3/8公開 クリント・イーストウッド主演・監督作『運び屋』
巨匠の最新作『運び屋』はライトに「善悪」を問いかける?そして、イーストウッド作品における音楽の役割
3/8より公開。クリント・イーストウッド主演・監督作『運び屋』。
88歳のイーストウッドが主演も行った最新作。
麻薬組織の凄腕運び屋が90歳のおじいちゃんだったという、『ニューヨーク・タイムズ』に載った実話を元に膨らませた話。
この映画で使われてる曲と、音楽家でもあるイーストウッド映画楽曲を集めたSpotifyプレイリストを作成しましたので、ぜひお楽しみください。
Spotifyプレイリスト作りました
さて、同年代の老人を演じたこの作品。実際のイーストウッドはありえないぐらい元気なので、90歳の元気をほどほどにな老いた姿を名演しています。
とはいっても88歳。レジェンドであり、映画史に燦然と輝く巨匠の最後の作品か?という目で見られます。1人の老人の人生の集大成を描きながら、イーストウッド自身の人生も重なります。と書くと重そうですが、作品の印象はライトです。
善悪、モラルに問いかけるイーストウッド映画
イーストウッド演じるカールは家族関係をないがしろにする反面、コミュニケーション力が高い人気者。とても魅力的なので、彼が行ってる事が社会に悪い影響を及ぼしているように感じられません。
『マディソン郡の橋』では不倫を純愛として描き、太平洋戦争を描いた二部作『父親たちの星条旗』『硫黄島の手紙』では日米両軍の視点から、硫黄島の戦いを描きました。その他、『ミスティック・リバー』『グラン・トリノ』『パーフェクト・ワールド』など、善と悪の両面を問いかける作品が多数あります。
一筋縄ではいかない、正義やモラルについて問いかけます。
この『運び屋』でも、法を犯して大金を稼いだ金を惜しみなく善行に使うかと思えば、遊びにも使う老人が描かれますが、そこが魅力的に見えるところに、価値観を揺さぶられます。
重要な役割を果たす「音楽」
作中、ゆったりと流れる時間で、役者の名演を通じて、それぞれの人物の心情が深く心に沁み込んでくるのが、イーストウッド映画の魅力ですが、この中で音楽の果している役割はとても大きいと言えます。
自ら、ジャズに造詣が深く、カントリーなどの音楽にも通じるイーストウッドの映画は、90年代以降のアメリカン人の考え方にも少なからず影響を与えてると思います。日本で近い立場の人は宮崎駿監督でしょう。
彼自身が作曲する事も多いテーマ曲では、アコギやピアノの静かな旋律が、心の奥深くに染み込み、決して白黒つける事が出来ない善悪という重いテーマを、優しく包み込みます。
そして今年のアカデミー作品賞を獲った『グリーンブック』(イーストウッド映画ではない)でもそうでしたが、車での移動シーンは観ていて爽快感があります。また、独特の音楽センスはイーストウッド映画の肝。車の中で聴く古いアメリカのポップスや麻薬組織と関連してでてくるラテン音楽もこの作品の魅力の一つです。
これらのアメリカ音楽たちが、また優しく、ノスタルジックで、軽快で。イーストウッド演じるカールのキャラクターを描き出しています。
また、麻薬カルテルのヒスパニック・マフィアたちも親しみやすく描かれています。トランプ政権で、メキシコ人に対して風当たりが強いと思うのですが、彼らも同じ人間であり、愛すべき存在だと思わせられる描き方に友愛の気持ちを感じました。そこでも音楽の力が作用していると思いました。
アルトゥーロ・サンドバル
この映画の音楽クレジットはアルトゥーロ・サンドバル(Artulo Sandoval)キューバ出身のジャズ・トランぺッター、ラテン・ジャズの第一人者、巨匠です。彼は、ジャズからマンボやキューバ音楽まで幅広く演奏し、映画音楽も多く手掛けます。
2018年には、『アルティメット・デュエット』という、スティーヴィー・ワンダーやアリアナ・グランデ、ファレル・ウィリアムズ、プラシド・ドミンゴなど豪華ゲストとの共演アルバムを発表しています。興味の沸いた方はこちらも聴いてみてください。
『運び屋』という名の、老人の話を観たいと思う人がどれほどいるのかわかりませんが、イーストウッド映画に外れ無し。ツッコミどころもありながらも、新しい目線、切り口が沢山あって、単純なヒューマンドラマで終わりません。
巨匠のクリエイティブな感性に勉強させてもらったような満足感を得られました。
是非、皆さんも観て頂き感想を語り合いたいです。