すでに海外では部分的にスタートしている次世代通信「5G」。
日本でも東京オリンピック開催の2020年よりサービス開始が告げられています。
簡単に言えば、スマホ通信がめちゃめちゃ速くなる!
といことですが、
それだけではない。
「超高速」「大容量」「低遅延」「多数同時接続」が実現、車の自動運転や、瞬時の認証により、家電や買い物などに新しい技術の導入が可能になり、社会を大きく変える技術革新が起こると言われています。
さて、そんな「5G」が、音楽に与える影響として、音楽リスニングの中心となった「サブスク」の高音質化が考えられます。
先日、Amazonが「Amazon Music HD」という、CD音質(16bit/44.1khz)、ハイレゾ音質(24bit/44.1khz以上)のロスレス音源をストリーミングで定額聞き放題で提供するサービスを開始しました。
1か月ほど試してみましたので、書いてみます。
「高音質」すなわち、アーティストが制作環境で意図した音に近づける事は、音楽の楽しみをより深く感じること。「音」を感じること。
デジタル技術が進化し、映像の分野は高画質化、3D、VRと進化するのに、音楽はなぜ、数十年前に開発された「CD」に固執するのだろうか?常々思ってきたので、「高音質化」は大歓迎!
音が良くなることは素晴らしい!
と思っているものの、最初の印象は半信半疑。
音楽リスニングは「音質」が全てではないからな、、と斜めに見ていた。
過去にCD音質聴き放題のサービスが開始され、試してみたが、使い勝手の悪さが上回り、すぐに使用を止めてしまい、ダウンロードしたハイレゾ音源の再生と、Spotifyの併用で落ち着いた経緯もある。
Amazonが音楽に誠意を持っているとも思えない。。。
しかし!
実際使ってみると、、、
Amazon Music HDはあなどれない!
・ハイレゾ音源のカタログが洋邦ともに充実している。
世の中に流通しているハイレゾ音源は、ほぼすべてと言っていいぐらいストリーミングで聴ける。さらに、ダウンロード・サイトで発売されていないタイトルも沢山配信されている。ハイレゾ音源(ULTRA HD)は数百万曲以上配信されているという。
・使い勝手がそれほど悪くない。
UIの快適さや、リコメンド機能、プレイリストなど。音楽を楽しむことにおいて、Spotifyには及ばないが、ストレスになるような使い勝手の悪さはない。
・音質についての、再生装置の性能の確認ができる。
ハイレゾにおいてネックとなる、再生装置の正しい設定か否かが簡単に確認できる。
音源に「Ultra HD」という表記があり、クリックすると、「24bit/96khz」などといったようにデータの詳細が確認できる。
私は、PCをスピーカーに接続して聴いているが、スマホアプリから、高音質音源が簡単に楽しめるので、5Gで高速通信が実現し、5Gスマホを入手すれば、音楽リスニング全体の高音質化が一気に進む可能性がある。
ハイレゾ・サブスク×次世代スマートスピーカーで見えるAmazonの戦略
そして、このハイレゾ・サブスクと連動したAmazonの戦略が大きな可能性を見せるのが、今後発売されるスマートスピーカー「Echo Studio」の存在だ。
2万円強のスピーカーで、 ハイレゾ音源の再生が出来る他、Dolby Atmosや、ソニー「360 Reality Audio」にも対応している。
映画やドラマなど、映画館で体験できるDolby Atmosでや360 Reality Audio対応の楽曲など立体音響が安価で自宅で楽しめる。
また、「今後、3Dマスタリングされた3DミュージックをAmazon Music HDより提供」と書かれており、このEcho Studioと合わせて、ハード、ソフト両面で、音響体験を提供する準備が出来ている。
現状、ハイレゾ音源を再生するには、「デジタル→アナログ」変換機(DAC)やヘッドフォンアンプが必要であり、立体音響もそれに対応した高価な機器が必要とあって、知識的にも価格的にも敷居が高いが、この「Echo Studio」によって、かなり手軽になる。ハイレゾ・ストリーミング、立体音響の一般層への普及に繋がる可能性がある。
ちなみに、立体音響については、昨年、ライブや音源制作において、実践してみたので、興味のある方は、以下の取り組みも知ってもらえると嬉しい。また、立体音響での音楽制作行いたいです。
こちらの記事でもDolby Atmosについて触れています。
※長ーい記事の後ろの方。
これ以降もDolbiy Atmosでの映画鑑賞はちょいちょい体験しています。
Amazonが音楽に対して、予想以上に積極的で、優位性のあるサービスを打ち出した理由としては、スマートスピーカーを中心に、スマート家電や音楽リスニング、動画配信といった生活全体を想定したビジョンがあるからだろう。
もちろん、物流における送料無料とセットで提供するPrimeサービスという展開も他社にない武器となっている。
ゲームやVR、MR、ARといった分野でも立体音響が活躍するので、この流れは加速するに違いない。
ハイレゾ・ストリーミングについての他社の動きも書いておこう。
ソニーによるハイレゾ・ストリーミング・サービス「mora qualitas」
https://mora-qualitas.com/
10月24日より、先行体験スタートとのこと。
まずは、オーディオ・ファン向けのサービスとしてスタートすると思われるが、ソニー・ミュージック・エンタテイメントのサービスとあり、所属アーティストの音源を積極的に配信する事で、この流れをリードしていく事が期待される。
この「mora qualitas」などSMEのハイレゾ事業の推進が、Amazonに邦楽ハイレゾ・タイトルが充実している理由となっているという説は有力だと思う。
Spotify Hi-Fi
以前話題になった、サブスクを牽引するSpotifyが準備を進めていると言われる「Spotify Hi-Fi」の動向も気になる。UIの使い勝手やレコメンド等、音楽の楽しみを最大限提供してくれるSpotifyが高音質化するとしたら夢のような音楽体験となるだろう。
Apple Digital Masters
Spotifyとサブスクの2強の座を争うApple Musicは、「Mastered for iTunes」と呼ばれる、24bitから配信用圧縮音源を生成する仕組みを持つ。
この規格は、圧縮音源であることは変わらないが、この取り組みによって「Amazon Music HD」において、ハイレゾDLサイトにもない「24bit/44.1khz」音源が多く聴ける結果をもたらしているのではないかと思う。すでにAppleに対して24bit音源を提供してきたことで、その音源を同じようにAmazonに提供し、それを圧縮せずにロスレス音源で配信しているのだろう。
最後に ~そもそも音質は大事なのか?~
「そもそもいい音って何?」という議論になることがある。
音質が良くなくても、優れたメロディや言葉、演奏、サウンドは楽しめる。
自分なりになるほど!と思った音質についての考え方を書いておきたい。
どこで知ったのか覚えていないが。。
音楽を聴くことは、お酒に似ている。
安いお酒でも酔えるが、いいお酒での酔いは気持ちよさが違う。
よく、ハイレゾ検証の記事などで、音源の聴き比べのテストを行っているが、違いがあまり感じられないという実験結果が見られる。
しかし、音質の違いがはっきり分かるのは長時間聴いた時だと思う。
お酒でも、一口飲んで、口当たりや味わいでの味の良し悪しもあるが、酔いは時間をおいて訪れる。そんな感覚として酔いを楽しむこと、これは音楽の楽しみに近い。
高音質音源も、1曲をいろんなデータで聴き比べて大した違いではないと考える人もいる。しかし、30分、1時間、2時間と聴き続けた時の高揚感、気持ちよさの違いはかなりの違いだ。
リラックスした時間と共に高品質の「音」を浴び続け、ハイな状態を感じる瞬間は真の贅沢であり、至上の喜びだと思う。
スタジオで、コンサート会場、クラブで、音を通じて何かを人に届けようとするミュージシャン、エンジニア、スタッフは、この感覚を知り、病みつきになった人たちだ。
そして、さらに「いい音」を追求し、その瞬間を追い求めていると思う。
そして、新しいテクノロジーの進化によって、日常での音楽体験が進化する事を歓迎したい。
脇田敬
https://www.facebook.com/takashi.wakita
著書『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』
ニューミドルマン・コミュニティ