日本レコード協会から、最新のデジタル配信の数字が発表されました。2021年の年間データとランキングから音楽シーンを分析します。
また、年間ランキングについては、それぞれ集計方法が違い、一長一短あるので、ビルボード、オリコン、サウンドスキャンに、TikTok、Spotify、YouTubeなども加えて総合的に分析しました。
2020年に加速したデジタル化は、フィジカル売上をキープしたいメーカー事務所の事情も影響し、ややゆるやかに移行しつつある状況が読み取れました。
まずは、業界の数字から!
デジタル配信が前年より114%と伸び率を高めました。
CD&DVD等は前年ほぼ横ばい、少し上昇。
下がり続けるCDが、2020年コロナでガクンと落ち、21年下がらなかった、それどころか上昇したのは、コロナ不況を単価の高いCDで乗り切ろうとしたレコード会社の努力の表れでしょう。
しかし、このフィジカル売上依存、世界的なデジタル化での売上急上昇の流れに比べてみると喜べない数字です。
フィジカルとデジタルの両立を目指している業界各社ですが「口で言うのと、実際やるのでは大違い」根本の仕組みが違うものを両立しようとし、混乱や失敗も起こり、成長の波に乗り損なっているのではないでしょうか。
世界各国で、2021年デジタル配信が前年比20%ぐらいの伸びを出している。まもなく最新の数字が出ると思いますが、過去最高になると言われています。
世界的なデジタルでの業績急上昇なので、そこに乗る機会をまとも逃している事実はしっかり向き合っていきたいなと思います。
さて、アーティストやタイトルの年間ランキングを見ていきましょう。
デジタル&グローバル+CDマネタイズ
BTS、YOASOBI
個々のアーティストについては、すでに多く語られているが、共通点として、デジタル発信を重ね、オンラインの熱を高めた上でアルバムでフィジカル売上を作る。
アーティスト側が主導権を持ったデジタル先行の活動を行い、ファンの求めるタイミングを捕らえたリリースタイミングでフィジカルをリリースし売上に結びつけることに成功している。
BTS「Film out」
back numberが提供した「Film out」は、エリアの人気アーティストとのコラボで広める手法「ローカライズ戦略」の日本事例としても注目された。
YOASOBI / Monster (「怪物」English Ver.)
海外志向のアーティスト性とは見られてないYOASOBIの英語ver.リリースは、グローバル時代への対応として注目された。Spotifyの「世界で聴かれた日本のアーティスト」1位を記録している。
各社年間ソング1位
シンガーソングライター×YouTuber 優里
作品主義の強い日本の音楽業界。自ら作詞作曲するシンガーソングライターとYouTuber活動の両立は難しい。これを成し遂げたことが、優里「ドライフラワー」を各社の楽曲ランキングで年間1位へと導いたと考える。BTS、YOASOBIを抑えての楽曲1位という結果を支えたのは継続したYouTubeチャンネルの更新だと思う。
2022年1月にアルバム『壱』をリリース、ソニーは彼のデジタルでの勢いを上手くアルバムセールスに結びつけることはできたのだろうか。
優里ちゃんねる
【神回】本人同士による『魔法の絨毯』VS『ドライフラワー』カラオケ対決【YURIN】
各ランキングで年間1位となった「ドライフラワー」MVなど等オフィシャルMVはソニーのチャンネルからのアップ。こちらのチャンネルはYouTuber的なバラエティスタイルでの動画が多い。
もう一人のYouTube発シンガーソングライター 藤井風
Fujii Kaze "Free" Live 2021 at NISSAN stadium
2021年間ランキングには、登場していませんが、YouTubeから登場したアーティストである藤井風。第フィーチャーされた年末の紅白歌合戦でも、オンライン発新世代アーティストとして紹介された。2021年のアップロードはオフィシャルMVとライブ動画+いくつかに留まるので、YouTuber的とは言えないかもしれないが、音楽的な評価の高さとギャップを感じさせる”素”の表情が、ネット時代のアーティストイメージを印象付けた。また、日本と海外をフラットに考える姿勢は英語表記に表れている。
3月23日発売のセカンドアルバムをユニバーサルがどのようにセールスに結びつけるのか。
このような王道シンガーソングライター系アーティストのネットでの活躍も今後多く見られるだろう。加速するショート動画(TikTok、YouTube shorts、Instagram Reels/Stories)との連動や、ライブやフィジカル売上への結び付け等音後のオンライントレンドと合わせて注目したい。
ボカロ発デジタル×グローバルへのポテンシャル Ado
Ado 1st Album『狂言』Teaser
社会現象化した「うっせぇわ」の後も、コンスタントに、歌ってみた動画のアップとオリジナル曲をリリース。バズの熱を逃さないマーケティングや細やかな動画クリエイティブの上手さが目立つ。世界中を見渡してもユニークな音楽文化を持つ「ボカロ系」の伝統をアップデートし、耳を引く声とIP戦略で「踊」「ギラギラ」も年間YouTube音楽ランキングで2、3位を記録。1/26に、アルバム『狂言』をリリースした。
デジタル時代の波に乗ってブレイクした御三家にとっての2021年
Official髭男dism、King Gnu、あいみょん
2020年のストリーミング・ランキングを見てみよう。日本でのサブスクが伸び始めた2018~19に登場タイミングが合い躍進し、デジタル型2019年ブレイク御三家である、Official髭男dism、King Gnu、あいみょん。
TV系タイアップとフィジカルを軸にした活動サイクルに移行し、旧来型音楽ビジネスのアーティストになりつつある傾向。
時代の波に乗った勢いを表すような、オンラインならでのコンテンツ発信の施策、例えばリミックスやコラボ、英語バージョンのリリースなど聴いてみたい。本来デジタル施策が強いはずなので。
Official髭男dism - Cry Baby[Official Video]Official髭男dism - Cry Baby[Official Video]
既存業界を支えるアイドルビジネス(ジャニーズ、坂道、K-POP)
Snow Man、乃木坂46
日本ならではのCDを購入することでアイドルへの愛を表現するファン消費は健在。
コンサートが出来ない中、ファンの熱に多数リリースで応えた。
K-POPスタイルのオーディション系ダンス&ヴォーカル・グループのNiziU、BE FIRST、JO1、INIが2022年にデジタル+フィジカルに成功し、売上ランキングに登場するのか注目したい。
「国民的」レベルなら成り立つCDモデル
宇多田ヒカル、桑田佳祐、Mr.Children、宮本浩次、B'z、大瀧詠一、松任谷由実、中島みゆき、福山雅治
各アルバムランキング上位のこれらのアーティストは、CDを購入する世代の購入によってセールスを実現している。
この中で、デジタル・ファーストも両立しているのが宇多田ヒカル。
レジェンドやベテラン・アーティストがデジタルとフィジカル両面で成功させるキーワードとしては、大きな注目を集めた「シティポップ」だろうか。日本が誇る宝物であるこれらのアーティストたちが、世界での盛り上がりをキャッチして益々拡大してほしい。
宇多田ヒカル『One Last Kiss』
宮本浩次-異邦人
ロックバンド「エレファントカシマシ」のヴォーカリスト宮本浩次のソロアルバム『ROMANCE』。徳永英明以来の男性シンガーによる女性曲カバーで、新たに国民的アーティストの仲間入りを果たした。TVでの露出も多かったが、SNSやYouTubeも積極的な発信が見られた。
やはり重要。TikTok/Spotifyの拡散、リコメンド。
若年層で盛り上がるデジタル音楽シーン「ボカロ、R&B、ロック」
Awesome City Club、P丸様。、変態紳士クラブ、BLOOM VASE、Chinozo、MAISONdes、
これらのバズ、ブレイクをどうアーティスト人気に結び付けていくのか、ここにこそ、いわゆる大人の力、業界の知見やノウハウが求められていると思います。
バズの勢いがあるうちにデジタルヒットの連打、しっかり熱を上げ、数を重ねて、「曲ヒット」から「アーティストブレイク」へ、その先にフィジカルでのマネタイズに育てることに業界としてデジタルマーケティング強化に取り組みたいですね。もちろん私も頑張ります。
【MV】シル・ヴ・プレジデント/P丸様。【大統領になったらね!】
新旧音楽ビジネスの両立という課題。乗り切る鍵となる「海外」
SEKAI NO OWARI、back number、RAD WIMPS
サブスクやyouTubeなどアルゴリズムに乗ることが求められる時代に、気を付けなくてはならないのが、ファンが固定化すること。アーティストや曲、チャンネルの客層は、この年代、この地域、言語、この趣向といったように固定されてしまうと、伸びが鈍り、特定のファンが固まってしまう。
このファンの固定化が起こると、SNSを通じて過去の感動や成功事例にこだわった世論にアーティストやスタッフも左右される恐れがある。
「フィルターバブル」や「チェンバーエコー」などの専門用語でも指摘されるように、同じ趣向の人が集まることで熱は高まるものの、先鋭化していく恐れがあり、エンタメにとっては健全とは言えない。
SEKAI NO OWARIの海外活動(End of the world)、back numberのBTSへの楽曲提供、RAD WIMPSの世界的なアニメ効果、などは、それ単体で成功したかは賛否ある。しかし、ある種の風通しのよさが好影響をもたらしているのではないでしょうか。
特にback numberとBTSのコラボと「水平線」のバズがどう結びついたのかは機会があれば調べてみたい。
back number - 水平線
レコード会社2強「ソニー」と「ユニバーサル」の違い
■ユニバーサル・・・BTS、Ado、藤井風、宮本浩次、SEKAI NO OWARI、back number、RAD WIMPS、、、
■ソニー・・・YOASOBI、優里、乃木坂46、宇多田ヒカル、Lisa、King Gnu、、
会社単位で考えると、ユニバーサル・ミュージックは、デジタル+フィジカルのバランスを見極め、がっつり数字を稼げるやAdo、今後の藤井風に力を集中させているように見えます。アーティストやマネジメントの主体的な活動から発生したうねりをセールスに結びつける姿勢。
一方、ソニーはデジタルに強いとは言い切れない。デジタル活用については、YOAOSBIは社内インディ的なスモールチームでの自由な施策を行えている、アニプレックス系も別会社、別業種であり、音楽レーベルとしての本筋は乃木坂46に代表されるフィジカル型組織が主流なのかもしれない。ソニーグループ全体がプラットフォームでの成功を志向しており、アーティストはプラットフォームにあてはまるコンテンツとして考えている印象を受けた。それは、かつてのオーディオをハード、音楽商品をソフトと考えた企業文化のアップデートを思わせる。
20→21長びくコロナ。デジタル・ファーストで攻めるか。CDやタイアップで守るか。
なぜ、業界スタイルとオンライン・スタイルは両立できないのか?
そのあたりの話については以下の過去記事をご覧ください。
・発売日ピーク→発売日はゴールではなくスタートに
・国内志向→海外志向ではなく、隔てない両方志向
・やっぱりデジタルファースト
「サブスクか?CDか?」ではなく、曲を知らしめるためにも、ファンにCDを買ってもらうのも、どちらにしてもデジタルを強化する事が正解であり、そこに向けて業界全体で、国内海外のリスナーに音楽を届けていきたいものです。
この記事では、触れられなかった、マカロニえんぴつ、Saucy Dogなどバンド系やVaundy、Yamaなど次世代POPS、大きなセールスを生み出すヒプノシスマイク、すとぷり、NiziU、BE FIRST、JO1やINIなどK-POP系オーディション組など、、も掘り下げたいところです。
デジタルを活用した音楽ビジネススキルが求められる音楽シーン。私が運営に参加している音楽デジタルマーケター養成講座での人材育成。私が教授を務め、4月よりスタートする大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻でも、学生と一緒にこれらの音楽ビジネス研究は行っていきたいと思います。もちろん学生以外でも、一緒にこのようなリサーチや分析を一緒に行って下さる方いらっしゃいましたらご連絡お待ちしてます。
YouTubeでも語っています。
いいね!チャンネル登録お願いします!
以下、告知です。
ニューミドルマンコミュニティの勉強会です。
SXSWやMIDEMなど、最新の音楽ビジネスやITテクノロジーサービスを紹介するイベントの役割や可能性について考えます。
https://nmmmeetup0324.peatix.com/
会員限定ですが、毎月1000円で著名ゲストの話が聞けるイベントやこういった勉強会に参加できて、つながりが出来たり最新情報得られますので安すぎかと笑
興味ある方ぜひ。
諸々、フォローや登録よろしくお願いいたします!
☆脇田敬☆
https://www.instagram.com/wakita.takashi/
脇田敬 - YouTube
https://www.facebook.com/takashi.wakita
Follow Me!
著書『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』,
経産省監修『デジタルコンテンツ白書』編集委員
ポッドキャストも始めました。
2022年4月開講 大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻
プロデュースやマネジメントなど関わった音源のプレイリストです!