アカデミー大本命『グリーンブック』観ました。
3月1日より公開の映画、アカデミー賞最有力候補の『グリーンブック』を試写で観てきました。 (ネタバレ無いと思います)
アカデミー最有力は沢山あるが、これが本命?チラシやHPも「最有力」→「大本命」に変わっており、関係者も賞レースに手ごたえを感じているようです。
実在のピアニストが題材となっている作品。今回もサントラや関連曲のプレイリストを作ってみましたので、Spotifyで聴いてみてください。
公民権法が成立する以前の1962年を舞台に、黒人ピアニストとイタリア系ドライバーが、人種差別の根強いアメリカ南部(Deep South)をツアーする話。
まず、インテリで裕福な黒人の天才ピアニストと貧しいブロンクス育ちのイタリア系白人という対比の設定がおもしろい。この対照的な二人のやり取りが微妙にズレているのが可笑しい。
二人は人種や立場が違っても、自分の生き方や仕事に真剣でプライドを持っているところがとても気持ちいいです。
オスカーも、主演、助演、監督、脚本、編集とノミネートされ、人間ドラマとして高く評価されているのがわかります。
音楽
ドラマが進む中で、良きタイミングで入ってくる演奏シーン。
ドン・シャーリーは黒人ミュージシャンなので、反射的にジャズやR&Bを想像してしまうが、流れてくる音がクラシカル。その演奏に喝采を贈るオール白人の聴衆。
この”ズレ”によって、観ている自分の固定観念を指摘され心を揺さぶられます。
理屈ではなく、音楽での指摘が、この映画のスパイスになっていると思います。
ドン・シャーリー Don Shirley
ストラヴィンスキーも絶賛したピアノ神童から「ジャズ・ピアノ・レジェンド」へ
さて、この話は実在の人物、実話を元にしており。1962年の南部ツアーは実際の出来事です。黒人ピアニスト、ドクター・ドン・シャーリー(Don Shirley)は、1950-60年代に多くの作品を発表したピアニスト。
2歳よりクラッシック・ピアノを習い、9歳でロシアのレニングラードに留学した「天才」。ストラヴィンスキーからも絶賛された神童だが、黒人ピアニストがクラッシックの世界で商業的に成功するのは難しく、カテゴリーとしてはジャズ・ピアニストとして活動したようです。
楽曲を聴くと、ジャズにクラッシックを折衷したイージーリスニングのようなインスト・ポップで成功を収めたようです。
ドン・シャーリーの最大のヒット曲が1955年の「Water Boy」。
ジャズ、クラッシック、映画音楽を折衷した音楽がこの時代のアメリカのメインストリームのポップミュージックだったのでしょう。
彼の客層は、ラジオで流れるリズム&ブルーズ、ロックンロールと違う、家のリビングでステレオで音楽を聴くような白人富裕層だったのでしょう。
※ボブ・ディランのブレイク、ビートルズのアメリカ上陸は1964年。
クリス・パワーズ
ジャズ界の新星は映画スコア、ヒップホップとボーダレスな活躍
今作では、劇伴スコアとDon Shirleyのライブシーンの演奏をクリス・バワーズ(Kris Bowers)という、ジャズ/クラッシック/映画音楽をクロスオーバーするピアニストが担当しています。まさに適任の彼は、他にも劇中のピアノシーンの手元を演じ、ドン・シャーリー役のマハーシャラ・アリのピアノ指導も担当。まさに全面的にこの作品に携わっています。
2014年のアルバム『ヒーローズ+ミスフィッツ』より「Forget-er」
ジャズ界最大のコンテストであるセロニアス・モンク・コンペティションで優勝。
ヒップホップ世代のジャズ・ピアニストとしてカニエ・ウェストとジェイ-Zのアルバムにも参加している。
https://www.universal-music.co.jp/kris-bowers/
ロバート・プラントも協力?
映画を彩る50-60年代のリズム&ブルーズ
ドライバーのトニー・リップが運転しながらラジオで聴く音楽は、リトル・リチャードやチャビー・チェッカーアレサ・フランクリンなどの”黒人音楽”。
これらの音楽をかけながら、美しい自然風景の中を、ターコイズ色のキャディラックでバーチャル・ドライブするのもこの映画の魅力の一つ。
この50-60年代の音楽の選曲には、元レッド・ツェッペリンのヴォーカリスト、ロバート・プラントも協力したそうだ。
監督の妻と、プラントの彼女が友人で、一緒に食事した際に「50年代後半から60年代前半で、今は聴かれなくなっているカッコいい曲を教えてほしい」と依頼。プラントのアメリカ音楽の知識から、YouTubeを再生しながらピックアップした曲が、この映画のサントラの元になっているそうだ。素敵な話。
最後に
個人的に、ドン・シャーリーにとても興味を惹かれました。
ジャマイカン系の黒人天才少年、8か国語を話し、心理学の博士号を持つ。9歳でロシア(ソ連)のレニングラード留学、ストラヴィンスキーに絶賛されたという経歴。
20世紀を代表する作曲家の一人であるストラヴィンスキーはロシア人、パリでバレエ音楽で成功し全世界で活躍した。彼がディアギレフやニジンスキーと作り上げたバレエ作品は常識や偏見を超えたものでした。
そんな彼がNYで、ドン・シャーリーと出会って何を感じたか。。
そして、もう一つ、運転手のトニー・リップは、イタリア系。
この年代のイタリア系の音楽と言えば、フランキー・ヴァリ&フォーシーズンズ。
映画『ジャージー・ボーイズ』予告編(ロングバージョン)【HD】 2014年9月27日公開
トニーがラジオのリズム&ブルーズを語る場面、頭の中で当時の時代の音楽について考えました。フォー・シーズンズやブルース・スプリングスティーン、ビリー・ジョエルのような音楽がここから生まれていくように思って胸が熱くなりました。
もう一度プレイリスト貼っておきます。フォローしてみてください!