映画『アリー/スター誕生』の真の魅力(ネタバレ)

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『アリー/スター誕生』について、音楽については以前書きましたが、映画についても書きます。あまりこの映画にピンと来ない人もいるようですが、何が面白いのか、考えてみました。

wakita.hateblo.jp

 

何がそんなに素晴らしいのか。

・音楽がいい!映像がいい!ドラマがいい!
・上の全てが一体となっている。
・女性映画

といったところだと思います。

一番の見どころはレディー・ガガの歌唱であるところは間違いないと思いますが、だったら、普通にライブ映像を見ればいいという事になるので、やっぱりドラマパートや演技、ストーリーが素晴らしくなくてはいけない。
そこが初監督のブラッドリー・クーパーが、見事に丁寧に作り上げている事が驚きで、さらに役者の彼が歌までバッチリこなしているところでさらにビックリです。



アーティスト主演の音楽映画として稀な成功例
この映画の本当に凄いところは、このドラマパートと音楽が見事にハマっているところです。
各曲の歌詞が、ストーリーの展開としっかり結びついているのはミュージカル的ですが、ミュージカルはここまで繊細なドラマ部分は描けない。
テンポよく、ストーリを展開させないといけない。
その点『グレイテスト・ショーマン』も『ボヘミアン・ラプソディ』も伝記ものミュージカルとして大成功しているのは、多少の人間描写は大ざっぱにしてでも、音楽のノリを失わずテンポ重視で進む。

しかし、『アリー/スター誕生』はこの人間描写を、じっくり、丁寧に描く。クリント・イーストウッド映画のように。。
クリント・イーストウッドの映画は監督自身が作曲してたり、音楽には毎回相当こだわっていて素晴らしいですが、インストとかジャズ。イーストウッド作品のポップスものと言えば、フランキー・ヴァリ&フォーシーズンズの伝記ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』があるが、これも役者が演じているミュージカル。
『アリー/スター誕生』は、主演二人が自分のパーソナルを重ねて監督し、演じ、作曲し、歌っている点で、それを上回るインパクトを生み出すことに成功している。

アーティストの映画挑戦は、演技が下手だったり(ホイットニー?マライア?)、パブリックイメージと役のイメージに違和感があったり(マドンナ?)、破綻する要素が山ほどある。
役者は他人を演じるのが仕事ですが、アーティストは本人が商品で、心の奥をさらけ出すのが仕事ですから仕方ないとも言える。

アーティストを別の人物として見るのは有名アーティストであればあるほど難しい。
音楽ものの映画で、これだけ、ドラマと音楽に説得力を持たせた映画は今まで無かったのかもしれない。それこそ、一作前の『スター誕生』のバーブラ・ストライサンド以来か?


男に媚びないアリー中心のフェミニズム映画
すっぴんで飾り気のない、誰にも媚びない主人公アリー(ガガ)が、スター歌手のジャクソン・メイン(ブラッドリー・クーパー)と出会い、スターになるシンデレラ・ストーリーですが、出会いから、アリーは、このイケメン・大スターに、一切色目を使わない、媚びない。ジャクソンも紳士的。スターなのに偉ぶらない。女性にもゲイにも優しい。ドラァグ・バーに素で溶け込み、スーパーで買い物し、駐車場で語る。
この時点で、ジャクソンがいかに女性にとって理想的な男か。

そして出会い。有名無名、大スターとウェイトレスが、男女、セクシャリティを超えたところで、出会い、歌を通して心を近づけ、心の深いところに触れ合う。。

この、序盤の丁寧な描写から、遂にアリーが、一歩踏み出したところで、この映画屈指の名場面、「Sharow」のシーンに繋がるわけです。ウェイトレスから、大観衆から喝さいを浴びるシンガーへ。夢のような展開。。
そんな最高にロマンティックで、理想の恋+最高の音楽が展開される前半のピークが以下の曲「Always Remember Us This Way」です。


Lady Gaga - Always Remember Us This Way (From A Star Is Born Soundtrack)


ですが、後半、ショービジネスのうねりの中に二人は叩き込まれるわけです。。
アリーをもっと売りたいという、敏腕マネージャーが登場し、ジャクソンの手を離れて、アリーが更にスターへと飛躍していくわけです。ここから、生き馬の目を抜くと言われるショービジネスの荒波に巻き込まれ繊細で弱い男ジャクソンがどんどん堕ちていく。これを延々と見せられるのは男性にとってはつらく。脱落していく人は多いかもしれない。ジャクソンには、『グレイテスト・ショーマン』のような大逆転は無いので感情移入した人はスカッとすることはない。

逆に、アリーに感情移入すると、仕事で挑戦し続け、バシバシ結果を出し、プライベートでは、ダメになるジャクソンをひたすら一途に愛し続けるアリー。ジャクソンへの愛ゆえに悩み苦しむ後半があり、その絶望から自分の足で立ち上がる。この、自分にとっての最高の男が無残に堕ちていく、それでも愛し抜くアリー、、共感する女性は多いのでは?
この明暗が分かれる後半は完全に女性映画です。

前半は男性にとっても気分がいい。無名の女性の才能を見出し、最高の舞台で愛を表現する。しかし、後半は正しい事をしようと思って苦闘しても全てが上手くいかず、誰にも理解されない。薬物とアルコール依存。自分の意見と逆に進み成功し続けるパートナー。これは辛い。。
クライマックス、悲しい事件、強く愛し合いながらも、終わりしか残されない男の最後。そして、そこから力強く自分の足で立ち、全てを歌に込める女。
常に優しくアリーの見方であり続けようとするあまり沈むジャクソン、そんなジャクソンから目を逸らさず愛し続けるアリー。。前半の丁寧な描写があればこそ、この後半が
辛い。。
美しい幸せな愛の前半と、悲劇しかない後半


リアルな音楽ビジネス描写
音楽ビジネスに身を置く私のようなものには、アリーのパフォーマンスやヘアメイク、衣装など路線について疑問を持つジャクソンの意見と真逆に成功街道を突き進むアリーという、シビアな描写にリアリティ感じました。『アリー/スター誕生』は音楽ビジネスの描写もリアルです。そこでのクーパーとガガの本気が伝わり熱くなります。
ダンス・ポップ路線の曲に乗せて、歌い踊るアリーに対して、ジャクソンは、余計なもの等必要ない、本物の歌を歌えばいいんだというような意見ですが、アリーはマネージャーに従い、髪色を変え、メイクし、ダンスし、ポップスターへと変貌します。そして、成功の階段を上り続けます。このあたりは、前半のスターが前日出会った素人をステージに上げるより数倍リアリティを感じます。
このポップスター描写を陳腐なものにし、ジャクソンと奏でる「生」の音楽を本物、打ち込みのポップを「嘘」の音楽として描くことは簡単です。音楽を題材にした映画にありがちな売れ線ポップを軽いもの、間違ったものというステレオタイプな描写。この映画は、特にガガがそんなことは許さない。このポップスター描写も、普通にカッコいい。どの曲もハンパないクオリティ。そんな生半可な甘い世界ではない事をきっちり描きます。
ジャクソンを決定的に追い詰めたマネージャーの言葉も、まさにショービジネスの世界の厳しさを凝縮したようなセリフだ。このマネージャーを悪者にしてしまうと、安易なステレオタイプ「搾取する音楽ビジネス」描写となる。そこへ行かず、それを超えたところで「スター」として生きるアリーを描いているところが、ガガが本気で取り組んだことが伝わる重要なポイントと言える。


レディ・ガガ、存在の意味
アメリカの女性エンタテイナーの頂点であるバーブラ・ストライサンドの代表作の一つでもある『スター誕生』をリメイクしたわけですが、当初の主演候補はビヨンセ。監督はクリント・イーストウッドだったそうで、顔合わせまで済んでいたがビヨンセの出産で実現しなかったそう。結果的にガガとクーパーのコンビで大成功し、これはガガ以外考えられないハマり役になった。この成功によって、ガガは「現代最高の歌姫」(映画のキャッチコピーより)となったわけだが、この「現代最高の歌姫」的なアーティストを挙げると、

ブリトニー・スピアーズ
ビヨンセ
テイラー・スウィフト
ケイティ・ペリー
アデル
アリアナ・グランデ
あたりか。

90年代~2000年代は ホイットニー・ヒューストンマライア・キャリーセリーヌ・ディオンら歌姫

80年代~90年代さらに2000年代に至るまで マドンナは君臨し続けている

凄いパフォーマンスとメッセージ性、アートな表現で、2010年代を代表する女性アーティストかと思われたレディー・ガガが、つまずき、キワモノっぽいイメージで見られるようになったのは、「Born This Way」がマドンナの「Express Yourself」のパクリと呼ばれたあたりからだろう。セクシャリティへのアプローチやアート性など、マドンナと共通する部分が多く、正当な後継者と思われたガガが失脚したのが、このパクリ問題だと思う。

バーブラ→マドンナ→ガガというのは、ニューヨークのアーティストで、ウーマンリブジェンダーセクシャルマイノリティへのシンパシーなど共通するリベラルな女性アーティストのポジションの印象が強いので、ガガが「マドンナ・ダメージ」から脱出し、トップ・アーティストに返り咲くターニングポイントがバーブラの『スター誕生』のリメイクとは面白いなと思う。ちなみにバーブラアカデミー賞グラミー賞トニー賞という権威ある3つの賞すべてを受賞している。






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