『君たちはどう生きるか』感想(少しネタバレ?)



気合入れて初日から観てきました!

感想としては、「ソーシャル時代に、私的にアップデートした実験作」といった作品だと思いました。

 

ちょっと違うかもですが、音楽で言うと、過去の代表作を録音し直してリリースするテイラー・スウィフトにも通じます。曲は同じで、完コピなんだけど、テイラー自身が絶対的な主役の立場で録り直しているエネルギー。忙しいのに、何故そんなことをするんだろう?と思いましたが、100%自分自身であり続けることが今の時代に必要なんだというメッセージを伝えるには、こういった一見奇策みたいなことに行きつくと思いました。

岡本太郎で言うところの『座ることを拒否する椅子』みたいな。アニメのような大人数で作り上げるジャンルでありながら、美術作家や音楽アーティストに近い個人表現を行なっていると思います。その点、黒澤やコッポラのような巨匠の作品らしいとも思いました。

 

宮崎監督の作品で伝えられてきた「戦争の愚かさ」「自然の大切さ」などは、人類の普遍的な智慧の連なりの中で明白な「真実」「正義」かと思っていましたが、「フェイク」と「ヘイト」が横行する現代の世界には「正義」も「真実」も説得力が無くなり、簡単に論破される社会になってしまいました。

 

風立ちぬ』では、軍国時代を扱ったが、世の中の反応が思ったものと違い納得できなかったのではないでしょうか。そんな社会において、宮崎監督が自分の伝えたい事を届けるためにじゃあ、どうするのか?と考えた末に、自分自身の体験や感性により深く潜り、主観で伝えることに絞ったアプローチに至ったのではないかと思いました。

 

社会への影響、大衆に伝えるための感動演出を取り払って、観客に結論やカタルシスを与えるのではなく、自分自身で感じ、好きに楽しむことを求めるスタイル。21世紀的、SNS的に感じます。

 

理解しがたい抽象的な表現が、いくつも出てきます。これは私的な表現なので、感覚的に楽しめばいいのかなと思いながら観ていました。しかし、そんな中でも、主人公の眞人は真っすぐに正しいことは何かを追求し続けます。『もののけ姫』のアシタカに近いものを感じました。アシタカは絶望的な状況に振り回され続けた印象がありましたが、眞人は内面的な自分自身と向き合い、戦い続ける強さを感じました。不確定で不可解な状況の中で自分を見続けることこそが、この作品で伝えたかったことではないかと思いました。

 

そういったこの作品の本質を伝えるために、鈴木敏夫プロデューサーが宣伝しない、作品そのもの以外の要素で理解することを防ぐ「宣伝しない宣伝」という手段をとったのだと思います。鈴木氏は、宮崎監督のパートナーであり、監督の才能や思想、感性を伝えることの天才、エキスパートであり、今回、その点においても、「何もしない」という極め付きの奥義を思いついたのではないでしょうか。鈴木氏はプロモーターであり、マーケターであり、プロデューサーであるので、この奥義に至った思考の経路はいろんな道があったのだと思います。

例えば、作品がなかなか出来なかったとか。メディア企業やスポンサー企業との関係を気にしない作品作りが成立する状況になった中で製作された作品であり、それこそがこの作品の本質だったのかなと感じました。日本テレビの氏家氏や高畑勲監督が亡くなられたことも影響しているのかなとも思いました。

 

観た後、個人個人がそれぞれ解釈すればいいので作品考察や解釈は必要ないかと思いました。しかし、逆にこの映画は皆で、ああでもないこうでもないと議論する作品であり、百人いれば百通りの解釈があって良し、答えはそれぞれの中にある、そのように楽しむ事が正しいのではないかと思うようになりました。

なので、他の人の感想を見る前に、忘れないうちに初見の感想を記録しておくことにしました。色んな人の見方を知った上で、自分自身の感じ方が変わっていく事も楽しんみたいです。

そのように、この先何年も、ずっしりと心にあり続け、観る度に発見があり、自分と向き合うことを後押ししてくれる映画だと思います。観た方、是非語り合いましょう!

 

さて、余談ですが、かつて、私は「『もののけ姫』を語る会」というイベントを行なった事があります。『もののけ姫』を観て大きな衝撃を受けて突き動かされ、自分と同じように思った人が集まり語るイベントを行ないたいと思いました。会う人会う人、そんなことを吹きまくってるうちに、その時お世話になっていた方がジブリの方を紹介して下さいました。今回の『君たちはどう生きるか』でも美術監督を務められている武重洋二さんがゲストに来て下さいました。こういうイベントは前例がないとのことで、武蔵小金井ジブリに呼んで頂き、鈴木敏夫さんにご挨拶しました。また、武重さんにはジブリ内をご案内頂きました。(ちなみに、その時ジブリで作られていたのは『ホーホケキョ、となりの山田くん』)その日は宮崎監督はいらっしゃらなかったのですが、机は見れました(笑)
語る会イベントは主催の私の至らなさからちょっと苦い思い出となってしまったのですが、ジブリの方々の温かさ、大らかさに触れられたこと、そして、感じたことを表していく事の大切さを学ばせて頂きました。人生の宝だと思っています。

どんなちっぽけなことであっても、エンタテインメントの仕事を続ける上で、しっかり次の世代の方々に返していきたいと思います。

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

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☆脇田敬☆ 
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著書『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』,

経産省監修『デジタルコンテンツ白書』編集委員

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