シティポップ・ブームは本当か?①~世界の中のJAPANをめざすクリエイターへ~

「シティポップ」が世界で流行っていると言われてます。

2021年に松原みきの「真夜中のドアstay with me」がSpotifyのグローバルバイラルチャートで長期にわたって1位になったり、今年1月に、今世界一売れているアーティスト、The Weekndが亜蘭知子の「Midnight Pretenders」をサンプリングした「Out of time」をリリースしたり、元ワン・ダイレクションのハリー・スタイルズのニューアルバム『Harry’s House』のタイトルの由来が細野晴臣の『HOSONO HOUSE』だったり、世界のメジャーシーンに、1970₋80年代の日本のポップスが見かけます。

さて、なぜシティポップが世界の音楽シーンでバズったり、メジャーなアーティストが取り入れているのか。本当にそれはブームなのか。

ともかく世界を目指す日本のクリエイター、音楽関係者にとってのチャンスがあるのは間違いないので、ヒントにしてもらいたいと思い、図を作り、動画で話しました。さらにこのブログ記事でさらに理解のきっかけになれば幸いです。

 

 


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HIPHOPのメインストリーム化で基本となった切り貼りとループ

21世紀の音楽の大きな流れとしてヒップホップがあります。

過去の音源からかっこいいビートやブレイク、フレーズを切り貼りしてトラックを作る手法は、ヒップホップのメジャー化、デジタル音楽制作ツールの普及によって21世紀の音楽の土台になっています。

このような切り貼り(”カットアップ”?あまり現場で聴いたことがない言葉ですが、海外では使われている?)での音楽制作は、20世紀のポップシーンにはなかったものであり、ポップシーン、ダンスシーンに大きな影響を与えています。この手法は、ProtoolsなどDAWソフトの一般普及により、様々なジャンルに影響を与えています。というか普通になっています。デジタル音楽制作は、それまでのスタジオ作業をデジタルに移し替えただけでなく、新しい音楽スタイルを生み出しました。

ハウスやテクノ、エレクトロといったジャンルもコンピューター上で、いろんな音を切ったり貼ったりして編集するスタイルで制作されるようになり、これ以前以後の違いを表す必要が生まれます。”EDM”です。

私たちが何気なく使っている”EDM”というジャンル名も、この21世紀のダンスミュージックと、それ以前を区別するために使われていると思います。※”EDM”は他にもフェスやSNS活用など文化的な意味も入ってると思います。そこも含めて、デジタル時代以降のムーブメントを指しているのでしょう。

 

ミュージシャン、DJ→TikToker、”音ネタ”の一般化
YouTube、Sound Cloud、匿名掲示板→TikTokInstagramYouTube shortsのショート動画へ

このサンプリングから始まった、ジャンルやフレーズ、リズムパターンなどを編集して作る時代。どんなリズムや音色、フレーズといったネタ、パーツを取り入れるかが大事です。元ネタがあり、そこから楽曲を制作したり、自製のフレーズすらネタとなる。これが”ネタ”発想の時代。

イントロからAメロ、Bメロ、サビ、、、のような時間軸の流れで構成された曲作りではなく、ネタパーツを繰り返しループさせ、フレーズを切ったり貼ったりする作り方が前提になっています。

2010年代のYouTubeSoundCloud、匿名掲示板で、音楽制作を行う上での音ネタ、パーツの情報提供、収集するクリエイターやファンが集まってシーンとなり盛り上がっていき、世界中をつなぐネットワークとなりました。シティポップもその中で、ネタ、パーツとして評価が高まっていきました。

シティポップの中で人気が高い楽曲が、日本人に多く知られるニューミュージック系の名曲ではなく、ディスコ系が多いのはそんなところに理由があります。

 

TikTok登場、ショート動画革命で総クリエイター化時代の”ネタ”に

シティポップはアンダーグラウンドなネット音楽シーンの中で2010年代半ばあたりから、山下達郎角松敏生などの曲に注目が高まっている話はよく話題に上っていました。一般に広がり始めたきっかけは、2018年ぐらいからTikTokの登場による”ショート動画革命”の存在が大きいと思います。一般ユーザーが誰でもバズれる総クリエイター化したことで表に出てきたというのが”シティポップ・ブーム”の実態かと思います。

 

シティポップ・ブームは、「いつの時代もいいものはいい」から売れているみたいな意見を聞きます。打ち込み中心の個人がPCで作っている音楽が主流の時代に、スタジオで人間が演奏して作っている音楽の良さが再評価されているとか。それも間違ってないと思いますが、古今東西、この時代のいい音楽は沢山ありますので、それを理由にすると見えなくなる部分も大きいです。”音ネタ”として注目された先の再評価であることを踏まえないと理解しにくいんじゃないかと思います。


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シティポップとDaft Punk

シティポップがメジャー音楽シーンに登場した背景は色んな要因があると思います。いくつか取り上げたいですが、まず、Daft Punkの2013年のアルバム『Random Access Memories』について考えたいと思います。2013年に発売されて、グラミー賞最優秀アルバム賞を受賞し、当時の音楽シーンに大変なインパクトを残したアルバムですこのDaft Punkは90年代終わりに登場し、クラブシーンとインターネット音楽シーンに多大な影響を与えたアーティストです。

エレクトロなダンスミュージック、のちにEDMと呼ばれるジャンルの代表的なアーティストですが、このアルバムでは、スタジオで腕のいいプレイヤーが演奏する音楽の説得力とデジタル音楽を融合して、切り貼り×ループ+生音の音楽制作の方向を決めたように思います。


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アンダーグラウンドなカルチャーの魅力をポップなヒットに持ち上げる。特に、70₋80年代のアメリカ西海岸音楽へのリスペクトを表したことは、大きなインパクトとなりました。シティポップと呼ばれる日本の作品が当時目指したのは、70₋80年代のアメリカ西海岸音楽、それからディスコを取り入れたAORといったジャンルです。この『Random Access Memories』は、これらの音楽の再評価の流れを作ったと言えます。

シティポップの火付け役と呼ばれる韓国人DJのNightTempoも今一番世界で売れているアーティストであり、亜蘭知子をサンプリングしたThe Weekndも、はっきりとDaft Punkからの影響を発言しています。

シティポップ・ブームも、Daft Punkのこのアルバムのヒットの影響は大きいと思います。

 

Daft Punkがメジャー化させたダンスミュージック×日本アニメ

もっとさかのぼって、2000年、クラブミュージックとアニメをくっつけたのがDaft punkの「One more time」松本零士さんと組んで、世界的な注目を集めました。この曲は非常に大きなヒットとなりましたし、日本のアニメ映像と音楽を合体させた動画の先駆けです。90年代に欧米で知られた『AKIRA』や『攻殻機動隊』のようなSFアニメ映画もありますし、日本のアニメの注目をメジャーシーンで表現したのはDaft Punkが最初だったのかなと思います。


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ダンスミュージック×日本アニメで有名な、2016年のポーターロビンソン&マデオン「Shelter」も貼っておきます。


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21世紀の音楽シーンに大きな影響を与えた「One more time」と『Random Access memories』は、全世界のネット音楽オタクにとっての神だったのかなと思います。

 

Daft Punkの正統後継者The Weeknd

『Random Access Memories』は、Daft Punkの最後の作品になってしまいましたが、Daft Punkはその後The Weekndと2曲のコラボを残しています。The Weekndは最初はDarknR&B、AlternativeR&Bといった名前のジャンルでしたが、2016年にDaft Punkと共演した「Starboy」と「I Feel it coming」の2曲をリリースします。The Weekndは、この2曲で、Daft punkの正統な後継者的なポジションを得てカリスマ性を持ったと思います。Daft Punkは、ダンスミュージックシーンやネット音楽シーンに大きな影響を与えていたリーダーですし、アンダーグラウンドのトレンドを広める、紹介する役割を担っていたと思います。

Daft Punk最後のレコーディング音源となった2曲、特に「I Feel it coming」は、シテイポップブームに繋がっている、『Random Access Memories』直系の曲だと思います。最新アルバム『Dawn FM』では、クインシー・ジョーンズが登場する曲と「Out of time」を並べ、コーチェラ2022のライブでは「Out of time」「I Feel it coming」は続けて歌われています。


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水原希子も出演。

 


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女優は日本人ではなく『イカゲーム』のセビョク


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ちなみにコーチェラ2022は、Swedish House MafiaというEDMのレジェンドとのコラボレーションステージだったのですが、Daft Punk系やダークR&Bの要素と、北欧EDM系のテイストが混ざり合わないように感じましたがどうなんでしょう?観た方のご意見聞きたいです。The WeekndがDaft Punk的な80sやレトロフューチャーの次に取り組むのは2010年代EDMなのかもしれません。

 


Daft Punkが音楽シーンに与えた影響についてよくまとまったimdkmさんのTOKION記事はこちら

tokion.jp

The Weekndの『Dawn FM』について話している動画

youtu.be

 

ヴェイパー・ウェイブ、シンセウェイブ

Daft Punkに近い、シテイポップブームに繋がっていくジャンルを2つ紹介します。ヴェイパーウェイブという70-80年代音楽を素材にカットアップ、コラージュする手法や、80年代シンセ音楽をリバイバルさせるシンセウェイブ。SFや日本のアニメ、CMなどが動画素材に使われ、MAD動画のような形でネットに広まりました。こういったネットの流行りはアメリカやフランスを中心に欧米から全世界のネット民やネット系ミュージシャンに広まっています。シテイポップは、韓国人DJのNight TempoがFuture Funkとして火を付けたという話があります。ネットのコミュニティの中で、70₋80年代日本のポップスからを発見し投稿したりし、これらを「Future Funk」と名付けたようです。これらはアンダーグラウンドの音楽シーンで、日本だとボカロのシーンに近い匂いがあると思います。日本独自の、ボカロ音楽や匿名掲示板は世界でもユニークな存在として認知されています。ボカロシーンの中にも流行があるように、世界のネット音楽シーンでも、このFuture FunkやHyper Popなど流行のジャンルが誕生しているわけですね。それが、The Weekndのようなどメジャー級アーティストが面白がるレベルに届いたわけです。シティポップブームというよりか、マニア的な認知が長年進んでいて、それがTikTokきっかけで表に浮上してきたという印象です。

 

Vaporwave

YouTubeなどで再生されたシティポップには日本のアニメの画像などが使われるものが多いです。これは、ヴェイパーウェイブというジャンルから始まりました。80年代のキラキラしたヒットポップスにサンプリングの手法で細かい切り貼りし、バブリーな時代を批評的に客観視した音楽スタイルで、21世紀のインターネットミュージックの一つの流れを生み出しました。このvaporwaveの代表的なアーティストOneortrix point neverとコラボレーションしているのがThe Weekndです。大ヒットした「Blinding Lights」やシティポップの亜蘭知子をサンプリングした「out of time」も、この人と創っています。


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Synthwave

Vaporwaveから派生したのか、同時期に生まれたジャンルに、Synthwaveというジャンルがあります。80sのシンセサイザーサウンドや、アメリカ西海岸の70-80年代カルチャーを今のサウンドで再現し、当時のファッションやSF映画、日本のアニメなども引用され、アメリカやフランス、日本などで、youtubeSoundcloudなどで盛り上がりを見せました。The Weekndの『Dawn FM』は、まさにSynthwaveの世界観が強い作品です。この時代のSFが描いていた21世紀のディストピアレトロフューチャーなテイストは実際21世紀を迎えた私たちには、滑稽に見えたり、ノスタルジーを感じさせたりと新鮮な発見があります。


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個人的にSynthwaveは好きで、それ風の欧米J-POP、K-POPなど集めたSpotifyプレイリストです。最近追えてないですが楽しんでいただけましたら!



続く、、

長くなってしまったので、シティポップとの関係で注目したいもう一つの流れである”Lo-Fi HipHop”あと、世界における日本のアーティストというテーマで今最も注目な88risingとシティポップの関連についても次回書きたいと思います。

 

 

 

 

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