、ファン行動をポイント制とし、沢山応援してくれたファンが特典を受け取れたりする仕組みをスタートし、岡崎体育のファンクラブをこの仕組みで行い、大きな話題を集めた。このインタラクティブなファン行動を可視化し、マネタイズする動きの背景となる時代状況を考えていきたい。

 

okazakitaiiku.com

 

 

テイラー・スウィフト

テイラー・スウィフトはデビューの時、カントリー・アーティストとして初めてMyspaceアカウントを作り、発信した。その後、リリースの度に、YouTubeTwitterInstagramSNSプラットフォームでのアクションを行い、アルバムをヒットさせてきたアーティストだ。アルバム『1989』リリース時は、SpotifyApple Musicの競争が激化するタイミングでのApple Music先行配信で大きな話題を作ったのも記憶に新しい。

『1989』発売時は、日本で行われるような、Type-AやType-Bといったような、ジャケ違い、収録曲違いの商品を数種類作り、ダウンロードが主流の時代にCD目がセールスを達成した。
最新アルバムである『reputation』では、ファンダムやメディアからの要求に応える事の問題を吐露する衝撃的な内容を含むダークな内容で、当初鈍い売り上げからロングセラーを達成し、年間セールスでも1位となった。彼女が大胆なアクションを繰り出せるのは、ネット上に熱烈な信者の集団「ファンダム」を巧みにコントロールしてきたからだ。(音楽がいいのは前提)

SNS時代の音楽ビジネスを考える上で彼女の動きは見逃せない。

 


Taylor Swift - Look What You Made Me Do

 

レディーガガ

レディー・ガガは彼女のファンたちを「リトル・モンスター」と名付け、Little Monstersという双方向のファンサイトを作る事で、行動的なファン行動をアーティスト自ら後押しする為のコミュニティーを提唱した。LittleMonstersは成功しているように見えないが、この手法はK-POPジャンルで成功を収めているように思う。
また、アカデミー賞グラミー賞など受賞し、ガガを名実ともに2010年代を代表するアーティストにした主演映画『アリー/スター誕生』のライブシーンのオーディエンスはファンクラブで集められたそうだ。コーチェラ・フェスティバルやLAフォーラムなど様々なライブ会場でのシーンがかってないほどリアリティがあるのは、オーディエンスがエキストラではなく、本物のファンだからである。


Lady Gaga - Always Remember Us This Way (From A Star Is Born Soundtrack)

 

ボーイバンド~アメリカン・ティーンスター 

遡れば、90年代後半、バックストリート・ボーイズやインシンクといった「ボーイ・バンド」と言われる男性ヴォーカルグループの隆盛、そして、ブリトニー・スピアーズの登場によって、熱狂的な人気を得る女性ソロシンガーのスーパースターの流れが確立していったように思う。

ちなみに、この流れを代表する楽曲である、バックストリート・ボーイズの「I Wnat it that way」とブリトニー・スピアーズ「Baby one more time」は、2000年代最大のヒットメイカー、スウェーデン人のマックス・マーティンの出世作でもある。スウェーデンの作曲家が、ヒップホップやエレクトロ・ミュージックを自由に加工し、ヒットポップスを作る流れも、この時期に始まっていったのです。

PC、DAWの普及でそれ以前より遥かに安価で作曲やレコーディングが出来る、打ち込み音楽ヒップホップやダンスミュージック・ベースのポップソングに合わせて歌い踊るスターは2000年代のポップミュージックのメインストリームと言える。

 

 

 

BTS

BTS防弾少年団)の活躍は、昨年、日本でも大きな話題となった。彼らは、このボーイバンドの最新型であり、「ARMY」と呼ばれる彼らのファンたちは、「ファンダム」の象徴的な存在です。時に社会的なメッセージも含んだ歌詞と「ARMY=軍」というコンセプトは、革命や社会運動をイメージさせ、欧米人にも響くものがあったのだろう。


BTS (방탄소년단) 'IDOL' Official MV

 

 

日本~AKB48、ジャニーズ~ランキングとの関係

AKB48が、「RIVER」あたりで大ブレイクを果した後、選抜総選挙をスタートさせ、ファンの力がグループのメインヴォーカルである「センター」が決まるという仕組みを成立させ、圧倒的な人気を作り上げた。結果、AKB48は、10年にわたって、オリコンシングルチャート年間トップを独占し続ける無敵の存在となった。時に批判されながらも「国民的グループ」の称号を維持しているのは、このオリコン・チャートでの実績に裏付けられている。

 

一方、同じくオリコンチャートを独占する勢力であるジャニーズ事務所の動きはどうだろうか。大規模な握手会などは行わず、音源、コンサート、ファンクラブ、などバランスよく旧来の音楽ビジネスを展開していると言える。しかし、ファンダムの波はここにも及んでいる。活動休止したSMAPのファンは、グループ存続などを求めて、SNSで呼びかけシングル「世界に一つだけの花」のセールスを伸ばしたり、ランキングに登場させたりする消費行動を行った。ファン有志で新聞広告も打ったりもしている。

 

CDセールスを元にしたオリコンチャートが人気の指標となっていた時代に変化が現れたのが昨年。ダウンロード、ストリーミングが集計に加わっているだけでなく、TwitterYouTube、CDのPCへのリッピングも集計されている。

www.billboard-japan.com

 

昨年の年間ランキングを見ると、安室奈美恵や米津玄師やDA PUMPが上位にランクし、ヒットの指標として納得できる内容になっている。

しかし、このビルボードランキングにも、ファンダムの影響はしっかり見られる。BTSが年間アーティストランキングの3位に入っているのはもちろんだ。

ストリーミングどころかダウンロードやYouTubeアップすら行わないジャニーズ勢は、嵐の15位が最高位。

しかし、気になるのは18位に入っているNEWSだ。シングルセールスで年間16位、リッピングで20位、注目すべきはTwitterBTSに次ぐ2位を記録している事だ。

NEWSファンは、SNSでネットワークして、NEWSを応援するファンダム化した動きを取っている事が読み取れる。メンバーの脱退などを乗り越えて活動し続けるNEWSというグループの歴史が、ファンの組織化の推進力になっているのかもしれない。。

 

このような動きは、Billbordランキング、Twitter、そしてSpotifyチャートで威力を発揮しているように思う。YouTubeは、意図的に再生回数を増やすことに制限をかけている。

 ファンダム的な「行動するファン」「ネットワーク化」は、SNS時代が背景になっている。BTSに代表されるK-POPグループは、ファンクラブをこの「ファンダム」の需要に応える場として成立させている。日本の「AKB総選挙」という世紀の大発明も、何がしか影響与えているのかもしれない。

寄付を払って党員になり、政治的な方針を社会に広める政治活動のように、応援したいスターや共感できるアーティストのメッセージやコンセプト、魅力を広め、仲間と繋がりネットワークして勢力拡大する。

この楽しみ方は、一過性ではない気がする。

 

SHOWROOM

著作もヒットし、AKB48はじめ秋元康プロデュースユニットは多かれ少なかれ活用するライブ配信アプリ「SHOWROOM」は、総選挙をオンライン化したようなツールだ。ファン行動をゲーム感覚でスマホサイズで仕組み化を実現し、多くの利用者を獲得するとともに、配信者へ収益をもたらし、音楽業界の最大の問題である新人アーティストのマネタイズに一つの答えを提供している。
ジャニーズもヴァーチャル配信をスタートさせた。

www.showroom-live.com

 

クラウドファンディング

ファン行動の中でも「応援」という点で、ファンが直接お金を出すというのはわかりやすい。ここに、善い行い、競争、意味など物語を加えることで、エンタメにおけるクラウドファンディングは成立するように思う。Makuakeにおける成功例、アニメ『この世界の片隅に』などは、商業的に成立しにくいテーマである「戦争」「原爆」を扱った作品を実現するという、社会性があったこと等

 

www.makuake.com

 

 オリコンランキングの改革により、握手会目当てのCD大量購入によるランキング・ブランディング時代が終わるかもしれない2019年、ファン行動は次のステージへと向かっている。今後に注目したい。

あと、2000年代辺りのメロコアラウドロックのジャンルにおける「ストリート・チーム」というファンによるプロモーションについても、また掘り下げて、今後を考える材料にしたいなと思います。

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最後に

このファン行動とチャートランキングについて考えていて、思い出した本がある。ジャズミュージシャン、サックス・プレイヤーで著述家の菊地成孔さんの、「CDは株券ではない」だ。

CDは株券ではない

CDは株券ではない

 

 

 J-POPが、CDビジネスで潤ってた時期の本だが、CDを株券の銘柄に見立てて、売上枚数を予測する連載企画をまとめた本。この本のコンセプトはSNS社会の到来によるファンダムの動きによって現実になってきているのではないだろうか。

こちらも興味のある方はチェックしてみてください。

 

ファン行動の現在未来に興味を持たれた方、ぜひイベントご参加ください。

ニューミドルマン・コミュニティの会員イベントですが、下のPeatixより申し込んで頂ければ参加できます。

nmm-meetup-201903.peatix.com

 

入会も受け付けております。

nmm.bitfan.id

 

脇田敬

https://twitter.com/wakiwakio

https://www.facebook.com/takashi.wakita

著書『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』

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3/8公開 クリント・イーストウッド主演・監督作『運び屋』

巨匠の最新作『運び屋』はライトに「善悪」を問いかける?そして、イーストウッド作品における音楽の役割

3/8より公開。クリント・イーストウッド主演・監督作『運び屋』。

88歳のイーストウッドが主演も行った最新作。

麻薬組織の凄腕運び屋が90歳のおじいちゃんだったという、『ニューヨーク・タイムズ』に載った実話を元に膨らませた話。

 

wwws.warnerbros.co.jp

 

この映画で使われてる曲と、音楽家でもあるイーストウッド映画楽曲を集めたSpotifyプレイリストを作成しましたので、ぜひお楽しみください。

 

Spotifyプレイリスト作りました

open.spotify.com

 

さて、同年代の老人を演じたこの作品。実際のイーストウッドはありえないぐらい元気なので、90歳の元気をほどほどにな老いた姿を名演しています。

とはいっても88歳。レジェンドであり、映画史に燦然と輝く巨匠の最後の作品か?という目で見られます。1人の老人の人生の集大成を描きながら、イーストウッド自身の人生も重なります。と書くと重そうですが、作品の印象はライトです。

 

善悪、モラルに問いかけるイーストウッド映画 

イーストウッド演じるカールは家族関係をないがしろにする反面、コミュニケーション力が高い人気者。とても魅力的なので、彼が行ってる事が社会に悪い影響を及ぼしているように感じられません。

マディソン郡の橋』では不倫を純愛として描き、太平洋戦争を描いた二部作『父親たちの星条旗』『硫黄島の手紙』では日米両軍の視点から、硫黄島の戦いを描きました。その他、『ミスティック・リバー』『グラン・トリノ』『パーフェクト・ワールド』など、善と悪の両面を問いかける作品が多数あります。

一筋縄ではいかない、正義やモラルについて問いかけます。

この『運び屋』でも、法を犯して大金を稼いだ金を惜しみなく善行に使うかと思えば、遊びにも使う老人が描かれますが、そこが魅力的に見えるところに、価値観を揺さぶられます。

 

重要な役割を果たす「音楽」

作中、ゆったりと流れる時間で、役者の名演を通じて、それぞれの人物の心情が深く心に沁み込んでくるのが、イーストウッド映画の魅力ですが、この中で音楽の果している役割はとても大きいと言えます。

自ら、ジャズに造詣が深く、カントリーなどの音楽にも通じるイーストウッドの映画は、90年代以降のアメリカン人の考え方にも少なからず影響を与えてると思います。日本で近い立場の人は宮崎駿監督でしょう。

彼自身が作曲する事も多いテーマ曲では、アコギやピアノの静かな旋律が、心の奥深くに染み込み、決して白黒つける事が出来ない善悪という重いテーマを、優しく包み込みます。

そして今年のアカデミー作品賞を獲った『グリーンブック』(イーストウッド映画ではない)でもそうでしたが、車での移動シーンは観ていて爽快感があります。また、独特の音楽センスはイーストウッド映画の肝。車の中で聴く古いアメリカのポップスや麻薬組織と関連してでてくるラテン音楽もこの作品の魅力の一つです。

 

 

 

 これらのアメリカ音楽たちが、また優しく、ノスタルジックで、軽快で。イーストウッド演じるカールのキャラクターを描き出しています。

また、麻薬カルテルのヒスパニック・マフィアたちも親しみやすく描かれています。トランプ政権で、メキシコ人に対して風当たりが強いと思うのですが、彼らも同じ人間であり、愛すべき存在だと思わせられる描き方に友愛の気持ちを感じました。そこでも音楽の力が作用していると思いました。

 

アルトゥーロ・サンドバル

この映画の音楽クレジットはアルトゥーロ・サンドバル(Artulo Sandoval)キューバ出身のジャズ・トランぺッター、ラテン・ジャズの第一人者、巨匠です。彼は、ジャズからマンボやキューバ音楽まで幅広く演奏し、映画音楽も多く手掛けます。

2018年には、『アルティメット・デュエット』という、スティーヴィー・ワンダーアリアナ・グランデファレル・ウィリアムズプラシド・ドミンゴなど豪華ゲストとの共演アルバムを発表しています。興味の沸いた方はこちらも聴いてみてください。

 

 

『運び屋』という名の、老人の話を観たいと思う人がどれほどいるのかわかりませんが、イーストウッド映画に外れ無し。ツッコミどころもありながらも、新しい目線、切り口が沢山あって、単純なヒューマンドラマで終わりません。

巨匠のクリエイティブな感性に勉強させてもらったような満足感を得られました。

是非、皆さんも観て頂き感想を語り合いたいです。

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