あけましておめでとうございます。
年末にアップした2010年代を振り返った記事に続き、2019年を振り返りたい。
本年もよろしくお願いします!
2010年代がそうであったように2010年代終わりに現れた世代交代や新しいムーブメントが、2020年代にメインストリームとなり花ひらく種だ。 日々出会うニュースの数々を振り返り、また音楽制作やマネジメントの現場で感じた空気を思いながら振り返りたい。
★日本に広まるサブスク
続々と解禁されれるサブスク。
特に話題になったのは嵐。新曲とシングルリード曲を解禁。SNSやYouTubeも同時に解禁した。東京五輪における日本の顔として、海外に曲を聴かせる意味での解禁だろうと思うので、他のジャニーズグループの本格解禁はまだ先ということのようだ。
そして、年末サザンオールスターズが解禁された。日本の音楽業界の支柱的な存在であるサザンの解禁は「サブスク有り無し議論」を終わりに向かわせるだろう。
2019年にSpotifyで聴けるようになったアーティストのリンクをまとめました🎧
— Spotify Japan (@SpotifyJP) 2019年12月30日
解禁情報を見逃していたアーティストや楽曲がないかぜひチェックしてみてください‼️#Spotifyまとめ
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★サブスクがデフォルトのアーティストのブレイク
2019年新たにブレイクしたアーティストといえば、Official髭男ism、King Gnuだろう。彼らはブレイク前からサブスク公開されサブスクプラットフォームからのプッシュを受け、多かれ少なかれ、そこで支持を広げてきた。2018年のあいみょんに続き、サブスクに曲があって当たり前というスタンスでブレイクしている。米津玄師の「Lemon」やDA PUMP「U.S.A」、一昨年の星野源「恋」のような一年を代表するような派手にわかりやあすい曲は思い浮かばないが、よく言われる「ヒット曲がない」といった声はあまり聞かれない。様々なアーティストのサブスク解禁で音楽シーンの風通しはよくなり、多種多様なアーティストの曲と出会える環境が整い充実したシーンだったのだろう。
★サブスクによって、低くなる国外との壁。
嵐以外にも、宇多田ヒカルは世界的なトラックメイカーSkrillexとのコラボ曲をリリース。また、ビルボードアルバムチャート12位を記録したBABY METAL、End of the world名義でClean Banditをフィーチャリングした楽曲をリリースしたSEKAI NO OWARI、海外アーティストとの共演は、星野源、LDH系のアーティストなど多く見られた。コーチェラに出演し高い評価を得たPerfumeなど、メジャーシーンが積極的に海外マーケットを視野に入れたの動きが多く見られた。しかし、違うマーケットでヒットを生み出すことは簡単ではないことも明らかになった。これらのアーティストの挑戦はきっと2020年以降、徐々に日本アーティストが世界で聴かれることに好影響をもたらすに違いない。
2020年は東京五輪。日本に世界の注目が集まる。しかし、リオ五輪でブラジル音楽に興味を持った人がどれぐらいいて、そんな興味関心に応えるブラジル音楽がどれぐらいあっただろう?日本もそうならないようにと思う。
★中国ITサービスTik Tokから生まれるヒット
SNSやデジタル音楽サービスは基本アメリカや欧米のサービスというのが今までの常識だが、2018年にブレイクしたTikTokは中国企業バイトダンス社によるサービス。
IT大国中国の大企業といえば、Baidu、Alibaba、TENCENT。GAFA(Google、Apple、Faceook、Amazon)のように、BATと称される中国の巨大IT企業がある。これらとTikTokとの違いは、TikTokは欧米や日本、全世界で,流行っていることだ。BATは中国内の市場規模の大きさによって巨大企業となっている。中国市場に依存しない中国企業という新しい領域にあるバイトダンスがTikTokをどのように発展させていくのかに注目が集まっている。
このTikTokが2019年、Lil Nas X「Old Town Road」という明らかなTikTok発の大ヒットを生んだ。2000年代のYouTubeのように大ヒットを連発しそうだ。
★「ミーム(meme)」とは?
TikTokを語る上で欠かせない2019年のホットワードは「ミーム(meme)」だ。「お題」や「ネタ」のように、SNSやTikTokで変化しながら広まっていくことを言い表す際に使われた。「Old Town Road」では、ヒップホップ・ビートに乗せて「カウボーイ」をお題にショート動画をTikTokにアップする事が流行った。これは、「歌ってみた」や「踊ってみた」のようなものに比べ、自由度が高い。「江南スタイル」や「PPAP」のバズと比べると。模倣(コピー)ではなく、創作(クリエイト)の要素が強いYouTubeの現場でよく言われることだが、動画の創作はセンス、技術、労力が求められハードルが高い。しかしTikTokのように15秒ならアイディアとセンスで創作ができる。見る側もTwitterのようにサクサクとスワイプする。時間が短縮されることで、多くの動画と出会うので、無名の動画と出会える。さらに精度の高いアルゴリズムにより個々の趣向に合わせたリコメンドも充実している。
オーストラリアのシンガーソングライターTones and Iの「Dance Monkey」は、まさに「ミーム・ソング」として、Tik TokやYouTube、Spotifyが連動し大ヒットしている。
TONES AND I - 'Dance Monkey' LIVE (Splendour In The Grass 2019)
TikTokやYouTubeでバズり、気になった曲をSpotify等でチェックする。他にどんな曲を歌っていて、周辺にどんなアーティストがいるのかを知る。こうして「曲」から「アーティスト」へとリーチする導線は、サブスク時代のエコシステムの完成を感じさせる。
★ネット中継によりメディア化するフェス
フジは、去年から、サマソニは今年初、YouTubeでの中継を行った。
いずれもSoftbankがスポンサー協賛。5G(第5世代移動通信システム)時代にライブ中継というコンテンツに可能性を感じてのことだろう。
毎年、4月にサンフランシスコで行われるコーチェラ・フェスティバルのYouTube中継を観ている。その年の世界の音楽トレンドを知ることができる。フェス中継で出会う未知のアーティストをSpotifyでチェックするといった形で私の音楽ライフはどんどん充実していった。また、ライブ映像はもちろん、インタビューからも音だけでは知りえない背景やカルチャー面の情報が得られる。彼らの人間面、客席の反応、フェスでの位置など。同じようにフジの中継でも魅力ある日本のアーティストにも出会えた。
BLACKPINK - Kill This Love (SUMMER SONIC2019 Tokyo - Marine Day 3)
今年のコーチェラでは、ジャズティン・ビーバーが2年ぶりにステージに上がり、同じ事務所のアリアナ・グランデと共演、飛ぶ鳥を落とすブレイク・アーティストであるビリー・アイリッシュと初対面し、その瞬間の動画は大きなバズとなった。(その後、「Bad Guy」のコラボ・バージョンをリリース)。
Amazing show @ArianaGrande . Super proud of you. Had a moment mid show :) @billieeilish pic.twitter.com/UA3ci8QiV9
— Justin Bieber (@justinbieber) 2019年4月15日
その他にも、様々なアーティストの話題が中継やSNSを通じ世界中に発信された。
これは、かって雑誌やテレビが担っていた役割ではないだろうか。ヘッドライナーは表紙巻頭を飾るアーティストのようだ。お目当てのアーティストを観るためにアクセスして、他のアーティストに出会う。これからの時代、フェスはメディアでもある。
★増殖するVtuber
キズナアイなどの人気者を生んだVtuber(ヴァーチャル・ユーチューバー)のシーンは拡大を続けている。一部のヲタクやマニアのシーンと思われていたが、参入ハードルはどんどん低くなり誰でもVtuberになれるチャンスがある。逆に企業が収益を上げるのは簡単ではなくシーンは拡大しているのと逆に撤退する会社も見られる。個人Vtuberは、かってのニコニコ動画のように、歌い手、ボカロP、絵師、動画師、といったように、魂、イラスト、モデル、作曲家といった人たちが配信プラットフォームやTwitterなどでネットワーク的に結び付き、創造や発信する段階にある。ライブ配信アプリのSHOWROOMによる「SHOWROOM V」などに見られるように、さらに簡単になっていくだろうVtuber。この先にある未来は、かってのアメーバ・ピグのような、誰もがアバターを使って、人とコミュニケートした時代のヴァージョンアップしたものかもしれない。
私事だが、9月のイノフェスのトークセッションで「Vtuberやりたい!」と宣言した。が、まだ何も出来てない。美少女キャラクターになって音楽ビジネスの知識を語れば面白がってもらい注目されるのではと思っている。冗談ではなく、いろんな情報や知識スキルを手軽に面白く発信するツールになり得る可能性がある。
★変化する芸能界(ジャニーズ、吉本、AKS)
ジャニ―喜多川氏が亡くなり一つの時代が終わったと誰もが感じている。関ジャニを脱退した渋谷すばる、錦戸亮は、脱退後早々にライブやアルバムをリリース。かってジャニーズを辞めたタレントはこのスピードでここまでのことは出来なかった。ジャニーズという巨大企業が崩壊するとは思わないが、「ジャニーズ」という統一感のあるブランディングは薄まり、それぞれのグループ毎に個性を育てブランディングする普通の?大手プロダクションになっていくのだろう。
吉本興業、AKS(NGT)などにまつわる事件は、芸能界のマネジメントが変化の時期に来ている事を感じさせた。求められているのはファンへの丁寧な説明だろうと思う。事務所やタレントは誠意を持って事実や気持ちを伝える努力さえすれば理解してもらえると思う。このことはプロであればそんなに難しい事ではないのではないか。新しい芸能界の動きに期待したい。
★違法業者の取り締まり
2018年、高額チケット転売問題で「チケットキャンプ」が摘発。→2019年は「漫画村」運営者が逮捕された。「漫画村」のトピックは音楽から少し離れてしまうが、IT業者によるコンテンツの権利者無視という点で同じだ。ネットで法の目をかいくぐり、インターネットの「フリー」の思想を盾に、アーティストや作家の権利を無視して、広告収入で巨利を得る業者は今後出なくなってほしい。音楽においても、6月に、日本レコード協会など4団体、4つの配信会社が、Appleに対し、Music FMなど音楽違法アプリへの対策強化の要望を出した。
やっと業界や行政が動き、公式に、これらが「悪い事」だと認定されたことになる。大物アーティストのサブスク解禁と合わせて、ネット時代においてもクリエイターや権利者に使用料が支払われるべきだという意識はファンやアーティスト、業界に浸透し、やっとネットの利便性を享受できるオファイシャルなサービスを楽しむ形が出来つつある。
★K-POPも進化する
相変わらず日本で大人気のK-POPが世界的にも人気と評価を獲得している。グラミー授賞式にも出席するなどBTSは押しも押されぬワールドクラスのスターなのだと実感する出来事が多く見られた。そして、BTSに続くスター候補としてBLACK PINKが全世界メジャー展開。コーチェラの大ステージでやユニバーサル・グループのショーケースでのパフォーマンスなど、これこそが堂々の世界デビューといった売り出し規模。同じアジア人グループの本格的なワールドクラスの売り出しを目撃することができた。一方、日本では、IZ’ONE、PRODUCE101ら日韓プロジェクトが大きな盛り上がりを見せた。音楽だけでなく、ファッションや美容、食、様々な若者カルチャーのトレンドは韓国発信が多い。この勢いは当分続きそうだ。
★日本のネット音楽の先駆け、ニコ動出身アーティストの躍進
まふまふ、すとぷりといった、一般には知られてないニコ動系、キャス主、YouTuberの音楽アーティストがドーム公演を行った。2020年3月のまふまふの東京ドーム公演は一般に、このシーンの存在を認知させるだろう。 プラットフォームとしては退潮したと言われる「ニコ動」だが、いわゆるメジャー音楽業界とは別で、ネット系音楽シーンが独自の成長を遂げていた。
かつて、ニコニコ動画ではネット上でクリエイターが繋がり、ボカロP、歌い手、絵師、動画師など、コラボを行い膨大な作品を世に生み出した。また、既存のシステムでは対応しきれない互いの利益や権利についてのルールもクレジット表記などの独自のマナーを開発し処理した。これらは技術や制度が追いつかず、あくまでも表記に留まったが、今後ブロックチェーン技術などにより、この仕組みに似たものが金銭を伴った形で実現していくのではないか。そんな時代に、日本独自の「デジタル・ネイティブ」、「ネット音楽ネイティブ」のアーティストたちが大活躍するだろう。
コラボにおけるオンラインでの金銭分配については、Tunecore Japanによる、こちらのツールにも注目したい。
★世界の主流「ラップ」が日本で見せた意外な展開
世界の音楽のメインストリームであるHIP HOP/ラップ。日本においても一時の下火菜時期から「フリースタイルダンジョン」以後、若い層に支持が広がっている。約10年以上にわたるK-POPブームでもラップに慣れ親しんでるだろう。そんな中ブレイクを果したのがアニメキャラクターにラップさせる「ヒプノシスマイク」。ラップの魅力がアニメ女子にも浸透している。世界の音楽シーンから隔離されガラパゴスと呼ばれる中、予想もつかない流行りが生れる日本独特の音楽シーンの面目躍如だ。海外、特にアメリカでヒップホップ/ラップが絶大な人気を得ている背景に、ミックステープ、YouTube、サブスクなどのネットツールによって、フレッシュな新人があっと言う間に口コミでバズる環境が整っている。日本においては、ネット上での口コミやバズが起こる環境が整っているジャンルはアニメだ。日本のラップがイケてないわけではないし、日本のリスナーがラップを求めていないわけではないので、海外に比べて日本でのラップ人気が弱いのは、口コミやバズを生むネット環境が不十分だったという事が明らかになった。
★リスニング体験も進化する Amazon Music HD&Echo studio
サブスクの次の進化の段階はポッドキャスト(トーク)、そして高音質だろう。9月にスタートしたAmazon Music HDは、ハイレゾ音源とCD並みの音源が月額で聴ける。CDをさらに不要なものへと押しやるサービスの登場である。しかし衝撃はそれだけではなかった。立体音響(Dolby Atomos他)にも対応したEcho Studioという2万円ほどのスマートスピーカー(アレクサ)を発売し、サブスクとハードの両軸で、立体音響での音楽リスニング、Dolby Atomos対応の映画を自宅で楽しめるホームエンタメ鑑賞を一歩も二歩も押し進める。また、スピーカーというハードを売り、送料無料や映画、音楽のセットで課金する、バンドル形式を仕掛け、今後の流れをリードしている。
このバンドルプラン、Apple、Googleも行うのだろうか。音楽、映画は業界も違い、ビジネスも違う流れだったが、その壁が今取り除かれようとしている。
さまざまなサービス普及により、高音質化や立体音響のような「音」の進化が一般に普及することを期待したい。
★最後に:2020年は?
今まで支払っていたものが無料で入手できるカタルシスを感じる無料ブームも行きつき、ユーザーも音楽制作にはお金がかかることを認識しはじめている。かつてはエンタメ人の哲学として「お客様は神様」であり、お客側からもアーティストは崇拝対象で憧れだったが、今やアーティストも業界人も同じフィールドでフラットに日々起こる体験を共有する時代。私達プロはスキルや知識に自信をもって、その良い面を伝えていかなければならない。サブスクを中心に、YouTubeやTikTok、様々なSNSや既存メディアでバズる楽曲や発信とはどんなコンテンツか。お金を払わせるのではなく、お金を払いたくなるような作品。
イントロの短い曲?コラボ?チャレンジ?名作の再現?共感?ダイバーシティ?
才能を見い出しサポートし、共に日々努力、切磋琢磨し、考え、世に問う事で進化した音楽と音楽ビジネスを作り上げたい。
2020年もどうぞよろしくお願いします。
脇田敬
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著書『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』,
ニューミドルマン・コミュニティ