サブスク時代の音楽の売り方②ファン行動について ~ファンダム、ファンクラブ~
前回、サブスク時代に無料ツールなどで、アーティストを上昇させる方法について書きました。今回はファンによるプロモーション活動、ファン行動について書きます。
3月17日にニューミドルマン・コミュニティのオフ会(勉強会・交流会)を行います。ファンクラブ事業のリードカンパニーSKIYAKIさんからお話を聞く形で、新しい時代のFCについて考えます。
イベントに向けてのメモ、または問題提起として、現代のファン行動について考えてみました。
ファンダム
「ファンダム」という言葉を聞いたことがあるだろうか?
201年代、SNSの普及と共に、アーティストとファンの距離はぐっと近くなった。
アーティストがTwitterやInstagramを通じて情報発信し、ファンは熱く信奉する。
そして、勝手のファンが受け身の消費者であったのに対して、ファンダムは積極的に行動し、アーティストや事務所、レーベル、そして社会全体に対して直接意見を伝え、影響を与える存在だ。
「物を言うファン」と「ファンダム」の違いは、ネットワークし組織的な行動を取るか否かだろう。
かってのファンは、作品やパフォーマンスを受け取り、好むかどうかだった。
ファンクラブも、先行チケット購入、会報、が中心だった。
しかし、ファン行動がインタラクティブになり、一方的な受け手ではなくなったため、ファンクラブも変化を求められている。
SKIYAKI社は、ファン行動をポイント制とし、沢山応援してくれたファンが特典を受け取れたりする仕組みをスタートし、岡崎体育のファンクラブをこの仕組みで行い、大きな話題を集めた。このインタラクティブなファン行動を可視化し、マネタイズする動きの背景となる時代状況を考えていきたい。
テイラー・スウィフトはデビューの時、カントリー・アーティストとして初めてMyspaceアカウントを作り、発信した。その後、リリースの度に、YouTube、Twitter、InstagramとSNSプラットフォームでのアクションを行い、アルバムをヒットさせてきたアーティストだ。アルバム『1989』リリース時は、SpotifyとApple Musicの競争が激化するタイミングでのApple Music先行配信で大きな話題を作ったのも記憶に新しい。
『1989』発売時は、日本で行われるような、Type-AやType-Bといったような、ジャケ違い、収録曲違いの商品を数種類作り、ダウンロードが主流の時代にCD目がセールスを達成した。
最新アルバムである『reputation』では、ファンダムやメディアからの要求に応える事の問題を吐露する衝撃的な内容を含むダークな内容で、当初鈍い売り上げからロングセラーを達成し、年間セールスでも1位となった。彼女が大胆なアクションを繰り出せるのは、ネット上に熱烈な信者の集団「ファンダム」を巧みにコントロールしてきたからだ。(音楽がいいのは前提)
SNS時代の音楽ビジネスを考える上で彼女の動きは見逃せない。
Taylor Swift - Look What You Made Me Do
レディーガガ
レディー・ガガは彼女のファンたちを「リトル・モンスター」と名付け、Little Monstersという双方向のファンサイトを作る事で、行動的なファン行動をアーティスト自ら後押しする為のコミュニティーを提唱した。LittleMonstersは成功しているように見えないが、この手法はK-POPジャンルで成功を収めているように思う。
また、アカデミー賞、グラミー賞など受賞し、ガガを名実ともに2010年代を代表するアーティストにした主演映画『アリー/スター誕生』のライブシーンのオーディエンスはファンクラブで集められたそうだ。コーチェラ・フェスティバルやLAフォーラムなど様々なライブ会場でのシーンがかってないほどリアリティがあるのは、オーディエンスがエキストラではなく、本物のファンだからである。
Lady Gaga - Always Remember Us This Way (From A Star Is Born Soundtrack)
遡れば、90年代後半、バックストリート・ボーイズやインシンクといった「ボーイ・バンド」と言われる男性ヴォーカルグループの隆盛、そして、ブリトニー・スピアーズの登場によって、熱狂的な人気を得る女性ソロシンガーのスーパースターの流れが確立していったように思う。
ちなみに、この流れを代表する楽曲である、バックストリート・ボーイズの「I Wnat it that way」とブリトニー・スピアーズ「Baby one more time」は、2000年代最大のヒットメイカー、スウェーデン人のマックス・マーティンの出世作でもある。スウェーデンの作曲家が、ヒップホップやエレクトロ・ミュージックを自由に加工し、ヒットポップスを作る流れも、この時期に始まっていったのです。
PC、DAWの普及でそれ以前より遥かに安価で作曲やレコーディングが出来る、打ち込み音楽ヒップホップやダンスミュージック・ベースのポップソングに合わせて歌い踊るスターは2000年代のポップミュージックのメインストリームと言える。
BTS(防弾少年団)の活躍は、昨年、日本でも大きな話題となった。彼らは、このボーイバンドの最新型であり、「ARMY」と呼ばれる彼らのファンたちは、「ファンダム」の象徴的な存在です。時に社会的なメッセージも含んだ歌詞と「ARMY=軍」というコンセプトは、革命や社会運動をイメージさせ、欧米人にも響くものがあったのだろう。
BTS (방탄소년단) 'IDOL' Official MV
日本~AKB48、ジャニーズ~ランキングとの関係
AKB48が、「RIVER」あたりで大ブレイクを果した後、選抜総選挙をスタートさせ、ファンの力がグループのメインヴォーカルである「センター」が決まるという仕組みを成立させ、圧倒的な人気を作り上げた。結果、AKB48は、10年にわたって、オリコンシングルチャート年間トップを独占し続ける無敵の存在となった。時に批判されながらも「国民的グループ」の称号を維持しているのは、このオリコン・チャートでの実績に裏付けられている。
一方、同じくオリコンチャートを独占する勢力であるジャニーズ事務所の動きはどうだろうか。大規模な握手会などは行わず、音源、コンサート、ファンクラブ、などバランスよく旧来の音楽ビジネスを展開していると言える。しかし、ファンダムの波はここにも及んでいる。活動休止したSMAPのファンは、グループ存続などを求めて、SNSで呼びかけシングル「世界に一つだけの花」のセールスを伸ばしたり、ランキングに登場させたりする消費行動を行った。ファン有志で新聞広告も打ったりもしている。
CDセールスを元にしたオリコンチャートが人気の指標となっていた時代に変化が現れたのが昨年。ダウンロード、ストリーミングが集計に加わっているだけでなく、Twitter、YouTube、CDのPCへのリッピングも集計されている。
昨年の年間ランキングを見ると、安室奈美恵や米津玄師やDA PUMPが上位にランクし、ヒットの指標として納得できる内容になっている。
しかし、このビルボードランキングにも、ファンダムの影響はしっかり見られる。BTSが年間アーティストランキングの3位に入っているのはもちろんだ。
ストリーミングどころかダウンロードやYouTubeアップすら行わないジャニーズ勢は、嵐の15位が最高位。
しかし、気になるのは18位に入っているNEWSだ。シングルセールスで年間16位、リッピングで20位、注目すべきはTwitterでBTSに次ぐ2位を記録している事だ。
NEWSファンは、SNSでネットワークして、NEWSを応援するファンダム化した動きを取っている事が読み取れる。メンバーの脱退などを乗り越えて活動し続けるNEWSというグループの歴史が、ファンの組織化の推進力になっているのかもしれない。。
このような動きは、Billbordランキング、Twitter、そしてSpotifyチャートで威力を発揮しているように思う。YouTubeは、意図的に再生回数を増やすことに制限をかけている。
ファンダム的な「行動するファン」「ネットワーク化」は、SNS時代が背景になっている。BTSに代表されるK-POPグループは、ファンクラブをこの「ファンダム」の需要に応える場として成立させている。日本の「AKB総選挙」という世紀の大発明も、何がしか影響与えているのかもしれない。
寄付を払って党員になり、政治的な方針を社会に広める政治活動のように、応援したいスターや共感できるアーティストのメッセージやコンセプト、魅力を広め、仲間と繋がりネットワークして勢力拡大する。
この楽しみ方は、一過性ではない気がする。
著作もヒットし、AKB48はじめ秋元康プロデュースユニットは多かれ少なかれ活用するライブ配信アプリ「SHOWROOM」は、総選挙をオンライン化したようなツールだ。ファン行動をゲーム感覚でスマホサイズで仕組み化を実現し、多くの利用者を獲得するとともに、配信者へ収益をもたらし、音楽業界の最大の問題である新人アーティストのマネタイズに一つの答えを提供している。
ジャニーズもヴァーチャル配信をスタートさせた。
ファン行動の中でも「応援」という点で、ファンが直接お金を出すというのはわかりやすい。ここに、善い行い、競争、意味など物語を加えることで、エンタメにおけるクラウドファンディングは成立するように思う。Makuakeにおける成功例、アニメ『この世界の片隅に』などは、商業的に成立しにくいテーマである「戦争」「原爆」を扱った作品を実現するという、社会性があったこと等
オリコンランキングの改革により、握手会目当てのCD大量購入によるランキング・ブランディング時代が終わるかもしれない2019年、ファン行動は次のステージへと向かっている。今後に注目したい。
あと、2000年代辺りのメロコアやラウドロックのジャンルにおける「ストリート・チーム」というファンによるプロモーションについても、また掘り下げて、今後を考える材料にしたいなと思います。
最後に
このファン行動とチャートランキングについて考えていて、思い出した本がある。ジャズミュージシャン、サックス・プレイヤーで著述家の菊地成孔さんの、「CDは株券ではない」だ。
J-POPが、CDビジネスで潤ってた時期の本だが、CDを株券の銘柄に見立てて、売上枚数を予測する連載企画をまとめた本。この本のコンセプトはSNS社会の到来によるファンダムの動きによって現実になってきているのではないだろうか。
こちらも興味のある方はチェックしてみてください。
ファン行動の現在未来に興味を持たれた方、ぜひイベントご参加ください。
ニューミドルマン・コミュニティの会員イベントですが、下のPeatixより申し込んで頂ければ参加できます。
入会も受け付けております。
脇田敬
https://www.facebook.com/takashi.wakita
著書『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』