メジャーアーティストも挑戦する!サブスク時代の「世界標準J-POP」

サブスク、特にSpotifyの特徴の一つに、国と国を隔てる壁を取り払い、新しいヒットを生み出すことがある。
SNSYouTubeTikTokなどと結びつき、Spotifyの持つプレイリスト機能や、優れたリコメンドによって世界中のリスナーを結び付け、グローバルなヒットを生む。
AmPmなどインディ・アーティストが海外で聴かれた事例は多く知られているが、メジャーアーティストについても、2019年サブスク解禁と時を同じくして、目立った海外アプローチが見られるようになった。

まずは、2019年、世界マーケットを意識した楽曲をリリースしたメジャー・アーティストの曲をプレイリストにまとめみた。チェックしてみてください。

 

https://open.spotify.com/playlist/4sFgR5ucklOBRe3UAKurdY?si=zvxhdr1AQ9ijiDepT0UBnQ

 

「国内向け」「海外進出」といった考えを捨てて、世界的な音楽トレンドと日本らしさを両立した「世界標準のJ-POP」を模索したこれらの曲たち。並べて聴いてみるとJ-POPの未来が見えてくるようだ。

その中から、今回の記事では3曲取り上げてみる。是非読んでみてください。
※ウラ話とかそういうのはありません。

 

 「Face my fears」宇多田ヒカルSkrillex

世界的な人気ゲーム「KINGDOM HEARTS Ⅲ」のテーマ曲としてリリースされたSkrillexとのコラボ曲。ピコ太郎以来のビルボードチャートTOP100にランキング入りを達成した。

 


Hikaru Utada & Skrillex - Face My Fears [Official Video]

Skirillexはダンスミュージック・シーンのトップDJ/トラックメイカー。ポップシーンにおいては、ジャスティン・ビーバーが現在の地位を確立した楽曲「Where are U now」でも知られる。この「Face my fears」には、もう一人世界的なヒットメーカーが関わっている。ジャスティンの殆どの曲でCo-writer、プロデューサーとして参加しているのがPoo Bearこと、Jayson Boydだ。ジャスティン・ビーバーの音楽的なパートナーと言っていいだろう。このPoo Bearを起用したことで「Face my fear」は、Skirillexのトラックのみならずヴォーカルパフォーマンスにおいても世界標準を目指した曲だ。


Skrillex and Diplo - "Where Are Ü Now" with Justin Bieber (Official Video)

そして、プロモーションとマーケティングにおいても、この曲は緻密に練られている。
オフィシャルミュージック・ビデオの英語バージョンは、YouTubeではSkrillexのチャンネル から、日本語バージョンは宇多田のチャンネルから公開されている。こういった一見細かいように見えるが、信頼関係の構築や、丁寧な交渉なしには実現しない事だと思う。

また、特設サイトを開設、世界的な広がりを可視化させている
http://www.utadahikaru.jp/hikaru_utada_songs/

宇多田ヒカルのボーダーレスなアプローチは、今回に始まったものではない。約10年間にわたり積み上げたものが、日本の音楽ビジネスにおけるサブスク解禁で、より加速したと言える。

過去に「UTADA」名義での世界デビューがあるが、これは時代が早すぎた。
2010年に過去楽曲のYouTube公開を行い全世界のJ-POPファンを掘り起こしたことが海外ファンが彼女の音楽に触れられるようになったスタートだろう。その成果は、2016年リリースされた8年ぶりのアルバム『Fanotome』(3位)、翌2017年に「KINGDOM HEARTS」とのタイアップ「光-Ray of Hope Mix-」(2位)をリリース、この2つが全米iTunesランキングで上位にランクインした。この2つで得た感触をもとに準備してリリースされたのが「Face my fears」だろう。
2018年には、アルバム『初恋』に収録されたUKのラッパーJevonをフィーチャリングした「Too Proud feat.Jevon」を、中国、ヴェトナム、韓国ラッパーを起用したリミックス「Too Proud featuring XZT, Suboi, EK (L1 Remix)」をリリースし、そして、今回の「Face my fears」へと繋がっていく。

open.spotify.com

open.spotify.com

Skrillexや「KINGDOM HEARTS」といった派手なワードに注目したくなるが、クリエイティブもマーケティングも、地に足がついた発想で行われている。

 

「Same Thing」星野源
日本を代表する人気シンガーソングライター星野源の代表曲といえば「恋」だろう。しかし、この曲のリリースも2016年、この「恋」や、その後のシングル「Family Song」「アイデア」などを収録した『POP VIRUS』は2018年にリリースされ2019年ドームツアーを実現、盛大に集大成を迎えた。国内の音楽シーンの頂上に登りつめた彼が、新たに世界標準の音楽志向を表したのが『Same Thing』のEPだ。
日本人ヴォーカリスト含む多国籍バンド、スーパーオーガニズムがアレンジ担当した「Same Thing」。ラッパーPUNPEEとの「さらしもの」、トム・ミッシュとの共作「Ain't Bobody Know」が収録。内容もさることながらリリースも「J-POP方式」に固執せず、世界と隔てないアプローチが取られている。

この『Same Thing』はデジタルオンリーのEPとしてリリース、表題曲「Same Thing」はApple Musicで先行配信し、Apple Music内の全世界生放送のラジオ”Beats 1”にて日本人初の番組を持つなど、Apple Musicでの取り組みに加え、Spotifyでは自作曲と洋邦の曲を混ぜたプレイリスト”so sad so happy”を公開している。

オリジナル曲の背景にどんな楽曲を好んでいるかを伝えながら、広がりも生み出すプレイリスト・プロモーションの定石的な手法だ。彼が選んだ洋楽曲とオリジナル楽曲を並べて聴いた時、この「洋邦を隔てないJ-POP」が理解できるだろう。

YouTubeでは、毎回お馴染みの、曲途中での宣伝挿入をやめ、フル尺アップを行っている。これも日本マーケット限定のアプローチから世界標準への変化と感じられる。


星野源 – Same Thing (feat. Superorganism) [Official Video]

 日本的な感性を持ち、言葉やメロディを操り新しい時代の男性ソロシンガーソングライターの旗手である星野源。曲調や発信方法は変われど、表現している事は変わらない。

 

「Lost feat.Clean Bandit」End of the World

End of the worldは、SEKAI NO OWARIの海外活動での名義。「Lost」は、「Rather Be」など世界的大ヒット曲を持つクリーン・バンディットとの共作、共同プロデュース楽曲。イギリスのソニー系レーベル「Insanity records」(Sony UKと総合エンタメグループInsanityとの合同レーベル)と契約しての第一弾シングル。


End of the World - Lost (Official Video) ft. Clean Bandit


2010年にデビューし、2012-2013年頃「RPG」や「Dragon Night」など大ヒットを飛ばし、トップアーティストとなったセカオワ。デビュー前から彼らが海外での活動を志向してているという発言はよく耳に入ってきた。
2014年「Dragon Night」でNicky Romeroを共同プロデューサーに迎え、大ヒット。アウル・シティの「Tokyo featuring SEKAI NO OWARI」がリリースされている。2016年には、「Lost」で共演しているクリーン・バンディットのNYとLAの公演のOAでライブも行っている。このライブでのの名義は「SEKAI NO OWARI」ではなく、End of the Worldだ。この時期から、この二つの名義を国内外で使い分ける状態が始まっているようだ。このあたり分かりにくさを感じなくもないが、以下のインタビューで語られているので、読めばある程度納得がいく説明がなされている。
(※一筋縄でいかない海外活動の大変さの一端が感じ取れる貴重なインタビュー)

highsnobiety.jp

そして、End of the World名義で「One More Night」という曲をリリースしている。この曲はアメリカ人シンガーソングライターChristopher J Baranと共作している。


End of the World - "One More Night" (Official Video)


2016年の海外コンサート、2017年「One more night」2018年「Stargazer」、韓国のHIP HOPアーティストのエピックハイとコラボした「Sleeping Beauty」とリリースしている。

このような試行錯誤の末、イギリスのレーベルと契約し、初のリリースとなったのが「Lost feat.Clean Bandit」というわけだ。この曲のリリースに合わせて開設されたHPには、2019年終わりにリリースされるアルバムからのリード・シングルと書かれているので、すでにアルバムは完成しているのだろう。

endoftheworld.jp

日本では、2019年にSEKAI NO OWARIの作品として『Lip』『Eye』の約4年ぶりにフルアルバムを2枚同時発売している。アルバムリリースのなかった2015年~2018年ごろ、国内の音楽シーンの視野で考えると彼らがどこに向かっているのか、見えにくかったかもしれないが、その間、彼らは日本と海外を行き来しながらライブを行い、外国人ソングライターやプロデューサーと共作し、試行錯誤を続けていたようだ。
日本のマーケットと海外とで好まれる音楽の違い、言語の壁、ビジネスの仕組みの違い、、これらとぶつかりながら。容易ではない道を前進している。

 


上記3アーティスト以外にも、海外挑戦には沢山のドラマがある。
是非、若いアーティストの方やスタッフの方に自分たちの音楽を「作る」「売る」ことを考える際の参考にしてほしい。
また、海外での活動、グローバルな音楽シーンと接触の多いONE OK ROCKやBABYMETALや話題となった嵐、ダンスミュージックという切り口で世界的なビジネス展開やコラボを実現させるLDH系アーティストなど、いろんな記事やインタビュー、動画が多く発見できる。このテーマで何かイベントでもやりたいものです。

引き続き、新しい動きにも注目していきたいので、この記事やプレイリストをチェックして頂いた方とは、多様な視点でディスカッションできればと思います。
SNSでも、ぜひ気軽に絡んでください。


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ニューミドルマンコミュニティマンスリーMeetUp 「MusicTechRadarVol.1」
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脇田敬

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著書『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』,