アカデミー大本命『グリーンブック』観ました。

3月1日より公開の映画、アカデミー賞最有力候補の『グリーンブック』を試写で観てきました。 (ネタバレ無いと思います)

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【公式】『グリーンブック』3.1(金)公開/本予告


https://gaga.ne.jp/greenbook/

アカデミー最有力は沢山あるが、これが本命?チラシやHPも「最有力」→「大本命」に変わっており、関係者も賞レースに手ごたえを感じているようです。

実在のピアニストが題材となっている作品。今回もサントラや関連曲のプレイリストを作ってみましたので、Spotifyで聴いてみてください。

 

 

公民権法が成立する以前の1962年を舞台に、黒人ピアニストとイタリア系ドライバーが、人種差別の根強いアメリカ南部(Deep South)をツアーする話。

まず、インテリで裕福な黒人の天才ピアニストと貧しいブロンクス育ちのイタリア系白人という対比の設定がおもしろい。この対照的な二人のやり取りが微妙にズレているのが可笑しい。

二人は人種や立場が違っても、自分の生き方や仕事に真剣でプライドを持っているところがとても気持ちいいです。
オスカーも、主演、助演、監督、脚本、編集とノミネートされ、人間ドラマとして高く評価されているのがわかります。

 

音楽

ドラマが進む中で、良きタイミングで入ってくる演奏シーン。
ドン・シャーリーは黒人ミュージシャンなので、反射的にジャズやR&Bを想像してしまうが、流れてくる音がクラシカル。その演奏に喝采を贈るオール白人の聴衆。
この”ズレ”によって、観ている自分の固定観念を指摘され心を揺さぶられます。
理屈ではなく、音楽での指摘が、この映画のスパイスになっていると思います。

 

ドン・シャーリー Don Shirley
ストラヴィンスキーも絶賛したピアノ神童から「ジャズ・ピアノ・レジェンド」へ

 

さて、この話は実在の人物、実話を元にしており。1962年の南部ツアーは実際の出来事です。黒人ピアニスト、ドクター・ドン・シャーリー(Don Shirley)は、1950-60年代に多くの作品を発表したピアニスト。
2歳よりクラッシック・ピアノを習い、9歳でロシアのレニングラードに留学した「天才」。ストラヴィンスキーからも絶賛された神童だが、黒人ピアニストがクラッシックの世界で商業的に成功するのは難しく、カテゴリーとしてはジャズ・ピアニストとして活動したようです。
楽曲を聴くと、ジャズにクラッシックを折衷したイージーリスニングのようなインスト・ポップで成功を収めたようです。
ドン・シャーリーの最大のヒット曲が1955年の「Water Boy」。

ジャズ、クラッシック、映画音楽を折衷した音楽がこの時代のアメリカのメインストリームのポップミュージックだったのでしょう。
彼の客層は、ラジオで流れるリズム&ブルーズ、ロックンロールと違う、家のリビングでステレオで音楽を聴くような白人富裕層だったのでしょう。

ボブ・ディランのブレイク、ビートルズアメリカ上陸は1964年。


クリス・パワーズ
ジャズ界の新星は映画スコア、ヒップホップとボーダレスな活躍


今作では、劇伴スコアとDon Shirleyのライブシーンの演奏をクリス・バワーズ(Kris Bowers)という、ジャズ/クラッシック/映画音楽をクロスオーバーするピアニストが担当しています。まさに適任の彼は、他にも劇中のピアノシーンの手元を演じ、ドン・シャーリー役のマハーシャラ・アリのピアノ指導も担当。まさに全面的にこの作品に携わっています。

2014年のアルバム『ヒーローズ+ミスフィッツ』より「Forget-er」

ジャズ界最大のコンテストであるセロニアス・モンクコンペティションで優勝。

ヒップホップ世代のジャズ・ピアニストとしてカニエ・ウェストとジェイ-Zのアルバムにも参加している。 

https://www.universal-music.co.jp/kris-bowers/


ロバート・プラントも協力?
映画を彩る50-60年代のリズム&ブルーズ

ドライバーのトニー・リップが運転しながらラジオで聴く音楽は、リトル・リチャードやチャビー・チェッカーアレサ・フランクリンなどの”黒人音楽”。
これらの音楽をかけながら、美しい自然風景の中を、ターコイズ色のキャディラックでバーチャル・ドライブするのもこの映画の魅力の一つ。

この50-60年代の音楽の選曲には、元レッド・ツェッペリンのヴォーカリストロバート・プラントも協力したそうだ。
監督の妻と、プラントの彼女が友人で、一緒に食事した際に「50年代後半から60年代前半で、今は聴かれなくなっているカッコいい曲を教えてほしい」と依頼。プラントのアメリカ音楽の知識から、YouTubeを再生しながらピックアップした曲が、この映画のサントラの元になっているそうだ。素敵な話。

 

最後に

 個人的に、ドン・シャーリーにとても興味を惹かれました。
ジャマイカン系の黒人天才少年、8か国語を話し、心理学の博士号を持つ。9歳でロシア(ソ連)のレニングラード留学、ストラヴィンスキーに絶賛されたという経歴。
20世紀を代表する作曲家の一人であるストラヴィンスキーはロシア人、パリでバレエ音楽で成功し全世界で活躍した。彼がディアギレフやニジンスキーと作り上げたバレエ作品は常識や偏見を超えたものでした。
そんな彼がNYで、ドン・シャーリーと出会って何を感じたか。。

 

そして、もう一つ、運転手のトニー・リップは、イタリア系。
この年代のイタリア系の音楽と言えば、フランキー・ヴァリ&フォーシーズンズ。


映画『ジャージー・ボーイズ』予告編(ロングバージョン)【HD】 2014年9月27日公開

トニーがラジオのリズム&ブルーズを語る場面、頭の中で当時の時代の音楽について考えました。フォー・シーズンズブルース・スプリングスティーンビリー・ジョエルのような音楽がここから生まれていくように思って胸が熱くなりました。


もう一度プレイリスト貼っておきます。フォローしてみてください!

「CD売れない」記事に思う、サブスク時代の音楽の売り方

少し前にあったこの記事に驚いた。
CDが売れなくなってる事に、、ではなく「CD売れない」記事が今だに注目される事に、だ。

forbesjapan.com

アメリカの音楽シーンはサブスクリプション(定額制ストリーミング)が既に主流となっているので、ニューカマー・アーティスト、しかもダンスミュージック系のCD売り上げ数が低いのは驚く事ではない。

それよりもこの記事の大事な点は、デビュー2年の新人であるラッパーが、どこから現れ、どうやってヒットチャートの頂点まで上がって来たのか、だと思う。

 

 

売れるものには理由がある。そこには仕組みがある。

サブスク時代に才能ある新人が「ブレイク」「ヒット」を達成するには、しっかり機能した無料音源のシーンでスマッシュヒットを飛ばし、「有料」の入り口であるサブスクへ(特にSpotify)ステージを移し、Viralチャートで上位に食い込んだり、プレイリストに入る事で表舞台の音楽シーンにエントリーする。

そこで広く知られることにより、やっと本当の意味でのビジネスがスタート。音源商品(CDやダウンロード)、ライブ、グッズ、ファンクラブといった4つの商材を販売するビジネスが可能となる

ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務 答えはマネジメント現場にある!

ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務 答えはマネジメント現場にある!

 

 

 

 

 

ヒットの指標となっているサブスクリプション(定額制サービス)

SpotifyApple Musicに代表されるサブスクリプション(月額制サービス)を中心に回っている。その中でメインストリームであるHIP HOP系を支えるのは、ネット上にアップロードされたたフリー音源「ミックステープ(Mix-Tape)」の存在だ。このミックステープ・シーンでの評判からスターが次々と生まれている。

その名の通り、昔はDJミックスしたカセットテープだが、今では、クオリティもオリジナルアルバム並みに進化、商業目的ではないギリギリの線で色んなルールからも自由な創作を行い、登竜門として機能し、サブスクリプションの普及後は相乗効果を生み、チャンス・ザ・ラッパーのグラミー受賞などに代表されるビッグヒットや大ブレイクアーティストを多数生み出し、現在のヒップホップ系の隆盛を生み出している。


ドレイクやケンドリック・ラマー、チャンス・ザ・ラッパーのようなスーパースターは、このミックステープをきっかけに人気を得て、サブスクリプションでの記録的な再生数でその地位を確固としたものにしているのだ。

今の音楽シーンを理解するカギとなる「ミックステープ」について詳しく知りたい方は、以下の本で

ミックステープ文化論

ミックステープ文化論

 

  

無名からトップへ~整備された道
ミックステープ→批評サイト→デビュー→ヒット

この全米NO.1アルバムアーティスト、 Boogie Wit Da Hoodieもその一人である。

NYを中心に活動するラッパーである彼は2016年にオンライン上にミックス・テープ『Artist』をアップし、メディアやリスナーの評価を得た事で、その名を広め、アトランティックレーベルとメジャーディールを結んだ。

『Artist』はオフィシャルYouTubeにて聴くことが出来る。
普通に販売していておかしくないような内容だが、これを正規リリースするより、ミックステープシーンに無料でばらまく方が、キャリアアップに繋がる状況が出来ており、結果、彼もそのルートに乗って、メジャーディールを獲得している。

www.youtube.com

 

 結果、2017年にデビューアルバム『The Bigger Artist』とリード曲「Drowing」はネット・シーンでの盛り上がりの波に乗りヒット、チャート上位に登場し、更には今回の作品『Hoodie SZN』での全米1位へと順調にキャリアを進めた。

 

 


A Boogie Wit Da Hoodie - Drowning (WATER) [Official Music Video]

 

ミックステープや、YouTube動画にアップした音源がネット、スマホSNS世代の口コミやバズとなり、批評もしっかり機能し、クオリティの向上を支え、その盛り上がりが、そのままサブスクリプション(特にSpotify)のランキングに反映され、さらに広がる。

このエコシステム(生態系)が確立していることが、今のヒップホップの隆盛を支えている。

 

日本では?

このミックステープ(Mix-Tape)という文化は日本にはない。
日本でそれに近いものというと、インディーアーティストがYouTubeやSound Cloudにオリジナル音源をアップし、ライブ会場でCD-Rなどを手売りで販売するのに近い感覚だろう。
同人と呼ばれるシーンやかってのニコニコ動画などは、無名のミュージシャンが知られる仕組みが出来ているが、そこから上に上がっていき、「ヒット」や「ブレイク」を果すというよりは、趣味や、ビジネスから線を引いた自由な創作を重んじる傾向が強く、メジャーシーンとの連動がうまくいってないと思える。

「eggs」や「nana」といったサイトも近い役割かもしれないが、こういったネット上の音源は、まだまだアーティストが上に上がるチャンスを担っていない。もっといえば、サブスクの普及もまだまだ。

 

日本において、新しいアーティストが登場しブレイクする手段として成立している例


・フェス系バンド・・・

ライブハウス・シーンで頭角を現す→TwitterYouTubeを補助に使いインディ・リリース→フェス出演やメジャーデビューで広まる。

 

・地下アイドル系・・・

ライブハウス・イベント→口コミ、批評が盛ん→アイドル・フェス、メジャーデビュー

 

・同人系クリエイター・・・

同人系イベント→SoundcloudYouTubetwitter→アニソンの制作

 

上の3つのように、口コミが発生する場やシーンが出来ているジャンルは、新しい才能が育ち、知られる道筋が出来ているので、他に比べれば、新しいアーティストが浮上することは可能だ。しかし、それでも茨の道である。

オンライン上にシーンを生み出さない限り、サブスク時代のスピードにはついていけない。もはやCDプレイヤーが部屋に無い時代、PCすら持ってない人が増えている時代であることを考えるとどうにかならないかと悲観的になる。

もっと絶望的なのは、シーンや場、ツールが無く、高いクオリティが前提となっているシンガーソングライターやポップス系シンガー/ユニットだ。
昔ながらの事務所やレコード会社所属に頼るしか道はない状況はとても厳しい。

「日本ダメ」みたいに言ってるように聞こえるかもしれないが、日本にも優れたシステムがある。

ニコニコ動画は、世界の最先端を行っていたムーブメントだ。画期的なボーカロイドソフトと動画サイトが合体し、トラックメイカー、作曲家(ボカロP)、シンガー(歌い手)、絵師(イラスト)、動画師(映像編集)など、様々なクリエイターとユーザーのエネルギーが交わって爆発的な盛り上がった、世界の未来を予言したような革命的な最先端のカルチャーだった。

詳しくは「ヒットの崩壊」なども書かれている柴那典さんの名著で↓

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

 

  

トップアーティストが上がってきた道


さて、最後に、このミックステープで注目を集め、実際にトップに上り詰めたアーティストThe Weekndの軌跡を紹介したい。

昨年末、初の来日公演を行い、ワンアンドオンリーの「声」の力、陰のある曲調が結び付いた楽曲を少ないMCで歌い続けるライブスタイルでオーディエンスを魅了した。こんな素晴らしいアーティストが、ガンガン出てくる音楽シーンにしたいものです。

 

ちなみにゲストアクトは 米津玄師。2018年日本で一番売れたアーティストである彼は、ニコニコ動画ファーストブレイク→ユニークなバンドスタイルでポジションを築く→ソニーに移籍、ドラマ主題歌を手掛けるようなポップスを生み、遂にはお茶の間の頂点に存在するアーティストになった。


米津玄師 MV「Lemon」

 下から、草の根からトップへ上がるという意味で共通する道を歩んできたアーティストの共演という意味で興味深いライブでした。

 

The Weeknd

2015年全世界で大ヒットを飛ばし、トップアーティストの地位を固めた、シンガー&クリエイターThe Weekndことエイベル・テスファイは、1990年2月生まれ、エチオピア人系カナダ人。インターネット/ミックステープからメインストリームへと進出。

2010年末に、The Weeknd名義でYOUTUBEに3曲のデモ音源をアップ。同郷のドレイクの関係者がその存在をブログで取り上げたことで口コミが広がる。

2011年3月に最初のミックステープ『House Of Balloons』をフリーでリリース。一躍脚光を浴びる。ファンにより多数の非公式ミュージックビデオが作られるほどの人気と話題性を得、本作は累計で800万回のダウンロードを記録。

同年7月には地元トロントで初のライブ。各メディアの年間トップアルバムに選ばれる。

2012年リパブリック・レコードとメジャー契約。フリーで発表したミックステープ3作をまとめ、ボーナス・トラックを追加した3枚組アルバム『Trilogy』をリリース。全米ビルボード・チャートで4位に初登場、全世界で累計100万枚を超えるセールスを記録。

 

 2013年9月10日メジャーデビュー後初めて制作したアルバム『Kiss Land』で全米2位を記録。

2014年にアリアナ・グランデの「Love Me Harder」にフィーチャリング&作曲、2015年世界中で大ヒットした映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』に「Earned It」が起用されては一気にファン層を拡大した。


Ariana Grande, The Weeknd - Love Me Harder

 


Earned It (Fifty Shades Of Grey) (From The "Fifty Shades Of Grey" Soundtrack) (Explicit...


6月「Can’t Feel My Face」は全米No.1に。

ダークR&Bのテイストを残したまま、よりポップフィールドに適応させ国境を超える大ヒットアーティストへと登りつめた。


The Weeknd - Can't Feel My Face

 


The Weeknd - I Feel It Coming ft. Daft Punk

 

最後に、、
「無料」と「有料」を使いこなすのが今の音楽ビジネス

CDが売れない事が問題なのではなく、ネット/SNS時代に、いい音楽、いいアーティストがどんどん世に出ていかないことが問題。
意識を持ったアーティストやスタッフの方はサブスク時代をどう攻略すればいいのかについて関心を持たれていますが、この記事で書きましたアメリカの状況など参考にすると、無料音源をうまくネット上に展開する事が鍵だと思います。

EDMシーンのクリエイターを世に出したのも、若いアーティストが上がっていく手段となったBeatportのようなサイトだと思いますので。
ちなみにZeddもこのサイトのオーディション出身。。
詳しくは、また別の機会に。

www.beatport.com

 

この問題について一緒に考えたいという方は、ぜひ、ご連絡ください!

西野カナ活動休止から思う「メジャー」とは何か?

昨日発表され、大きな話題となった西野カナの「無期限活動休止」の発表。
10年間、毎年アルバムを出して、ツアーをして、そりゃ、そろそろ休ませてあげないと、と誰もが思うでしょう。

www.nishinokana.com



同じくソニー・グループの2010年代を支え続けてきたアーティストとして、いきものがかりがいる。2006年のデビューより、(おそらく)全てのシングルがタイアップ曲。2017年年初に活動休止(放牧)し、2018年末の紅白歌合戦で復帰、年初に配信シングルをリリースした。

この時期は、乃木坂46が大ブレイクを果し、それに続く欅坂46など「坂道」系と呼ばれる、アイドルグループが大きな売り上げ、利益を上げたことも無関係ではないだろう。

いきものがかりの休止については、グループなので、もしかして解散や分裂などの不安を思い浮かべたファンも多いだろう。しかし、ソロアーティストの西野カナの場合、あえて「無期限活動休止」と発表することについて、どんな意味があるのかと考えてしまう。

ikimonogakari.com

この「活動休止」という言葉には、ファンの心を揺さぶるドラマがある。カリスマ的なロックバンドやアイドルグループにおいては、永遠の別れ、ぐらいの衝撃がある。

今回の西野カナの場合、そうではない。
走り続けてきたアーティストが一度、休み、クリエイティブなインプットを得る機会を得て、その後に続く、長期の活動計画を考える期間でもあると思う。


大きな意味は、毎年行ってきたリリースやライブがない時期にファンを不安にさせないよう、安心してもらおうという心遣いもあるに違いない。

さらに、ビジネス的な理由もある。

 

「活動休止」にはビジネス的な観点からも理由がある。

レコード会社や事務所には、社員が沢山いて、「音源制作」「ライブ演奏」「宣伝・販売」大きく3つの現場で働いてる。そして、ヒット曲等の作品、人気のあるアーティストを生み出し、「音源」、「ライブ」、「グッズ」「ファンクラブ」(音楽ビジネス4つの商材)で売上、利益を上げなければいけない。
こちらは、拙著『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』で詳しく書いたので、興味ある方はぜひ。

 

ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務 答えはマネジメント現場にある!

ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務 答えはマネジメント現場にある!

 

 

大きなアーティストとなると、プロジェクトの規模が大きくなり、長期の計画が必要になる。音源を売っていくにも1年単位の準備をかけるし、大きなライブを行うには会場を押さえ、半年前からチケットを販売する。

アーティストも、関わるスタッフも感情を持った生身の人間であり、いろんなコンデイションの中で、全人格をかけて、心を揺さぶる音楽を生み出していく。

当然、行き当たりばったりで、活動しているわけではない。

1年単位でプランを立て、ファンに向けて何を届けていくか計画し、そして、給料や制作費計上しなければいけない。売り上げについては、もっとシビアだ。エンタメ・コンテンツの売り上げは、上下のブレが激しい。大ヒットする事もあれば、伸びない事もある。大コケすることだってある。

言うまでもない事だが、アーティストも、ヒットや人気に影響を受けながら、収入を得る仕事としている。そんな浮き沈みの激しい音楽ビジネスいおいて、西野カナや、いきものがかりは、人前に晒されるプレッシャーを受け続け、常にヒットを出し続け、タイアップの要求に答え続け、お客さんを楽しませることで、ソニーグループを支え続けたアーティストと言える。

 

沢山の人が支えるエンタメ業界

当然、CDショップや配信サイト、グッズやコンサート業者など、アーティストに関わる仕事で収益を上げている事業者も沢山いる。

つまり活動休止とは、この計画、事業プランの中で、そのアーテイストの事業をストップするという意味がある。1年ないし、2年の間、このアーティストからの収益は無い。

その間、中心スタッフは、次の活動に向けての準備を行い、それ以外のスタッフは他のアーティストの仕事を行う。または、旧譜の販売促進やベストアルバムなどの企画を進めて売り上げを立てる。

活動休止宣言は、この業界の人々へのアナウンスであり、礼儀でもあるのかもしれない。


サザンオールスターズの活動休止

2008年にサザンオールスターズが活動休止を発表し、解散ではないかと話題になったことがある。

所属事務所のアミューズの株価は下がり、多くの人が働き、給料を得ている大所帯の会社に少なからず影響を与えただろう。桑田さんの病気療養も大きな理由だったのだろうと思う。

2013年にサザンは活動を再開するが、その後、サザンオールスターズのリリースと桑田さんはソロリリースは毎年行われ、確実なヒットとセールスを達成している。このリリースがあるかないかによって、年度の収支に多大な影響がある。

サザンや桑田さんが働かされている、こき使われている等というレベルの低い話ではない。ビッグアーティストは、彼らの作る音楽を心の支えにしているファンの気持ちに答え続けると同時に、音楽を届けていくために必要な大規模なスタッフの生活を支えるためには毎年リリースし続けていく事を受け入れている。

その責任を知っているのだ。

 

 

余談

桑田さんで思い出すことがもう一つ。
桑田佳祐の音楽寅さん」という番組があった。
桑田さんが番組内でゲストと一緒に企画、歌唱をする番組だったが、そのタイトルに「寅さん」とあることについて考えさせられた。

「寅さん」とは、故渥美清さん演じる、映画『男はつらいよ』の主人公、フーテンの寅さん、テキ屋・の寅さんのこと。

 渥美清さんは、この「寅さん」という役に後年全てを捧げ、イメージを崩さないためにそれ以外の露出を行わなかったらしい。 そして、映画会社松竹の売り上げのかなりの部分を占め、日本国中に愛された役を48作演じ続けた。亡くなられた時に、「死ぬときぐらいは寅さんをやめさせてほしい」と言い、葬儀は近い家族のみで行われたそうだ。

おかしな男 渥美清 (ちくま文庫)

おかしな男 渥美清 (ちくま文庫)

 

渥美清さん自身は、テキ屋というよりスマートなモダンコメディアンとしての役者・芸人を目指していたそうだ。「寅さん」が、渥美さんの素であると思っている人が多いが、それは、彼の徹底した役作り、イメージ作りの結果のようだ。

楽家である桑田さんは、役者である渥美さんとはジャンルが違う(音楽は演じきれない)ので、一緒には出来ないが、何か重なるところがあるのだろう。

 

ぼくのりりっくのぼうよみの引退

bokuriri.com

こちらも話題になりましたが、音楽をやめるとは一言も言ってないので、メジャーなシステムから離れて、コンスタントなリリーススケジュールから自由になるという意味なのかなと感じました。スケジュールや大きな組織の動きに縛られず、クリエイティブ重視で、ネットの自由さの中でに活動したいという意志を彼なりのユニークな発信と、メジャーシステムを否定するような言動せず(誰も傷つけず)、発信したいという彼なりのやり方なのかなと思いました。

 

一昔前なら、メジャーシステムから離れる=音楽生命の終了、すなわち「引退」でしたが、今の時代、充分活動を続けていく事は出来ます。

ただ、メジャーヒット、お茶の間スターを目指すという点では「引退」なのかもしれません。

 

メジャーとは何か?

よく「メジャーとインディの違いは?」と聞かれることがある。
海外においては、3大メジャー(ユニバーサル、ソニー、ワーナーのこと)、日本ではレコード協会に加盟している会社のこと、と定型で答えるが、もっと掘り下げると、コンテンツを世の中に安定供給できるシステムに沿って活動するための所属というようにも答えている。

日本で言えば、毎年、年度ごとに採算や収益を計算し、アルバムリリースやツアーを行う事だろう。

ワールドクラスになれば、アルバムリリースと全世界ツアーが時間がかかるので3年周期ぐらいか。

 

ネットの進化によって、アーティストがユーザーに直接、作品や情報を届けられるようになったが、規模が大きくなる中でコンスタントな発信を続けビジネスを成立するとなると、やはり、多くの人の力が必要になる。

毎年コンスタントにリリースとなると、当然クリエイティブに影響を与える事になる。いつもいつも斬新な発想や、特別な作品を作り続けるのにも限界がある。

しかし、メジャーとは、それをやり遂げなければいけない。
でないと事業として成立しない。

この仕組みが、時によって「クリエイティヴィティ」を抑圧する。
そのアンチテーゼとしてインディだったり、作品主義的なスタンスの活動がある。
メジャーの中にも、この「システム」と「クリエイティヴィティ」を両立する会社やプロジェクト、アーティストがいる。

そんな離れ業を行うアーティストは当然尊敬される。
そんな時代のシンボルが、渥美清さんであり、桑田佳祐さんなのかもしれない。

 

 

この不可解な文化、「活動休止」、さらに言えば、「解散」「引退」「卒業」、、に何か理解の糸口になるヒントを得てもらえましたか?

毎年コンスタントにリリースし、しっかりヒットさせ、ツアーを行って、ファンの人生に寄り添うアーティスト、クリエイティブを優先し別の形の挑戦をするアーティスト、どちらも大変な事だと思います。

『クリード 炎の宿敵』とルドウィグ・ゴランソン(映画×音楽レビュー)

音楽ビジネスBlogも殆ど、映画趣味Blogと化してきましたが。。。

今回は1月11日公開のこの映画と、音楽を手掛ける注目の音楽家ルドウィグ・ゴランソンについて。

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wwws.warnerbros.co.jp


ボクシング映画の金字塔、ロッキー・シリーズ最新作でありながら、黒人映画の名作『クリード チャンプを継ぐ男』の続編でもあります。



まずは、その前作がこちら↓

クリード チャンプを継ぐ男

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映画『クリード チャンプを継ぐ男』特別映像(Generations)【HD】2015年12月23日公開



あの有名なロッキーのライバルであり親友の黒人チャンピオン、アポロ・クリードに隠し子がいて、ロッキーに弟子入りするという映画。名作です。絶対見てほしい!

監督はライアン・クーグラー、この『クリード チャンプを継ぐ男』をヒットさせ、次の作品でマーベルの『ブラックパンサー』を超大ヒット、ブラックムービーとメガヒット・ブロックバスターを両立させ、興行成績歴代3位(これより上は『スターウォーズ フォースの覚醒』と『アバター』)と時代の寵児となった。

↑の動画に当時27才のクーグラーが、スタローンに、黒人を主役にしたロッキー続編の提案をしたエピソードあります。主役にクーグラーの分身であるマイケル・B・ジョーダン、そしてロッキー自らがコーチ役に。ファンタジーとリアルを絶妙にかぶせ、エモーショナルな作品になっています。

この映画、いくつか名場面があります。親父のYoutube動画をプロジェクターで映し出してシャドーボクシングするシーン。癌になったロッキーを介護しながら病院でトレーニング。ストリートバイカーのような集団と一緒に街を走るロードワーク~バイクがぐるぐる走り回る中シャドーボクシングをしてロッキーを励ますシーン。などなど。。



 

 

ブラックパンサー

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主要キャスト全て黒人、監督も黒人という画期的なヒーローSF映画ブラックパンサー』。この映画の監督であるライアン・クーグラー、そして、強敵キルモンガー役として存在感を発揮したマイケル・B・ジョーダンが、今回紹介する『クリード』の主役アドニスクリードを演じている。

 
ブラックパンサー』は、ケンドリック・ラマーのプロデュースにより、現在のヒップホップやR&B中心のメインストリームアーティストが集結したソングアルバムも発表され、大ヒットを記録している。

 この『ブラックパンサー』、テクノロジー描写による近未来とアフリカの民族的な伝統をミックスさせ、アフリカ系美男美女俳優がズラリ登場して、見た事のない世界観を生み出しています。オスカーにもノミネートされるのではという噂で、時代を象徴する作品であり、新しい映像体験を生んだ作品としてチェックしておきたいところです。そして、音楽がその世界観に大きく貢献したとして、高い評価を得るでしょう。


つまり『クリード』とは、名高いロッキーシリーズの進化形であり、現代アメリカカルチャーの潮流の中心にある映画やヒップホップなどブラック・カルチャーでもあるという、2大潮流が合流するという状況から生まれたエンタメ作品が『クリード 炎の宿敵』なのだ。



さて、ここからは音楽の話。。これらの作品を音楽面で支えているのが、この人

クーグラー、チャイルディッシュ・ガンビーノの音楽を手掛けるスウェーデン作曲家ルドウィグ・ゴランソン

www.soundtoys.com


前作『クリード チャンプを継ぐ男』と『ブラックパンサー』を紹介したのは、理由がある。このブログ記事において、中心となる音楽家、ルドヴィグ・ゴランソンは、クーグラーやジョーダンとチームを組んで、この『クリード 炎の宿敵』でも音楽で作品を盛り上げている。
彼は、南カリフォルニア大学でクーグラーと出会い、『フルートベール駅にて』『クリード チャンプを継ぐ男』『ブラックパンサー』というクーグラー3作で音楽を手掛けた。
特に、『ブラックパンサー』での、アフリカ音楽を取り入れたスコアは、アフリカの架空の国、実は世界最先端のテクノロジーを持つという、ワガンダの世界観を音楽で実現した。クーグラー、ジョーダンと共に成功の階段を登った音楽家だ。

theriver.jp


そして、ゴランソンを語るのに欠かせないのが、チャイルディッシュ・ガンビーノ(ドナルド・グローヴァー)だ。
2018年、アメリカの人種問題や貧困、暴力など社会問題を描き「This is America」(これがアメリカ)ろ歌い、衝撃を与えた曲とビデオ。


Childish Gambino - This Is America (Official Music Video)


俳優、脚本家、コメディアンであるドナルド・グローヴァーの音楽活動の際のプロジェクト名が「チャイルディッシュ・ガンビーノ」だ。
2016年に発表された『Awaken, My Love!』が大ヒットを記録。最優秀トラディショナルR&B賞を受賞した「Redbone」はじめ、5部門にノミネートされ、トップアーティストの地位を確立した。日本でもCMに使われたりと耳にした人は多いだろう。
ルドヴィグ・ゴランソンは、このガンビーノの最初のミックス・テープ2010年発表の『Culdsec』から、プロデューサー、共作者として、音楽的な中心を担っている。

 


open.spotify.com

ファンカデリックなど70年代のブラックパワー音楽の影響を受けたトラックを基調としたチャイルディッシュ・ガンビーノの音楽的パートナーと言える。

 

「This is America」で、アメリカで最も注目されるアーティストの一人となったチャイディッシュ・ガンビーノ、そしてアメリカで最も注目された映画『ブラックパンサー』、この2つの分野のブラック・カルチャーにおいて音楽を担ったのが、ルドヴィグ・ゴランソンなのだ。


 

クリード 炎の宿敵』


映画『クリード 炎の宿敵』本予告【HD】2019年1月11日(金)公開

 


映画『クリード 炎の宿敵』特別映像【誰が為に戦う編】2019年1月11日(金)公開


前作『クリード チャンプを継ぐ男』で、一度終わったロッキーシリーズの代替わりを果し、さらに『ブラックパンサー』の空前のヒットで、アメリカでは大ヒット間違いなしの上でのスタート。シリーズ最高のスタートを記録しているそうだ。
ちなみに、監督はクーグラーではなく、スティーブン・ケイプル・Jrという新鋭。今回製作に名を連ねるクーグラーの推薦。プロフェッショナルなスタッフ陣のもと、クオリティには全く問題ない。ブラックシネマ色は少し薄れたかもしれないので、クーグラー作品から期待する人はご注意。ライアン・クーグラーが前作でロッキーの魂を現代にリニューアルした型をしっかりエンタメに昇華した娯楽作として、確実に興奮させられ、泣かされる映画になっている。
過去のロッキーシリーズとの違いとして大きいのはヒップホップの要素。音楽的にもカルチャー的にも。前作より薄れたとはいえ、このシリーズとラップやR&Bとの相性はとてもよい。

あと、個人的には『男はつらいよ』の寅さんと甥の満男を思い出しました。
帽子とジャケットがトレードマークのロッキー。グズグズしたアドニスの成長物語。先の読める定番の展開、ここぞという場面で登場するテーマ曲。ちょっぴり意外な展開をスパイスに、なぜか感動してしまう安心の定番作品。。

1月11日から公開なので、是非、劇場で観てください。
 

 Spotifyプレイリスト

今回も記事にちなんだプレイリストを作成しました。
クリード 炎の宿敵』と『ルドウィグ・ゴランソン』の2つです。
この記事で紹介した曲がまとまっておりますので、楽しく聴いて頂けたら嬉しく思います。
70年代ファンクベースのヒップホップ、映画のサントラ・スコア(劇伴)、EDMから、ポップロック、アフリカン・ルーツ音楽と何でも探求するゴランソン。
世界の音楽シーンでヒットを次々に生み出すスウェーデン人音楽家の最先端ですね。
この2つのプレイリストで現状の彼の仕事がある程度まとまってると思います♪

クリード 炎の宿敵』

 
『ルドウィグ・ゴランソン』

 

映画『アリー/スター誕生』の真の魅力(ネタバレ)

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『アリー/スター誕生』について、音楽については以前書きましたが、映画についても書きます。あまりこの映画にピンと来ない人もいるようですが、何が面白いのか、考えてみました。

wakita.hateblo.jp

 

何がそんなに素晴らしいのか。

・音楽がいい!映像がいい!ドラマがいい!
・上の全てが一体となっている。
・女性映画

といったところだと思います。

一番の見どころはレディー・ガガの歌唱であるところは間違いないと思いますが、だったら、普通にライブ映像を見ればいいという事になるので、やっぱりドラマパートや演技、ストーリーが素晴らしくなくてはいけない。
そこが初監督のブラッドリー・クーパーが、見事に丁寧に作り上げている事が驚きで、さらに役者の彼が歌までバッチリこなしているところでさらにビックリです。



アーティスト主演の音楽映画として稀な成功例
この映画の本当に凄いところは、このドラマパートと音楽が見事にハマっているところです。
各曲の歌詞が、ストーリーの展開としっかり結びついているのはミュージカル的ですが、ミュージカルはここまで繊細なドラマ部分は描けない。
テンポよく、ストーリを展開させないといけない。
その点『グレイテスト・ショーマン』も『ボヘミアン・ラプソディ』も伝記ものミュージカルとして大成功しているのは、多少の人間描写は大ざっぱにしてでも、音楽のノリを失わずテンポ重視で進む。

しかし、『アリー/スター誕生』はこの人間描写を、じっくり、丁寧に描く。クリント・イーストウッド映画のように。。
クリント・イーストウッドの映画は監督自身が作曲してたり、音楽には毎回相当こだわっていて素晴らしいですが、インストとかジャズ。イーストウッド作品のポップスものと言えば、フランキー・ヴァリ&フォーシーズンズの伝記ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』があるが、これも役者が演じているミュージカル。
『アリー/スター誕生』は、主演二人が自分のパーソナルを重ねて監督し、演じ、作曲し、歌っている点で、それを上回るインパクトを生み出すことに成功している。

アーティストの映画挑戦は、演技が下手だったり(ホイットニー?マライア?)、パブリックイメージと役のイメージに違和感があったり(マドンナ?)、破綻する要素が山ほどある。
役者は他人を演じるのが仕事ですが、アーティストは本人が商品で、心の奥をさらけ出すのが仕事ですから仕方ないとも言える。

アーティストを別の人物として見るのは有名アーティストであればあるほど難しい。
音楽ものの映画で、これだけ、ドラマと音楽に説得力を持たせた映画は今まで無かったのかもしれない。それこそ、一作前の『スター誕生』のバーブラ・ストライサンド以来か?


男に媚びないアリー中心のフェミニズム映画
すっぴんで飾り気のない、誰にも媚びない主人公アリー(ガガ)が、スター歌手のジャクソン・メイン(ブラッドリー・クーパー)と出会い、スターになるシンデレラ・ストーリーですが、出会いから、アリーは、このイケメン・大スターに、一切色目を使わない、媚びない。ジャクソンも紳士的。スターなのに偉ぶらない。女性にもゲイにも優しい。ドラァグ・バーに素で溶け込み、スーパーで買い物し、駐車場で語る。
この時点で、ジャクソンがいかに女性にとって理想的な男か。

そして出会い。有名無名、大スターとウェイトレスが、男女、セクシャリティを超えたところで、出会い、歌を通して心を近づけ、心の深いところに触れ合う。。

この、序盤の丁寧な描写から、遂にアリーが、一歩踏み出したところで、この映画屈指の名場面、「Sharow」のシーンに繋がるわけです。ウェイトレスから、大観衆から喝さいを浴びるシンガーへ。夢のような展開。。
そんな最高にロマンティックで、理想の恋+最高の音楽が展開される前半のピークが以下の曲「Always Remember Us This Way」です。


Lady Gaga - Always Remember Us This Way (From A Star Is Born Soundtrack)


ですが、後半、ショービジネスのうねりの中に二人は叩き込まれるわけです。。
アリーをもっと売りたいという、敏腕マネージャーが登場し、ジャクソンの手を離れて、アリーが更にスターへと飛躍していくわけです。ここから、生き馬の目を抜くと言われるショービジネスの荒波に巻き込まれ繊細で弱い男ジャクソンがどんどん堕ちていく。これを延々と見せられるのは男性にとってはつらく。脱落していく人は多いかもしれない。ジャクソンには、『グレイテスト・ショーマン』のような大逆転は無いので感情移入した人はスカッとすることはない。

逆に、アリーに感情移入すると、仕事で挑戦し続け、バシバシ結果を出し、プライベートでは、ダメになるジャクソンをひたすら一途に愛し続けるアリー。ジャクソンへの愛ゆえに悩み苦しむ後半があり、その絶望から自分の足で立ち上がる。この、自分にとっての最高の男が無残に堕ちていく、それでも愛し抜くアリー、、共感する女性は多いのでは?
この明暗が分かれる後半は完全に女性映画です。

前半は男性にとっても気分がいい。無名の女性の才能を見出し、最高の舞台で愛を表現する。しかし、後半は正しい事をしようと思って苦闘しても全てが上手くいかず、誰にも理解されない。薬物とアルコール依存。自分の意見と逆に進み成功し続けるパートナー。これは辛い。。
クライマックス、悲しい事件、強く愛し合いながらも、終わりしか残されない男の最後。そして、そこから力強く自分の足で立ち、全てを歌に込める女。
常に優しくアリーの見方であり続けようとするあまり沈むジャクソン、そんなジャクソンから目を逸らさず愛し続けるアリー。。前半の丁寧な描写があればこそ、この後半が
辛い。。
美しい幸せな愛の前半と、悲劇しかない後半


リアルな音楽ビジネス描写
音楽ビジネスに身を置く私のようなものには、アリーのパフォーマンスやヘアメイク、衣装など路線について疑問を持つジャクソンの意見と真逆に成功街道を突き進むアリーという、シビアな描写にリアリティ感じました。『アリー/スター誕生』は音楽ビジネスの描写もリアルです。そこでのクーパーとガガの本気が伝わり熱くなります。
ダンス・ポップ路線の曲に乗せて、歌い踊るアリーに対して、ジャクソンは、余計なもの等必要ない、本物の歌を歌えばいいんだというような意見ですが、アリーはマネージャーに従い、髪色を変え、メイクし、ダンスし、ポップスターへと変貌します。そして、成功の階段を上り続けます。このあたりは、前半のスターが前日出会った素人をステージに上げるより数倍リアリティを感じます。
このポップスター描写を陳腐なものにし、ジャクソンと奏でる「生」の音楽を本物、打ち込みのポップを「嘘」の音楽として描くことは簡単です。音楽を題材にした映画にありがちな売れ線ポップを軽いもの、間違ったものというステレオタイプな描写。この映画は、特にガガがそんなことは許さない。このポップスター描写も、普通にカッコいい。どの曲もハンパないクオリティ。そんな生半可な甘い世界ではない事をきっちり描きます。
ジャクソンを決定的に追い詰めたマネージャーの言葉も、まさにショービジネスの世界の厳しさを凝縮したようなセリフだ。このマネージャーを悪者にしてしまうと、安易なステレオタイプ「搾取する音楽ビジネス」描写となる。そこへ行かず、それを超えたところで「スター」として生きるアリーを描いているところが、ガガが本気で取り組んだことが伝わる重要なポイントと言える。


レディ・ガガ、存在の意味
アメリカの女性エンタテイナーの頂点であるバーブラ・ストライサンドの代表作の一つでもある『スター誕生』をリメイクしたわけですが、当初の主演候補はビヨンセ。監督はクリント・イーストウッドだったそうで、顔合わせまで済んでいたがビヨンセの出産で実現しなかったそう。結果的にガガとクーパーのコンビで大成功し、これはガガ以外考えられないハマり役になった。この成功によって、ガガは「現代最高の歌姫」(映画のキャッチコピーより)となったわけだが、この「現代最高の歌姫」的なアーティストを挙げると、

ブリトニー・スピアーズ
ビヨンセ
テイラー・スウィフト
ケイティ・ペリー
アデル
アリアナ・グランデ
あたりか。

90年代~2000年代は ホイットニー・ヒューストンマライア・キャリーセリーヌ・ディオンら歌姫

80年代~90年代さらに2000年代に至るまで マドンナは君臨し続けている

凄いパフォーマンスとメッセージ性、アートな表現で、2010年代を代表する女性アーティストかと思われたレディー・ガガが、つまずき、キワモノっぽいイメージで見られるようになったのは、「Born This Way」がマドンナの「Express Yourself」のパクリと呼ばれたあたりからだろう。セクシャリティへのアプローチやアート性など、マドンナと共通する部分が多く、正当な後継者と思われたガガが失脚したのが、このパクリ問題だと思う。

バーブラ→マドンナ→ガガというのは、ニューヨークのアーティストで、ウーマンリブジェンダーセクシャルマイノリティへのシンパシーなど共通するリベラルな女性アーティストのポジションの印象が強いので、ガガが「マドンナ・ダメージ」から脱出し、トップ・アーティストに返り咲くターニングポイントがバーブラの『スター誕生』のリメイクとは面白いなと思う。ちなみにバーブラアカデミー賞グラミー賞トニー賞という権威ある3つの賞すべてを受賞している。






Spotifyのプレイリストのフォロワーが50を超えました!ありがとうございます!

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Zepp DiverCity、キネマ最響上映『ジミ・ヘンドリックス』

Zepp Divercity Tokyoで行われた、一夜限りのライブハウス上映、伝説のギタリスト、ジミ・ヘンドリックスドキュメンタリー映画ジミ・ヘンドリックス』を観てきました。

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http://www.110107.com/s/oto/diary/movie/list?ima=5951

家庭では、絶対に味わえない、ZeppのライヴPAシステムをフルに駆使し、Zeppのライヴ空間をフル活用。

 

 

とのことで、定期的に行われている企画。

今回は名作アルバム『Electric Ladyland』の発売50周年を記念して、東京、大阪一夜限りのスペシャル上映だそうです。


先日ブログに書いた『アリー/スター誕生』、『ボヘミアン・ラプソディ』と、Dolby Atmos上映が続きましたが、映画館の立体音響において音楽がどのように聞こえるか、非常に興味深い体験でした。


今回は、ライブ・ドキュメンタリーを本物のライブ設備で上映という、こちらも非常に興味をそそられ、お台場まで駆けつけました。

ジミ・ヘンドリックスについては、一通りの作品は聴いてますが、深い理解があるわけでもなく、この期に大音量で、ジミ・ヘンドリックスの凄さを体験して、理解したいなという思いもありました。

 

さて、その、最響上映、、、すごかった。。。

音デカイ、

かたまりのような音圧、あれはまさにライブの音ですね。

鼓膜を直撃するドラム、深く分厚いベースにやられました。

そこに乗って叫びまくるジミヘンのギター。

ビビりました。

 

これは、映画とは違う音の作り。

映画はレンジが広く、爆発音から繊細なささやきまで隅々に、きれいな音を目指す音。ライブは、前に音の塊とうねりをぶつける。

設備の違いもあるが、ミックスであり、PAの違いだと思う。

このZeppのイベントは、ただライブハウスで映画を流すだけではなく、

音響が肝になっており、当然、ライブPAがいて迫力のある音を作る。

ライブ同様、客が入って音の鳴りが変われば調整もするだろう。

お客の想いや、会場の空気で違ってくる生き物のようなライブを作ろうとしていると思う。

Dolby Atmos上映や、爆音上映と呼ばれるものとは近いが違う、常にライブを行っているハコが「音楽」や「ロック」で新しいエンタテイメントを目指して上映しているところが、このイベントの意義なんだと思う。

 

この日の上映は、そんな思いを持った主催者、Zepp、そこに集まった人たちのケミストリーによって、ジミ・ヘンドリックスを体感できた(ように思えた)イベントでした。

 

ちょっとジャンルが離れすぎますが、日本のアーティストGReeeeNを御存じですか?

メンバーが歯科医で、ツアーが行えないので、モーションキャプチャー映像を使ったショーを毎年行い、非常に盛り上がっています。

私も何度か参加しましたが、ライブを感じさせる、ライブを考えさせられる表現となっております。

greeeen.co.jp

 

そのGReeeeNを観て思ったのも、音の重要さです。
映像や演出もですが、音で何を伝えるかを追求していたと思います。

私が渋谷のクラブ/ライブハウスで仕事していた時期に感じた事ですが、ダンスミュージック系の打ち込み音、DJがプレイする音源、生楽器や生声によるバンド演奏、どれも違いますよね。
ダンスミュージック系で、DJ活動を行うアーティストが「ライブセット」を行いますが、その機会にしか出せない音を出し、空間を作り上げるという意味で「ライブ」なんだろうと思います。(それだけではありませんが)

 

「ライブ」については、考え方人それぞれですが、私は、いろんなスタイルを「ライブ」として楽しんじゃうタイプです。

 

なので、このZeppでの最響上映、とても合点がいきました。

 

ちなみに、『アリー/スター誕生』のAtmos上映の空間と演奏場面の音響の迫力(かたまり感)は衝撃的でした。


話題の『ボヘミアン・ラプソディ』のAtmos上映では、ライブ・エイドのシーンは、スタジアム空間を残響で作っており、ライブ演奏感よりそちらを重視したような印象でした。

 

 

さて、ジミ・ヘンドリックスについて

恥ずかしながら今回の上映で大変勉強になりました。

 


Jimi Hendrix - Trailer


1970年に亡くなった彼をトリビュート下1973年の映画ですが、彼の音楽と人がいかに愛されていたのか伺えます。

エリック・クラプトンミック・ジャガー、リトル・リチャードなどのアーティストから、家族、恋人など彼の身近にいた人々、これらがコメント出演します。このコメント映像のトーンが明るく、ほほえましい。悲壮感がない。

この上映は『Electric Ladyland』50周年を記念デラックス盤発売に合わせて実施されたものです。

主催者は、数あるジミ・ヘンドリックスの映像がある中で、なぜ、このドキュメンタリー映画が選んだのか。

私が勝手にそう思ってるだけかもしれませんが、この明るい空気のコメントに挟んで、ライブ演奏をライブ大音響で体感するのが、伝説や神格化されてない、生身の、ライブな”ジミ”が感じられるとおもったのではないでしょうか。
逆に言えば、後の時代に作られた作品には、このリラックスした感じではない要素がはいってしまうのではないか、と。

私も、今回の上映を機に、フレッシュな耳でジミ・ヘンドリックスが遺した曲や演奏を楽しんでいきたいと思います。

 

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【アカデミー賞有力候補】レディー・ガガ『アリー/スター誕生』音楽レビュー。(Dolby Atmosで観た)

アメリカでヒット中、注目のレディー・ガガ初主演映画『アリー/スター誕生』をDolby Atmos試写で観たのでレビューします。

映画、そしてサントラも大ヒット。
なぜ、これほどヒットしているのか?
音楽面から探ってみました。

 

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バーブラ・ストライサンドで有名な「スター誕生」のリメイク。
さらに俳優のブラッドリー・クーパーが監督、主演、歌手役で実際歌も歌う、と話題満載。映画祭の先行公開でも大絶賛を受け、アカデミー賞候補と呼び声が上がっている。

先行リード曲「Shallow」も大ヒットし、新たなイメージを纏ったレディー・ガガが世界中の注目を集めていきそうだ。

 


映画『アリー/ スター誕生』日本版予告【HD】12月21日(金)公開

 

wwws.warnerbros.co.jp

 

さて、この作品の秘密を紐解くべく、音楽について注目してみた。
楽曲は発売済み。ストーリーじゃないからネタバレ気にせずレビュー。


『アリー/スター誕生』の音楽 

 



↑映画内での歌唱をレコーディングした楽曲が収められたサントラ

 

レディー・ガガのエキセントリックなイメージを覆すような、生バンドの歌唱、そして「愛」のストーリーと結びついた各曲のテーマ。シンガーとしてのガガの実力と彼女のメッセージの本質を伝える。


ルーカス・ネルソンによるアメリカーナ・サウンドに乗せてブラッドリー・クーパーが歌う


『アリー/スター誕生』の音楽について、一つ目に考えたいのは、ブラッドリー・クーパー演じるスター・アーティスト”ジャクソン”が演奏する音楽。
いわゆるアメリカーナと呼ばれる、カントリーやフォーク、ブルーズといったジャンル。

ガガのイメージからすると、エレクトロや80'Sですが、その要素はない。
70年代版の『スター誕生』のロックなイメージを踏まえているような、アーシーな雰囲気だけど、どこか90年代的でもある。

このプロダクションの中心になっているのが、ルーカス・ネルソン。有名なカントリーシンガー、ウィリー・ネルソンの息子。劇中のクーパーのバンドは、このウィリー・ネルソンのバンド。つまり、この作品のアメリカーナ・サウンドの中心は彼と言っていいようだ。



Lukas Nelson & Promise of the Real - Find Yourself (Music Video)

 

このジャクソン(クーパー)が奏でる音は、フォークやカントリー・ロック。しかし、保守的なカントリーやアメリカン・ロックではない。
そこに、オルタナティブな姿勢やサウンドが聴き取れる。ボブ・ディランザ・バンド、ニールヤングなどのイメージが近い。

音楽フェスでパフォーマンスを観たクーパーが、ルーカス・ネルソンにオファーしたそうだ。ニール・ヤングの大ファンらしいクーパー。ニール・ヤングのバックを務めた事もあるネルソンを知っていたのか、クーパーの考えるアメリカンなルーツ・ロックとグランジ/オルタナティヴなテイストに魅かれたのか?
このネルソンとの出会いから、オルタナティブ/グランジのテイストが入ったアメリカーナこそ、クーパーの考える、この映画を支える音楽の柱となったようだ。

 

マーク・ロンソンとクーパー/ネルソンのアメリカーナサウンドが合わさった、渾身の一曲「Shallow」

 

この映画のストーリー上でも重要な役割を果たす、先行シングル曲であり映画のテーマソング「Shallow」。浅瀬(Sharrow)から深い水の底、つまり、お互いを心の深く知り合う関係、人間として結びつこうとする事を歌っている。

このアメリカーナとオルタナティブロック/グランジサウンドに乗せて、メインのメロディはまさにレディー・ガガ節の炸裂。

 


Lady Gaga, Bradley Cooper - Shallow (A Star Is Born)

 

作曲については、レディ・ガガの前作アルバム『Joanne』をプロデュースしたマーク・ロンソンのチームとガガの共作。
演奏は前述のルーカス・ネルソンのバンドが行っている。
このネルソンのバンドと、ガガ、そして世界トップ級のプロデューサーであるマーク・ロンソンとヒット・ソングライターたちによるポップ・チームが合流して完成した1曲。

 


Lady Gaga - Million Reasons


2016年にリリースされたガガの本名をタイトルとした『Joanne』。
”素”のガガを目指したであろう作品。この『Joanne』で目指した方向性が、クーパー/ネルソンと、この映画の企画と出会うことで、より完成した印象がある。

↓マーク・ロンソンと言えばこの曲


Mark Ronson - Uptown Funk ft. Bruno Mars

 そして、この人


Amy Winehouse - Back To Black


 正統実力派シンガーとしてのレディーガガの誕生

 

「Is That Airight?」「Look What I Found」「Always Remember Us This Way」や、感動的なエンディング曲「I'll Never Love Again」は、素顔のレディ・ガガであり、アメリカン・ミュージックの伝統を継承するスタンダードなシンガー・ソングライターとしてのガガである。

 


Lady Gaga, Bradley Cooper - I'll Never Love Again (A Star Is Born)

 

「スター誕生」のリメイクは、76年版で主役を務めたバーブラ・ストライサンドと比較される。彼女はアカデミー賞グラミー賞トニー賞を受賞したアメリカ史上偉大なエンタテイナー。歌、演技、プロデュース、女性としての主張、、。アメリカでのマドンナ以前の女性アーティストのトップはこの人だったのだろう。
これらの曲たちでのパフォーマンスは、ミュージシャンとして、偉大なバーブラと比較される土俵に乗り、見事に本物であることを証明している。
これらの生音のポップス曲は、レディー・ガガが正統派のシンガー、プロデュースの力量を証明したと言える。

↓76年版『スター誕生』のメインテーマ。その名も「Evergreen」


Barbra Streisand - Evergreen (Love Theme from "A Star Is Born")

 

作品後半のストーリーと密接なポップソングは、ガガ・チームが担当した”もう一人のガガ”

 

後半の楽曲は、打ち込みサウンドを中心としたガガ・テイストのポップチューンが並ぶ。そして、一聴するとガガ的に思えるエレクトロ/R&Bテイストなダンスポップ曲も、映画の中の”アリー”を表現したのか、今までのガガと違った繊細さや情緒がある。これらの楽曲はガガであり、もう一人の人格”アリー”として完成されたのだろう。

「Heal Me」「Why Did You Do That?」「Hair Body Face」「Before I Cry」といったポップ・チューンはポップスター感がある。もちろんガガはポップスターの中のポップスターだが、彼女のヒット曲は、エキセントリックさや激しいエモーショナルさが前に出ており、今回のポップ曲は、よりメインストリームなポップスだと感じられる。映画音楽故に、音圧を抑えたダイナミックレンジの広いサウンドになっているのも関係あるかもしれない。

これらのガガが一人で歌う曲には要所に、ヒット作家を起用し共作を行っている。
映画の中でも印象深い曲たちだ。

 

★Always Remember Us This Way

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2016年のグラミー賞ベスト・カントリー曲を受賞したLittle Big Town「Girl Crush」等を提供するカントリーソングのヒットメイカーたちとガガが共作している。
Natalie Hemby ・・・Miranda Lambertなどに提供
Hillary Lindsey・・・Carrie Underwoodに提供した"Jesus, Take the Wheel"でもグラミー受賞している
Lori McKenna・・・  Tim McGrawに"Humble and Kind"を提供

↓2015年を代表するカントリー・ソング


Little Big Town - Girl Crush

 

 

★Heal Me

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2017年には自身の活動でデビューし注目を集めた女性アーティストJulia Michaelsと、作曲パートナーJustin Tranterとガガチームとの共作。
2015年大ヒットしたJustin Bieber『Purpose』に収録されている「Sorry」他、Selena GomezやHailee Steinfeldなどのポップスターの楽曲で、大ヒットを多数手がけた売れっ子となったチーム。
Justin Tranterは、作家として成功する前に自身のユニットでガガのツアーのオープニングを務めているので、何かきっかけやご縁があったのかもしれない。

 


Justin Bieber - Sorry (PURPOSE : The Movement)


Julia Michaels - Issues


★Why Did You Do That?"

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「Til It Happens to You」で共作した、80年代以降のアメリカを代表するDiane Warrenとの共作。この「Til It Happens to You」は、レイプ被害を扱った映画『ハンティング・グラウンド』の主題歌としてアカデミー賞にノミネート。授賞式で、レイプ被害者男女50名と共演、自らもレイプ被害を受けたことをカミングアウトし話題となった。

Diane Warrenは、Starship「Nothing's gonna stop us now」や、Aerosmith「I Don't Want to Miss a Thing」など、9曲の映画主題歌でアカデミー賞ノミネートされている。

 


Lady Gaga 2016 Till It Happens To You Oscar Performance 1

 

 


これらのアメリカーナ系やヒットポップス系作家やシンガーソングライター、そして、『Joanne』や『ARTPOP』などで組んだ気心知れたクリエイターによって、新しいガガの楽曲が生み出されている。
彼ら共作者について調べていくと、ガガが一つ一つの場面やストーリー展開の中で、楽曲で深みを与えている事が透けて見えてくる。

サントラ後半は、『ARTPOP』等と同じクリエイターたちと制作されているが、より洗練されたガガ的な“煽り”がない仕上がり。映画内のキャラクターを演じる事によって、エキセントリックな印象から逃れて、正統派のシンガー像を作り上げている。

 

 

 

Spoitfyプレイリストでまとめました

この記事内で紹介したルーカス・ネルソンやマーク・ロンソン、ジュリア・マイケルズ他のクリエイター作品や、これらの楽曲に繋がる関連楽曲と『アリー/スター誕生』のサントラをミックスしたプレイリストを作ってみたので、ぜひチェックしてみてほしい。

 

 

 

 

Dolby Atmosで体感する迫力のライブシーン

 

この作品は、立体音響作品としても強い印象を受けました。
IMAXや3D、4K、VR、ARなど、映像分野でテクノロジーが注目され、普及するが、「音」に関するイノベーションはまだまだ。
逆に伸びしろ、これから進化出来る分野でもあり、私もTECHS(https://techs.media/)のイベント活動やアーティスト・プロデュースでも、楽器や音響の進化にトライしています。KISSonix 3D,MI7


そんな中、出会った、この映画のDolby Atmosを使った音響は相当のインパクトでした。


A Star Is Born - LA Premiere Red Carpet | Dolby Cinema | Dolby


ライブシーンでの迫力、特にライブでの、主演二人の歌、ステージ上での会話、各楽器の音や客席側からの歓声が立体的で、まるで自分がステージ上にいるよう。
普通に配信された音源を聴いて確認しましたところ、繊細な歌や楽器の音質もすばらしいですが、劇場でのAtomosでの臨場感、迫力には驚きました。

今までAtomosで観た映画、アクション映画、SF映画もたしかにすごい迫力でしたが、さほど驚きを感じれませんでした。Atmosでなくてもこういったジャンルの映画の音響は十分に迫力があるのかもしれません。

しかし、今回の『アリー/スター誕生』は、これまで見た映画とは違う、音楽映画におけるAtmos、立体音響の本気の作品表現になっています。
次のシーンへと移り変わっていくのが惜しいぐらい、ずっと聴いていたいと思うほど刺激的な音楽体験。ぜひとも、Atmosの劇場でご自分の耳で体験して頂きたいです。

 

 

 

最後に、、

ここまで読んで頂きありがとうございました。
公開したらもう一度観て、また映画そのものについてレビューしてみたいと思っています。
プリンスの『パープルレイン』やホイットニー・ヒューストンの『ボディガード』のようなアーティストが主役を演じるヒット作、近年ヒットしているミュージカル的な映画『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト。ショーマン』などと並べてみるのもおもしろいでしょう。または、70年代テイストの女性映画の流れとして見ても面白いと感じています。

 

 最後に偉大なエンタテイナー、レディ・ガガスーパーボウルでの伝説のパフォーマンスも貼っておきましょう。

人の人生を変えるほどのパワーを持ったエンタテイメントです。


Lady Gaga - Pepsi Zero Sugar Super Bowl LI Halftime Show

 

 

 

Bonus Track:
「アーティストLADY GAGAはどのように登場したか?」

1986年生まれ。Stefani Joanne Angelina Germanottaは、19歳の時に“LADY GAGA”の名付け親であるプロデューサーRob Fusariと楽曲を制作し、各レコード会社に売り込む。デフ・ジャムと契約するも、リリース無く終了。ニューヨーク市の近郊のクラブでダンサーをしながら生計を立てた。GAGAのスタイル確立に多くのインスピレーションを与えたLady Starlightと共に多くのパフォーマンスを行った。
2007年、Fusariが友人であるインタースコープ・レコードのヴィンセント・ハーバートに、GAGAを紹介、ソングライター契約を結ぶ。同レーベルに所属するファーギーブリトニー・スピアーズ、プッシーキャット・ドールズ、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック、エイコンといった有名アーティストに楽曲を提供した。制作者として活動を続けていたときにエイコンがガガに歌手としての才能もあると認め、インタースコープ・ゲフィンA&MInterscope Geffen A&M代表ジミーアイヴォンJimmy Iovineに自身のレーベルコンライブとアーティスト契約を締結したいと伝え、契約が決定。

エイコンはガガについて、「類稀な存在」「ダイアモンドの原石」と表現している。
インタースコープのヴィンセント・ハーバートはイヴやネリーなどを手掛けるトロイ・カーターにマネージメントを依頼する。ソーシャルやデジタルテクノロジーに強いカーターの参加により強力なチームが完成した。

2008年ロスアンゼルスに、移動し、デビュー・アルバムの制作を音楽プロデューサーレッドワンと共に行う。1年ほどスタジオに籠って楽曲を制作。また、アンディ・ウォーホールをモデルとした彼女自身のクリエイティブ・チームHaus of GAGAを結成。

2008年8月19日デビューアルバム『The Fame』がリリースされ大ヒットを記録。次々とヒットを生み出している。