「CD売れない」記事に思う、サブスク時代の音楽の売り方

少し前にあったこの記事に驚いた。
CDが売れなくなってる事に、、ではなく「CD売れない」記事が今だに注目される事に、だ。

forbesjapan.com

アメリカの音楽シーンはサブスクリプション(定額制ストリーミング)が既に主流となっているので、ニューカマー・アーティスト、しかもダンスミュージック系のCD売り上げ数が低いのは驚く事ではない。

それよりもこの記事の大事な点は、デビュー2年の新人であるラッパーが、どこから現れ、どうやってヒットチャートの頂点まで上がって来たのか、だと思う。

 

 

売れるものには理由がある。そこには仕組みがある。

サブスク時代に才能ある新人が「ブレイク」「ヒット」を達成するには、しっかり機能した無料音源のシーンでスマッシュヒットを飛ばし、「有料」の入り口であるサブスクへ(特にSpotify)ステージを移し、Viralチャートで上位に食い込んだり、プレイリストに入る事で表舞台の音楽シーンにエントリーする。

そこで広く知られることにより、やっと本当の意味でのビジネスがスタート。音源商品(CDやダウンロード)、ライブ、グッズ、ファンクラブといった4つの商材を販売するビジネスが可能となる

ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務 答えはマネジメント現場にある!

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ヒットの指標となっているサブスクリプション(定額制サービス)

SpotifyApple Musicに代表されるサブスクリプション(月額制サービス)を中心に回っている。その中でメインストリームであるHIP HOP系を支えるのは、ネット上にアップロードされたたフリー音源「ミックステープ(Mix-Tape)」の存在だ。このミックステープ・シーンでの評判からスターが次々と生まれている。

その名の通り、昔はDJミックスしたカセットテープだが、今では、クオリティもオリジナルアルバム並みに進化、商業目的ではないギリギリの線で色んなルールからも自由な創作を行い、登竜門として機能し、サブスクリプションの普及後は相乗効果を生み、チャンス・ザ・ラッパーのグラミー受賞などに代表されるビッグヒットや大ブレイクアーティストを多数生み出し、現在のヒップホップ系の隆盛を生み出している。


ドレイクやケンドリック・ラマー、チャンス・ザ・ラッパーのようなスーパースターは、このミックステープをきっかけに人気を得て、サブスクリプションでの記録的な再生数でその地位を確固としたものにしているのだ。

今の音楽シーンを理解するカギとなる「ミックステープ」について詳しく知りたい方は、以下の本で

ミックステープ文化論

ミックステープ文化論

 

  

無名からトップへ~整備された道
ミックステープ→批評サイト→デビュー→ヒット

この全米NO.1アルバムアーティスト、 Boogie Wit Da Hoodieもその一人である。

NYを中心に活動するラッパーである彼は2016年にオンライン上にミックス・テープ『Artist』をアップし、メディアやリスナーの評価を得た事で、その名を広め、アトランティックレーベルとメジャーディールを結んだ。

『Artist』はオフィシャルYouTubeにて聴くことが出来る。
普通に販売していておかしくないような内容だが、これを正規リリースするより、ミックステープシーンに無料でばらまく方が、キャリアアップに繋がる状況が出来ており、結果、彼もそのルートに乗って、メジャーディールを獲得している。

www.youtube.com

 

 結果、2017年にデビューアルバム『The Bigger Artist』とリード曲「Drowing」はネット・シーンでの盛り上がりの波に乗りヒット、チャート上位に登場し、更には今回の作品『Hoodie SZN』での全米1位へと順調にキャリアを進めた。

 

 


A Boogie Wit Da Hoodie - Drowning (WATER) [Official Music Video]

 

ミックステープや、YouTube動画にアップした音源がネット、スマホSNS世代の口コミやバズとなり、批評もしっかり機能し、クオリティの向上を支え、その盛り上がりが、そのままサブスクリプション(特にSpotify)のランキングに反映され、さらに広がる。

このエコシステム(生態系)が確立していることが、今のヒップホップの隆盛を支えている。

 

日本では?

このミックステープ(Mix-Tape)という文化は日本にはない。
日本でそれに近いものというと、インディーアーティストがYouTubeやSound Cloudにオリジナル音源をアップし、ライブ会場でCD-Rなどを手売りで販売するのに近い感覚だろう。
同人と呼ばれるシーンやかってのニコニコ動画などは、無名のミュージシャンが知られる仕組みが出来ているが、そこから上に上がっていき、「ヒット」や「ブレイク」を果すというよりは、趣味や、ビジネスから線を引いた自由な創作を重んじる傾向が強く、メジャーシーンとの連動がうまくいってないと思える。

「eggs」や「nana」といったサイトも近い役割かもしれないが、こういったネット上の音源は、まだまだアーティストが上に上がるチャンスを担っていない。もっといえば、サブスクの普及もまだまだ。

 

日本において、新しいアーティストが登場しブレイクする手段として成立している例


・フェス系バンド・・・

ライブハウス・シーンで頭角を現す→TwitterYouTubeを補助に使いインディ・リリース→フェス出演やメジャーデビューで広まる。

 

・地下アイドル系・・・

ライブハウス・イベント→口コミ、批評が盛ん→アイドル・フェス、メジャーデビュー

 

・同人系クリエイター・・・

同人系イベント→SoundcloudYouTubetwitter→アニソンの制作

 

上の3つのように、口コミが発生する場やシーンが出来ているジャンルは、新しい才能が育ち、知られる道筋が出来ているので、他に比べれば、新しいアーティストが浮上することは可能だ。しかし、それでも茨の道である。

オンライン上にシーンを生み出さない限り、サブスク時代のスピードにはついていけない。もはやCDプレイヤーが部屋に無い時代、PCすら持ってない人が増えている時代であることを考えるとどうにかならないかと悲観的になる。

もっと絶望的なのは、シーンや場、ツールが無く、高いクオリティが前提となっているシンガーソングライターやポップス系シンガー/ユニットだ。
昔ながらの事務所やレコード会社所属に頼るしか道はない状況はとても厳しい。

「日本ダメ」みたいに言ってるように聞こえるかもしれないが、日本にも優れたシステムがある。

ニコニコ動画は、世界の最先端を行っていたムーブメントだ。画期的なボーカロイドソフトと動画サイトが合体し、トラックメイカー、作曲家(ボカロP)、シンガー(歌い手)、絵師(イラスト)、動画師(映像編集)など、様々なクリエイターとユーザーのエネルギーが交わって爆発的な盛り上がった、世界の未来を予言したような革命的な最先端のカルチャーだった。

詳しくは「ヒットの崩壊」なども書かれている柴那典さんの名著で↓

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

 

  

トップアーティストが上がってきた道


さて、最後に、このミックステープで注目を集め、実際にトップに上り詰めたアーティストThe Weekndの軌跡を紹介したい。

昨年末、初の来日公演を行い、ワンアンドオンリーの「声」の力、陰のある曲調が結び付いた楽曲を少ないMCで歌い続けるライブスタイルでオーディエンスを魅了した。こんな素晴らしいアーティストが、ガンガン出てくる音楽シーンにしたいものです。

 

ちなみにゲストアクトは 米津玄師。2018年日本で一番売れたアーティストである彼は、ニコニコ動画ファーストブレイク→ユニークなバンドスタイルでポジションを築く→ソニーに移籍、ドラマ主題歌を手掛けるようなポップスを生み、遂にはお茶の間の頂点に存在するアーティストになった。


米津玄師 MV「Lemon」

 下から、草の根からトップへ上がるという意味で共通する道を歩んできたアーティストの共演という意味で興味深いライブでした。

 

The Weeknd

2015年全世界で大ヒットを飛ばし、トップアーティストの地位を固めた、シンガー&クリエイターThe Weekndことエイベル・テスファイは、1990年2月生まれ、エチオピア人系カナダ人。インターネット/ミックステープからメインストリームへと進出。

2010年末に、The Weeknd名義でYOUTUBEに3曲のデモ音源をアップ。同郷のドレイクの関係者がその存在をブログで取り上げたことで口コミが広がる。

2011年3月に最初のミックステープ『House Of Balloons』をフリーでリリース。一躍脚光を浴びる。ファンにより多数の非公式ミュージックビデオが作られるほどの人気と話題性を得、本作は累計で800万回のダウンロードを記録。

同年7月には地元トロントで初のライブ。各メディアの年間トップアルバムに選ばれる。

2012年リパブリック・レコードとメジャー契約。フリーで発表したミックステープ3作をまとめ、ボーナス・トラックを追加した3枚組アルバム『Trilogy』をリリース。全米ビルボード・チャートで4位に初登場、全世界で累計100万枚を超えるセールスを記録。

 

 2013年9月10日メジャーデビュー後初めて制作したアルバム『Kiss Land』で全米2位を記録。

2014年にアリアナ・グランデの「Love Me Harder」にフィーチャリング&作曲、2015年世界中で大ヒットした映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』に「Earned It」が起用されては一気にファン層を拡大した。


Ariana Grande, The Weeknd - Love Me Harder

 


Earned It (Fifty Shades Of Grey) (From The "Fifty Shades Of Grey" Soundtrack) (Explicit...


6月「Can’t Feel My Face」は全米No.1に。

ダークR&Bのテイストを残したまま、よりポップフィールドに適応させ国境を超える大ヒットアーティストへと登りつめた。


The Weeknd - Can't Feel My Face

 


The Weeknd - I Feel It Coming ft. Daft Punk

 

最後に、、
「無料」と「有料」を使いこなすのが今の音楽ビジネス

CDが売れない事が問題なのではなく、ネット/SNS時代に、いい音楽、いいアーティストがどんどん世に出ていかないことが問題。
意識を持ったアーティストやスタッフの方はサブスク時代をどう攻略すればいいのかについて関心を持たれていますが、この記事で書きましたアメリカの状況など参考にすると、無料音源をうまくネット上に展開する事が鍵だと思います。

EDMシーンのクリエイターを世に出したのも、若いアーティストが上がっていく手段となったBeatportのようなサイトだと思いますので。
ちなみにZeddもこのサイトのオーディション出身。。
詳しくは、また別の機会に。

www.beatport.com

 

この問題について一緒に考えたいという方は、ぜひ、ご連絡ください!