伊東宏晃氏に聞いた、小室氏、エイベックス、そして音楽マネジメントの未来

「いつの時代も、全てのエンタメの中心にマネジメントがある。」

「アーティストマネジメントは最強のスキルだ!」

一つ目は、7月12日に行われたニューミドルマンコミュニティMeetUp vol.5にて、ゲストの伊東宏晃さん(元エイベックス・マネジメント代表)が言った言葉。 

二つ目は、私の著書『アーティストが知っておくべきマネジメントの実務~答えはマネジメント現場にある!』の中で、NMMコミュニティ・オーガナイザー山口哲一さんが書いた言葉。

音楽ビジネスにおいて、アーティストのパートナーとして一番近いパートナーとして、すべての業務に関わる。マネジメントは、まさにエンタメの中心。

私もメジャーレコード会社にて宣伝プロモーター、ライブハウス/クラブのマネージャー、そしてマネジメント、音源制作プロデューサーを経験し、一通りの音楽ビジネス現場を経験してきた。

デジタル化の遅れとコロナ禍の二重のショックで先が見えない日本の音楽シーンの未来。常に予測不能な出来事が連続するマネジメント現場で培った音楽ビジネス・センスと知識、経験、見識が今こそ役立つ時だと思う。

そして、伊東さんからは、ゼロから日本を代表するエンタテイメント会社に成長したエイベックスという会社を考える上で興味深い話を沢山聞かせて頂いたので、是非、楽しく読んで頂きたい。

 

ニューミドルマンコミュニティMeetUp vol.「音楽ビジネス近未来 2」

ゲスト:伊東宏晃氏(tearbridge production株式会社 代表取締役

 

■伊東さんの紹介

■小室氏のマネジメント時代に学んだ3年、マネジメンントの重要さ

■小室氏依存を脱却し、今のエイベックスの母体のスタートとなった98年

■360度ビジネスの走りとなったティアブリッジ・プロダクション

■マネンジメント論

■これからのマネジメントとは?

■小室氏とのアメリカ生活時代から変わらない世界との隔たり

■ヒットを目指すアーティストにとって重要なパートナーとは?

 

 

■伊東さんの紹介

伊東さんがエイベックスに入社したのは94年。青山骨董通りにオフィスがあったころ、所属アーティストはtrf(のちにTRFに)のみ。小室氏のレイブ(Rave)イベントの為に集められたダンス・ヴォーカル・ユニットがtrf。まだ、海外のユーロビートを輸入販売していたエイベックスが、小室哲哉氏と組んで、自社でアーティスト作品を売り出していく、まさにその時期。伊東さんは95年にtrfやHITOMI等の宣伝を担当、96年に小室哲哉氏の現場マネージャーとしてカリフォルニアの小室氏の自宅に住込同居。98年にエイベックスと小室氏の契約解除により帰国。マネンジメント事業の統括を勤め、99年クリエイティブ事業部を立ち上げ、クリエイター(作詞、作曲家など)のマネジメント、ティブリッジ・プロダクションを立ち上げた。クリエイティブ事業部やマネジメンント事業部を統括し、2013年エイベックス・マネジメント代表に。各事業部が分社化しそれらを統括するエイベックス・グループ執行役員としてグループの経営を携わり、2019年25年を区切りに退社。現在、ティアブリッジ・プロダクションを譲り受け代表を勤めている。

 

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■小室氏のマネジメント時代に学んだ3年、マネジメンントの重要さ

「全てのエンタテインメントの中心には、いつの時代もマネジメントが主役としてある。」

伊東さんは、LAでの3年間に小室氏から音楽ビジネスのイロハを学んだ。当時、メガヒットを連発していた小室氏は、楽曲のみならず、デザイン、衣装、ライブ、プロモーションなど全方位でプロデュースし、決定を下していた。当時、業界に入ったばかりの私の感覚で言うと、今の秋元康氏のような、出せばヒット、セールスで業界全体を支える存在といったところだろう。エイベックスは、そんな時代の寵児である小室氏から音楽ビジネスのノウハウを吸収し、その後の成長の礎とした。エイベックスが小室氏と袂を分かち、独自の音楽ビジネス・スタイルを作り上げていく中で、伊東さんが小室氏と行動を共にしたLAでの3年間は、その後のエイベックスにとって重要な財産だったのだろう。LAを拠点に日本から世界へ進出しようとした野心、それが容易ではない日本と海外を隔てる壁、、という現実も、伊東さんとエイベックスのその後に大きな影響を与えているように感じた。

 

■小室氏依存を脱却し、今のエイベックスの母体のスタートとなった98年ごろ

小室氏依存経営からの脱却し、小室氏のプロデュースで行われていたすべての業務が新事業として立ち上がり分社化。これを音楽ビジネスの経験がない30代前半の異業種出身の若者が担当する。しかし、伊東さんは、その経験の無さこそがエイベックスの成功に大きく貢献したという。怖いものなしの若者たちが、誰にも指図されず、「無理」という発想を持たず、自分たちのやり方で切り開いたことが新しい風を起こしたのだ。伊東さん自身が立ち上げたティアブリッジ・プロダクションにおいては、無名の作曲のデモを聴き、少しでも売れる要素を感じたら会社へ呼び出し、やがて毎日、若い作家たちが曲を持ち込みに集まるようになり、いい曲はTrf浜崎あゆみBOAの曲に提案した。若いスタッフと作家たちのハングリーさ、良い曲はすぐ仮歌を録り、レコーディングし、といったスピード感。そんな彼らがミリオンヒット曲を生み、多額の印税が入り、ジャパニーズ・ドリームが生まれた。このような自由で勢いのある動きが社内全体、各事業部で切磋琢磨しながら大きな渦となっていた。

 

■マネジメント論

LAでの小室氏との3年間(伊東さんは「軟禁」と言っていた笑)、そして新興レコード会社エイベックスと共に成長し、たどり着いた音楽ビジネス論、マネジメント論も語って頂いた。

 

「アーティストとマネージャーは上下関係ではない対等のビジネスパートナー」「マネージャーはアーティストの能力を360度最大限に引き出すことが使命。」「人生を考える親のような存在。」これは、私の著作の中で山口哲一さんが書いた「マネジメンントは最強のスキル」と共通する言葉だ。そして、「ピークは1度ではない」とも語っている。

 

アーティスト・マネジメントにおいて、曲のヒット、アーティストのブレイクを成し遂げた瞬間やいわゆる「0→1」(ゼロイチ)と呼ばれる、無名からの最初のブレイクは、「スター誕生」という言葉で語られるような眩しいほどの輝きがある。業界内でもアーティストのみならずスタッフも注目され、一目置かれる。しかし、その輝きは永遠ではない。上昇カーブが落ち着く、または下落、ヒットを連発してもマンネリがあるかもしれない。成功を手に入れる者は一握りであり、その少ない可能性の為に全力を尽くす。しかし、それを得たとして、その人生の輝きが一瞬で終わってしまう事が果たして本当の成功なのか?そこにはエンタテイメントという一般社会の常識では語り切れない、人間の本質、人が生きることの真実に近づきたいという、もう一段踏み込んだマネジメント論だと思う。

 

■これからのマネジメントとは?

「日本に芸能プロダクションが誕生して60年、日本のマネジメントの問題点。これからのマネジメントとは?アーティストの意志より、会社の論理が優先されてきた。コロナ期においても、アーティストが意思を表明することが出来ない。メッセージを伝えることがアーティストの強さであり、政治的な発言も含めて、自分の意思を表明できることが大事。」

「プロデュースノウハウ、そして権利についての専門的な知識を持っている会社」

「弁護士のスキル、プロデュース・スキルを兼ね備えたレーベルやマネジメンント」が生き残る。

音源を制作し発信することは急速に容易になっている。アーティストもリスナーも多様性を増し、マネジメントもその多様なニーズに応えられなければ存在する意味が少ない。法や権利、コンテンツマネジメント、データ解析、心理学、、様々なスキルが必要となる。

note.com

 

■小室氏とのアメリカ生活時代から変わらない世界との隔たり

「LAで小室氏は向こうで売れようとしていた。しかし、いい曲を作れば売れるだろうという考えで、ロビー活動など行っていなかった。向こうのスタジオに入れば、隣はマイケルジャクソンやBabyfaceなど、しかし、向こうは誰もこちらの事を知らない。」

「日本からの海外音楽シーンとの関りは、向こうの音楽を仕入れて、日本国内に売ることばかり」

世界有数のセールスを記録していた小室氏ですら、LAでは誰も知らない存在であるという事実を経験し、その後20年以上根本的には何も変わらず、デジタル化による市場のグローバル化に周回遅れとなっている日本の音楽シーン。

「メジャー業界が日本として、アジアとして世界に影響力持てるか。また、インディの若い動きから世界へと届くのか?そのメジャー側からの動き、インディ側からの動きが手を結べるのか?」

エイベックスからの世界的大ヒットであるピコ太郎の「PPAP」。この大ヒットについてはいろんな分析があるが、小室氏時代より、世界への意識なければ、このようなヒットは生まれなかったのではないかと思う。

 

■ヒットを目指すアーティストにとって重要なパートナーとは?

「マンツーマンや少数をマネジメンントできる会社が増えてくる。アメリカでは、この少数アーティストを360度で強くマネジメンントするチームを多くまとめているのが3大エージェント。」

インターネット以降のマネジメンントは、多様かつマスな市場を生み出している。

アーティスト、カルチャー、ユーザーに精通した熱量の高いマネジメントが必要とされる。そして、大きな連合組織による数の交渉力と両立することが成功の方程式となっている。

 

「アーティストにとっては、埋もれないで活躍できる相手と組む必要。3組、5組のプライオリティに入ること。マネジメントのプライオリティTOP3またはTOP5、TOP10等上位に入らなくてはいけない。でなければ恩恵を受けにくい。特に日本の場合は、そういった上位に入らなければ、レコ大、紅白やテレビ番組のような枠の限られたステージは入れない。ティアブリッジにおいては、他社レーベルと契約することで、TOP3等に入ることが可能になった。」mihimaru GTは当時、ビッグアーティストがひしめく自社エイベックスでデビューせず、ユニバーサルでデビューすることで大きな成果を得た。結果、エイベックス関係アーティストを、紅白により多く送り込むことが出来た。いい作品を作っても、埋もれないで、活躍できるパートナーとどう組むか。」

グローバルな時代においても、プライオリティはアーティストの成否に大きな影響を持っている。

 

■終わりに

現場から経営がしっかりと繋がっている。現場マネジメントに大きな価値を置き、会社のアイデンティティとしている。エイベックスにはそんな印象を持ってきた。伊東さんは、そのアイデンティティを象徴する重要人物。もちろん、エイベックスには超個性的な方が沢山いらっしゃり、そんな個性や自由さを肯定する思想はいつも魅力的だと思う。2020年は音楽シーンにとってもエイベックスにとっても大きな変換期。そのタイミングで伊東さんのお話をじっくり聞けてよかったです。

他にもMCN(UUUMみたいなインフルエンサー・エージェント)、ライブ事業者(LIVE NATION)など、既存の枠を超えた広い意味でのマネジメントの最先端の動きについても、鋭い視線を向けられていた伊東さん。一緒に、これからの新しい時代を切り開く人材を育てていきましょうと語り、この日のイベントを終えました。ありがとうございました。

 

■告知

次回のイベントは、ゲストにTunecore Japan代表の野田威一郎さんをお迎えします。誰もが楽曲を配信できるツールとして着実に浸透するTunecore Japanは、2020年、TikTokバズからメインストリームのヒットを生む状況を作っている。そんなTunecore Japanの軌跡、注目される最新の状況についてお話を聞きます。
↓参加はこちらからお申し込みください。

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ゲストスピーカー:野田 威一郎
Wano株式会社/TuneCore Japan K. K. 代表取締役

東京都出身。香港で中学、高校(漢基国際学校)時代を謳歌し、1997年に日本に帰還。クラブでイベント企画、デザイナーをしながら、慶應義塾大学を2004年に卒業。同年、株式会社アドウェイズに入社、メディアディビジョンマネージャーとして上場を経験。2008年に独立しインターネットサービスでクリエイターを支援する会社「Wano株式会社」を設立。2012年には TuneCore Japan K.Kを立ち上げ、現在に至る。

 

  

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脇田敬

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著書『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』,