音楽の「対価」をめぐる最前線【レポート】NMMコミュニティ マンスリーMeetUp 「MusicTechRadar Vol.2」

先月に続き、私が運営に携わっているニューミドルマン・コミュニティが開催するマンスリーMeetUpイベント「MusicTechRadar」の2回目をレポートします。

コロナ感染防止のためリアルイベントは自粛、オンラインでの開催となった今回、先に言ってしまうと、これこそ世界の最前線で動いている音楽ビジネスの未来を予見する内容でした。

今回タイトルに「著作権wars」とあります。著作物(詞曲)、録音物(音源)の使用に関する、分配条件闘争は、この業界全体ひいてはミュージシャンやスタッフの一人一人、その先にはリスナー、ファンにまで影響する重要な問題です。


今回ゲストとして、エンタメ、スポーツの分野でアーティストやアスリートの権利や法務を担当され、数多くの実績を上げられる山崎卓也弁護士を、ロンドンより中継で参加頂きました。

山崎卓也さんは、2016年にニューミドルマン養成講座で、バリューギャップ問題について話して頂いております。その内容がデジタル書籍化されていますので、是非読んでみてください。

 

さて、今回の話も、このバリューギャップ問題と大きく関係する話です。
バリューギャップ問題とは、特にYouTubeが音源使用において、Spotify 1再生あたり0.3円ぐらい、Apple Music 1再生あたり0.7円ぐらいに対して、YouTube 1再生あたり0.07円ぐらいの分配しかしていない問題です。

このことは氷山の一角で、ネット時代が到来し、これまでのビジネスモデルやエコシステムが大きく変化した中で、音楽を使用して売上利益を上げているサービスやプラットフォームから、レーベルやミュージシャンが対価を得られてないケースが多々あります。

CDが売れなくなったが、音楽を愛する人が減ったわけではないので、制度的に音楽に支払われた対価が権利者に届いてない状況を是正する必要があるというのが、この問題であり、これが欧米のアーティストや業界での現状の課題なのです。
2019年4月にEUで可決された「著作権指令17条」は、これまでYouTubeのようなプラットフォームが問われてこなかった「コンテンツ制作者への公正な報酬」や「違法な使用などへの責任」が求められることとなった。可決から2年後の2021年4月までに、EU各国で法案化される。

このように、これまでYouTubeが逃れてきたコンテンツへの姿勢は法的に変化を迫られている。SpotifyApple Musicより遥かに低い分配、違法アップロードについて責任を避ける傾向、これらは法的に変化を迫られる。

これが世界の音楽ビジネスの大きな流れの変わり目であり、新しい時代の到来だと思う。

さて、この動きにつて、私たち日本はどうだろうか?山崎さんは、このことに関しての日本の業界の反応はとても薄い、無い事のように思っている印象があると言います。

サブスクはお金にならない、と言うがYouTubeはどうだろうか?

YouTubeはプロモーションだから、分配を気にしなくていい、と思ってはいないだろうか?YouTubeは音楽コンテンツから莫大な広告料を得ている。その分配率の内訳は不透明であり、明らかに低いにもかかわらずだ。

 

このグローバルなプラットフォームとの条件やルール交渉において、大事なのは全世界規模でのシェアや影響力を持っているかどうかだ。相手が世界なのに、日本という単位での動きでは弱い。ゆえに、Marlinのような、世界的なインディ支援団体の意味がある。(ちなみに、世界でメジャーとは、ユニバーサル、ソニー、ワーナー。それ以外はインディ。)

ITプラットフォームの台頭が、CD一強時代を終わらせ、大きなダメージを受けた2000年代、サブスク・ストリーミングの普及によって、音源が公式に流通し、V字回復した2010年代。そして今、音楽の公正な対価を求める流れが社会に認められはじめ、音楽ビジネスの新しい繁栄が近づいてきている。この動きに注目していきたい。

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一方、そんな時代に現場で活動するミュージシャンやスタッフはどんな事を考えていけばよいだろうか。

購入(sell off)から、ファン・エンゲージメント(継続的なつながり)へ、サブスク・ストリーミングを軸に、ライブ(現在は行えないが)、グッズ、FC、クラウドファンディングなど、多様なマネタイズを行う時代が到来している。

楽曲やアーティストが制作するコンテンツの価値は一様ではない。
CD時代の慣習や利益システムへの固執は新しい時代への眼差しを曇らせる結果になるかもしれない。

 

1日経って、本当に大事な話だったなと思います。
音楽の公正な「対価」とは何だろう。
デジタル・テクノロジーによって激変する環境の中で、その答えを追求し、既存の考えやモデルに囚われず、前に進んでいかなければいけないと思う。

 

 

そして、次回の予告です。

musictechradar202005.peatix.com

 

ゲストは、鈴木貴歩さん(すずきたかゆき)
ParadeAll株式会社 代表取締役 エンターテック・アクセラレーター

フランス、カンヌで毎年行われる音楽カンファレンスMIDEMについて。
本当はNMMコミュニティで視察に行く予定でした(泣)
今年はオンライン開催かもしれません。

このMIDEMの話題と世界の音楽ビジネスの最新情報を知るチャンスです。
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脇田敬

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著書『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』,