【アカデミー賞有力候補】レディー・ガガ『アリー/スター誕生』音楽レビュー。(Dolby Atmosで観た)

アメリカでヒット中、注目のレディー・ガガ初主演映画『アリー/スター誕生』をDolby Atmos試写で観たのでレビューします。

映画、そしてサントラも大ヒット。
なぜ、これほどヒットしているのか?
音楽面から探ってみました。

 

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バーブラ・ストライサンドで有名な「スター誕生」のリメイク。
さらに俳優のブラッドリー・クーパーが監督、主演、歌手役で実際歌も歌う、と話題満載。映画祭の先行公開でも大絶賛を受け、アカデミー賞候補と呼び声が上がっている。

先行リード曲「Shallow」も大ヒットし、新たなイメージを纏ったレディー・ガガが世界中の注目を集めていきそうだ。

 


映画『アリー/ スター誕生』日本版予告【HD】12月21日(金)公開

 

wwws.warnerbros.co.jp

 

さて、この作品の秘密を紐解くべく、音楽について注目してみた。
楽曲は発売済み。ストーリーじゃないからネタバレ気にせずレビュー。


『アリー/スター誕生』の音楽 

 



↑映画内での歌唱をレコーディングした楽曲が収められたサントラ

 

レディー・ガガのエキセントリックなイメージを覆すような、生バンドの歌唱、そして「愛」のストーリーと結びついた各曲のテーマ。シンガーとしてのガガの実力と彼女のメッセージの本質を伝える。


ルーカス・ネルソンによるアメリカーナ・サウンドに乗せてブラッドリー・クーパーが歌う


『アリー/スター誕生』の音楽について、一つ目に考えたいのは、ブラッドリー・クーパー演じるスター・アーティスト”ジャクソン”が演奏する音楽。
いわゆるアメリカーナと呼ばれる、カントリーやフォーク、ブルーズといったジャンル。

ガガのイメージからすると、エレクトロや80'Sですが、その要素はない。
70年代版の『スター誕生』のロックなイメージを踏まえているような、アーシーな雰囲気だけど、どこか90年代的でもある。

このプロダクションの中心になっているのが、ルーカス・ネルソン。有名なカントリーシンガー、ウィリー・ネルソンの息子。劇中のクーパーのバンドは、このウィリー・ネルソンのバンド。つまり、この作品のアメリカーナ・サウンドの中心は彼と言っていいようだ。



Lukas Nelson & Promise of the Real - Find Yourself (Music Video)

 

このジャクソン(クーパー)が奏でる音は、フォークやカントリー・ロック。しかし、保守的なカントリーやアメリカン・ロックではない。
そこに、オルタナティブな姿勢やサウンドが聴き取れる。ボブ・ディランザ・バンド、ニールヤングなどのイメージが近い。

音楽フェスでパフォーマンスを観たクーパーが、ルーカス・ネルソンにオファーしたそうだ。ニール・ヤングの大ファンらしいクーパー。ニール・ヤングのバックを務めた事もあるネルソンを知っていたのか、クーパーの考えるアメリカンなルーツ・ロックとグランジ/オルタナティヴなテイストに魅かれたのか?
このネルソンとの出会いから、オルタナティブ/グランジのテイストが入ったアメリカーナこそ、クーパーの考える、この映画を支える音楽の柱となったようだ。

 

マーク・ロンソンとクーパー/ネルソンのアメリカーナサウンドが合わさった、渾身の一曲「Shallow」

 

この映画のストーリー上でも重要な役割を果たす、先行シングル曲であり映画のテーマソング「Shallow」。浅瀬(Sharrow)から深い水の底、つまり、お互いを心の深く知り合う関係、人間として結びつこうとする事を歌っている。

このアメリカーナとオルタナティブロック/グランジサウンドに乗せて、メインのメロディはまさにレディー・ガガ節の炸裂。

 


Lady Gaga, Bradley Cooper - Shallow (A Star Is Born)

 

作曲については、レディ・ガガの前作アルバム『Joanne』をプロデュースしたマーク・ロンソンのチームとガガの共作。
演奏は前述のルーカス・ネルソンのバンドが行っている。
このネルソンのバンドと、ガガ、そして世界トップ級のプロデューサーであるマーク・ロンソンとヒット・ソングライターたちによるポップ・チームが合流して完成した1曲。

 


Lady Gaga - Million Reasons


2016年にリリースされたガガの本名をタイトルとした『Joanne』。
”素”のガガを目指したであろう作品。この『Joanne』で目指した方向性が、クーパー/ネルソンと、この映画の企画と出会うことで、より完成した印象がある。

↓マーク・ロンソンと言えばこの曲


Mark Ronson - Uptown Funk ft. Bruno Mars

 そして、この人


Amy Winehouse - Back To Black


 正統実力派シンガーとしてのレディーガガの誕生

 

「Is That Airight?」「Look What I Found」「Always Remember Us This Way」や、感動的なエンディング曲「I'll Never Love Again」は、素顔のレディ・ガガであり、アメリカン・ミュージックの伝統を継承するスタンダードなシンガー・ソングライターとしてのガガである。

 


Lady Gaga, Bradley Cooper - I'll Never Love Again (A Star Is Born)

 

「スター誕生」のリメイクは、76年版で主役を務めたバーブラ・ストライサンドと比較される。彼女はアカデミー賞グラミー賞トニー賞を受賞したアメリカ史上偉大なエンタテイナー。歌、演技、プロデュース、女性としての主張、、。アメリカでのマドンナ以前の女性アーティストのトップはこの人だったのだろう。
これらの曲たちでのパフォーマンスは、ミュージシャンとして、偉大なバーブラと比較される土俵に乗り、見事に本物であることを証明している。
これらの生音のポップス曲は、レディー・ガガが正統派のシンガー、プロデュースの力量を証明したと言える。

↓76年版『スター誕生』のメインテーマ。その名も「Evergreen」


Barbra Streisand - Evergreen (Love Theme from "A Star Is Born")

 

作品後半のストーリーと密接なポップソングは、ガガ・チームが担当した”もう一人のガガ”

 

後半の楽曲は、打ち込みサウンドを中心としたガガ・テイストのポップチューンが並ぶ。そして、一聴するとガガ的に思えるエレクトロ/R&Bテイストなダンスポップ曲も、映画の中の”アリー”を表現したのか、今までのガガと違った繊細さや情緒がある。これらの楽曲はガガであり、もう一人の人格”アリー”として完成されたのだろう。

「Heal Me」「Why Did You Do That?」「Hair Body Face」「Before I Cry」といったポップ・チューンはポップスター感がある。もちろんガガはポップスターの中のポップスターだが、彼女のヒット曲は、エキセントリックさや激しいエモーショナルさが前に出ており、今回のポップ曲は、よりメインストリームなポップスだと感じられる。映画音楽故に、音圧を抑えたダイナミックレンジの広いサウンドになっているのも関係あるかもしれない。

これらのガガが一人で歌う曲には要所に、ヒット作家を起用し共作を行っている。
映画の中でも印象深い曲たちだ。

 

★Always Remember Us This Way

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2016年のグラミー賞ベスト・カントリー曲を受賞したLittle Big Town「Girl Crush」等を提供するカントリーソングのヒットメイカーたちとガガが共作している。
Natalie Hemby ・・・Miranda Lambertなどに提供
Hillary Lindsey・・・Carrie Underwoodに提供した"Jesus, Take the Wheel"でもグラミー受賞している
Lori McKenna・・・  Tim McGrawに"Humble and Kind"を提供

↓2015年を代表するカントリー・ソング


Little Big Town - Girl Crush

 

 

★Heal Me

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2017年には自身の活動でデビューし注目を集めた女性アーティストJulia Michaelsと、作曲パートナーJustin Tranterとガガチームとの共作。
2015年大ヒットしたJustin Bieber『Purpose』に収録されている「Sorry」他、Selena GomezやHailee Steinfeldなどのポップスターの楽曲で、大ヒットを多数手がけた売れっ子となったチーム。
Justin Tranterは、作家として成功する前に自身のユニットでガガのツアーのオープニングを務めているので、何かきっかけやご縁があったのかもしれない。

 


Justin Bieber - Sorry (PURPOSE : The Movement)


Julia Michaels - Issues


★Why Did You Do That?"

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「Til It Happens to You」で共作した、80年代以降のアメリカを代表するDiane Warrenとの共作。この「Til It Happens to You」は、レイプ被害を扱った映画『ハンティング・グラウンド』の主題歌としてアカデミー賞にノミネート。授賞式で、レイプ被害者男女50名と共演、自らもレイプ被害を受けたことをカミングアウトし話題となった。

Diane Warrenは、Starship「Nothing's gonna stop us now」や、Aerosmith「I Don't Want to Miss a Thing」など、9曲の映画主題歌でアカデミー賞ノミネートされている。

 


Lady Gaga 2016 Till It Happens To You Oscar Performance 1

 

 


これらのアメリカーナ系やヒットポップス系作家やシンガーソングライター、そして、『Joanne』や『ARTPOP』などで組んだ気心知れたクリエイターによって、新しいガガの楽曲が生み出されている。
彼ら共作者について調べていくと、ガガが一つ一つの場面やストーリー展開の中で、楽曲で深みを与えている事が透けて見えてくる。

サントラ後半は、『ARTPOP』等と同じクリエイターたちと制作されているが、より洗練されたガガ的な“煽り”がない仕上がり。映画内のキャラクターを演じる事によって、エキセントリックな印象から逃れて、正統派のシンガー像を作り上げている。

 

 

 

Spoitfyプレイリストでまとめました

この記事内で紹介したルーカス・ネルソンやマーク・ロンソン、ジュリア・マイケルズ他のクリエイター作品や、これらの楽曲に繋がる関連楽曲と『アリー/スター誕生』のサントラをミックスしたプレイリストを作ってみたので、ぜひチェックしてみてほしい。

 

 

 

 

Dolby Atmosで体感する迫力のライブシーン

 

この作品は、立体音響作品としても強い印象を受けました。
IMAXや3D、4K、VR、ARなど、映像分野でテクノロジーが注目され、普及するが、「音」に関するイノベーションはまだまだ。
逆に伸びしろ、これから進化出来る分野でもあり、私もTECHS(https://techs.media/)のイベント活動やアーティスト・プロデュースでも、楽器や音響の進化にトライしています。KISSonix 3D,MI7


そんな中、出会った、この映画のDolby Atmosを使った音響は相当のインパクトでした。


A Star Is Born - LA Premiere Red Carpet | Dolby Cinema | Dolby


ライブシーンでの迫力、特にライブでの、主演二人の歌、ステージ上での会話、各楽器の音や客席側からの歓声が立体的で、まるで自分がステージ上にいるよう。
普通に配信された音源を聴いて確認しましたところ、繊細な歌や楽器の音質もすばらしいですが、劇場でのAtomosでの臨場感、迫力には驚きました。

今までAtomosで観た映画、アクション映画、SF映画もたしかにすごい迫力でしたが、さほど驚きを感じれませんでした。Atmosでなくてもこういったジャンルの映画の音響は十分に迫力があるのかもしれません。

しかし、今回の『アリー/スター誕生』は、これまで見た映画とは違う、音楽映画におけるAtmos、立体音響の本気の作品表現になっています。
次のシーンへと移り変わっていくのが惜しいぐらい、ずっと聴いていたいと思うほど刺激的な音楽体験。ぜひとも、Atmosの劇場でご自分の耳で体験して頂きたいです。

 

 

 

最後に、、

ここまで読んで頂きありがとうございました。
公開したらもう一度観て、また映画そのものについてレビューしてみたいと思っています。
プリンスの『パープルレイン』やホイットニー・ヒューストンの『ボディガード』のようなアーティストが主役を演じるヒット作、近年ヒットしているミュージカル的な映画『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト。ショーマン』などと並べてみるのもおもしろいでしょう。または、70年代テイストの女性映画の流れとして見ても面白いと感じています。

 

 最後に偉大なエンタテイナー、レディ・ガガスーパーボウルでの伝説のパフォーマンスも貼っておきましょう。

人の人生を変えるほどのパワーを持ったエンタテイメントです。


Lady Gaga - Pepsi Zero Sugar Super Bowl LI Halftime Show

 

 

 

Bonus Track:
「アーティストLADY GAGAはどのように登場したか?」

1986年生まれ。Stefani Joanne Angelina Germanottaは、19歳の時に“LADY GAGA”の名付け親であるプロデューサーRob Fusariと楽曲を制作し、各レコード会社に売り込む。デフ・ジャムと契約するも、リリース無く終了。ニューヨーク市の近郊のクラブでダンサーをしながら生計を立てた。GAGAのスタイル確立に多くのインスピレーションを与えたLady Starlightと共に多くのパフォーマンスを行った。
2007年、Fusariが友人であるインタースコープ・レコードのヴィンセント・ハーバートに、GAGAを紹介、ソングライター契約を結ぶ。同レーベルに所属するファーギーブリトニー・スピアーズ、プッシーキャット・ドールズ、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック、エイコンといった有名アーティストに楽曲を提供した。制作者として活動を続けていたときにエイコンがガガに歌手としての才能もあると認め、インタースコープ・ゲフィンA&MInterscope Geffen A&M代表ジミーアイヴォンJimmy Iovineに自身のレーベルコンライブとアーティスト契約を締結したいと伝え、契約が決定。

エイコンはガガについて、「類稀な存在」「ダイアモンドの原石」と表現している。
インタースコープのヴィンセント・ハーバートはイヴやネリーなどを手掛けるトロイ・カーターにマネージメントを依頼する。ソーシャルやデジタルテクノロジーに強いカーターの参加により強力なチームが完成した。

2008年ロスアンゼルスに、移動し、デビュー・アルバムの制作を音楽プロデューサーレッドワンと共に行う。1年ほどスタジオに籠って楽曲を制作。また、アンディ・ウォーホールをモデルとした彼女自身のクリエイティブ・チームHaus of GAGAを結成。

2008年8月19日デビューアルバム『The Fame』がリリースされ大ヒットを記録。次々とヒットを生み出している。