『バチェロレッテ・ジャパン』リアルとショーの境目~音楽関係者からの感想

Amazon Primeの恋愛リアリティ・ショー『バチェラロッテ・ジャパン』を観た。
この手の番組をしっかり観たのは初めて。

 

 

「男女逆転」

 

男性のセレブが女性参加者を選ぶ『バチェラー』と逆、女性のバチェラロッテが男性参加者から選ぶという設定に何より興味を惹かれた。

ポリティカルコレクトネスの時代、他の恋愛リアリティ・ショーでの、演出やSNS炎上による出演者への誹謗中傷が問題になっている時期に、女性を主役にした企画。どんな内容になるのだろうかと、とても興味を感じた。

私が普段仕事を共にするミュージシャン達は、自分自身の心を音楽に乗せてエンタメにする。毎日がリアリティ・ショーみたいなものだ。
そういった音楽関係者目線からも感想を書いてみたい。

 


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「リアリティ・ショー」とは?

映像エンタメにとって、「リアル」「ショー」の境目はどこなのだろう?この『バチェラロッテ』は、「ドラマ」ではない。生身の人間同士の感情が表れることが刺激的だが「ドキュメンタリー」ではない。演出された「ショー」なのだ。

今回の『バチェラロッテ』に賛否の声が上がるのは、「リアリティ・ショー」でありながら、ガチ、真剣さを前面に出したからだろう。バチェラロッテ福田萌子は、こお番組で「真実の愛」を見つけたいと宣言し、序盤エピソードから、男性参加者に真剣に向き合うことを求め、自分自身もストレートに意見を言う。この、福田のスタンスがこの『バチェラロッテ』のカラーを決定する。

 

象徴的な場面として、お調子者キャラのイベントオーガナイザーの「萌子さんは完璧だ」という言葉に、私のどこか「完璧か」と尋ね、見た目の事だけを答えたことが脱落を決定づけたことだろう。鋭い質問をぶつけ、参加者をたじろかせ、中途半端な気持ちではない本気を求める。チャラい恋愛バラエティ・モードをバッサリ切り捨てていく姿が爽快だ。

男性参加者の中で目覚ましい活躍を見せた「スギちゃん」こと画家の杉田陽平が、回を追う事に成長し、輝いていくのは、彼が美術という世界で自分自身の表現を追求し続けてきた、言わば自分自身と向き合い、感情を伝える事のプロだからだろう。

恋愛におけるテクニックや駆け引きのドラマを楽しむ番組に場違いのように参加した不器用な男が、「You are special(あなたは特別な存在)」と認められ、愛を伝える。

番組を見た人は、この美しい物語に心を揺さぶられる。そして、もう一人、ポルトガル人シンガー當間ローズも輝いた一人だろう。登場から、バチェラロッテの目を見て歌で気持ちを届ける。彼の活躍も本当の自分を伝えるエンタメを生業としていることが、番組の流れに乗ったと思う。

 

番組後半、このガチ・リアル路線は、重く苦しい展開へと発展する。「真実の愛」と「結婚相手探し」を追求することは困難だ。番組設定の中、カメラの前で限られた時間、参加者の中でそれを成し遂げることは可能なのだろうか。人生を賭けた本気の挑戦とエンタメを両立することは本当に難しい。。

 

バチェラロッテ福田萌子はタレントとして芸能事務所にも所属している。ある程度自分が露出することを仕事にしているので、これが「ショー」であり、演出に乗ることが「ショー」の成立する番組であることは理解しているはずだ。しかし、今の時代に女性主人公として「ショー」をやることが正しい事なのかというテーマを背負い、番組を通じてメッセージを発信した。この番組環境の中で「真実の愛」を手に入れることが出来るのか?というメッセージだ。ある意味、番組企画を根本から否定しかねないメッセージだ。しかし、番組側もそれを許した。アメリカで10年続いている、この企画の懐の深さを感じる。

 

まるでプロレスの異種格闘技戦

プロレスを例にしよう。訓練された格闘家が、演出されたショーとしてのバトルを行うプロレスが「リアリティ・ショー」だとすれば、『バチェラロッテ』は、プロレスラーが、他の競技者と本当の強さをテーマに戦う異種格闘技戦真剣勝負のようだ。格闘家は勝負を追求するが、プロレスラーは相手の技を受け、観客にスリルを味合わせる。福田萌子の挑戦は、自分の真実を追求しながらも、エンタメ演出を成立させようという難易度の高いものだと言える。狙ってやっていたとは思わないが。

観る者を楽しませる「ショー」の演出技術やノウハウは、美的感性を追求する地味?な職人である画家スギちゃんを輝かせた。数々の賞を獲り、個展を開き評価されている画家である杉田陽平をアートに興味のない客層に紹介し、SNSフォロワーを増やし、スターを生んだことは大きな意味がある。

 

エンタメとアートの境目で愛を発信したジョン&ヨーコ

音楽の世界では、かってジョン・レノンオノ・ヨーコというビッグ・カップルが世の中にセンセーションを巻き起こした。私はビートルズ世代ではないので詳しくないが、前衛芸術家のオノ・ヨーコは一般に知られる存在ではなかったが、ジョン・レノンのパートナーとなり、アートとゴシップを合体し、それを作品化することで世界にメッセージを届けた。ジョン&ヨーコが、ショービジネスとアートの境目で発信したメッセージは「真実の愛」そして「平和」(ラブ&ピース)。

 

どこまでが「真実」で、どこまでが「演出」なのか。どちらもエンタテイメントに必要な大事な要素だ。『バチェラロッテ』は、「ショー」でありながら、福田萌子と杉田陽平が「リアル」に挑戦したことで感動的な番組になったのだと思う。

 

 

 

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脇田敬

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